風邪をひいたときや病気になったとき、私たちは薬を服用します。薬には薬局で市販されているものから医師に処方してもらわないとならないものまで様々な種類がありますが、薬の種類や個々人の体質によっては、薬の成分によってアレルギー反応を起こしてしまい、皮膚に炎症が起きてしまうことがあります。これを薬疹といいます。今回は薬疹の基礎知識について、横浜市立大学附属病院皮膚科教授の相原道子先生にお話し頂きました。
薬には、主作用と副作用があります。主作用とは、その病気や症状に対して効果をもたらす、薬本来の働きです。たとえば、皮膚発疹にステロイド軟膏を塗ることで炎症が治まる、などが具体例として挙げられます。
副作用とは、その病気や症状に直接効果があるわけではない効き目のことで、別の症状があらわれてしまったり、眠くなったりと好ましくない働きかけをします。重い副作用が出る薬を服用することはそう多くはありませんが、体質によっては一般的に処方される薬でも強い副作用が生じてしまう可能性があります。
薬疹とは薬を内服、注射することで生じる発疹のことをいいます。通常、薬は重い副作用が出ないようにつくられていますが、体質によってごく一部の方は特定の薬に対して重篤なアレルギー反応を起こしてしまうことがあります。薬疹は、その薬に対して反応してしまう細胞や抗体を保有している方にのみ生じ、このようにアレルギーを起こしやすくなっている状態になることを薬に感作(かんさ)された状態といいます。
一般的に薬疹は、感作状態になるまで時間がかかり、服用開始後すぐに出るというわけではありません。しかし、一旦感作されてしまうと、即時型では15分~1時間で、遅延型であっても多くは数時間~1日で症状が現れます。
薬疹は軽度であればその薬を服用中止することで治まりますが、重症化してスティーヴンス―ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)、薬剤性過敏症症候群(DIHS)(詳細は記事4『スティーヴンス―ジョンソン症候群と中毒性表皮壊死症、薬剤性過敏症症候群―重症薬疹とは』)になってしまうと、集中的な治療が必要になります。
薬疹の多くはアレルギー反応によるものです。薬によって免疫システムが誤作動を起こし、有害な反応を及ぼします。他のアレルギー反応と同様、原因物質の量に依存しないため、アレルギー反応の重症度において、服用した薬の量との相関関係がありません。つまり、薬に対してアレルギーを持っている方は、ほんの少しの量でも薬でアレルギーを起こしてしまうということです。
薬に対するアレルギー反応は軽症なものから重篤なものまで幅広く、命に危険が及ぶほど重症化してしまう可能性もあります。
薬へのアレルギーは、以前は症状が出なかったのに突然アレルギーを起こしてしまうケースがあるため、予測が難しいといわれます。また、過去に出たアレルギーは軽症でも次第に重症になることがあるため、新たな薬を処方する場合、医師は患者さんに対して、過去に薬の摂取時に何らかのアレルギー症状が無かったか尋ねることを心がけています。
薬疹を起こす可能性がゼロの薬は存在しませんが、比較的起こりやすい薬と起こりにくい薬があります。薬疹が起こりやすい薬剤としては以下のものが考えられています。
・ペニシリンなどの抗菌薬
・解熱鎮痛薬や感冒薬(いわゆる風邪薬)
・抗けいれん薬などの神経薬
・造影剤
薬疹の診断には、薬の内服開始時から発疹・発熱出現までの経過(時間的関係)をよくみていくことが重要です。一般的に、新しい薬を服用中、あるいは使用後に突然発疹が生じた場合は薬疹を疑います。さらに、服用中止で発疹が治まる場合は薬疹の可能性が高まります。
その他、発症までの期間が数週間~数カ月に及ぶものもあります。