大人の場合、消化器内視鏡検査は健康診断でも行うくらい身近な検査です。しかし子どもが内視鏡検査を行うというとなかなかイメージが湧かないかもしれません。子どもにも腹痛、下痢、嘔吐など消化器に関するトラブルは数多くあり、近年では内視鏡検査機器の開発とともに小児消化器内視鏡検査を実施できる施設も増えてきています。今回は、年間平均400件ほどの小児消化器内視鏡検査を行っている東京都立小児総合医療センターで消化器科 医長を務める細井 賢二先生にお話を伺いました。
小児消化器科は、食道・胃・小腸・大腸・肝臓・膵臓・胆嚢といった消化器の病気に対応する専門診療科です。嘔吐や腹痛、下痢、便秘など子どもによくみられる消化器症状のみならず、血便や黄疸(血中のビリルビン量が増加して皮膚や目が黄色くなること)などの症状や、異物誤飲の処置にも幅広く対応します。ただし、これらの消化器症状の原因の中には、神経疾患や内分泌疾患など消化器疾患以外の病気が原因となっている可能性もあります。その際は各専門科や病院に診療を依頼し、適切な診療科による診療が必要となります。
便秘症や過敏性腸症候群(慢性下痢症や反復性腹痛をきたす病気)などの患者数が多い病気に対しても、専門的な知識を習得した小児消化器科医が対応することで、不要な検査を省くことや多様化するニーズに対応した治療の選択肢を提供し、検査・治療を適切に行うことができます。また、近年では難病に指定され希少疾患とされている潰瘍性大腸炎やクローン病、好酸球性消化管疾患なども大人のみならず子どもにおいても患者数が増加傾向にあります。このような疾患においては専門性の高い医療が必要であり、専門的知識を習得した小児消化器科医が診療するべきだと考えます。発達段階に合わせて、お子さんに病気の理解を深めてもらうことや、学校生活や部活動に配慮し治療方針を決定することも必要であり、個々の特性に合わせた医療を提供するという点において、小児消化器科医が対応する利点は大きいと考えます。
消化器内視鏡検査とは、食道・胃・小腸・大腸などの消化管の内側(粘膜)を観察・治療する際に行われる検査・処置になります。そのほかにも胆・膵内視鏡(詳細はこちらのページを参照ください)や超音波内視鏡(消化管の中から超音波を用いて検査する内視鏡)など医療機器によって検査内容や処置が異なります。近年では、内視鏡スコープの細径化が進み、必要であれば赤ちゃんでも内視鏡検査を受けることができます。ただし、体が小さいお子さんの場合、安全に検査・処置を行うために全身麻酔下*もしくは鎮静下で行うなど検査の実施体制については慎重に検討しなければなりません。全身麻酔下や鎮静下で行うことで、お子さんの不安やストレスが軽減されるだけでなく、定期的に内視鏡検査が必要となる慢性疾患における内視鏡検査への抵抗感を軽減することが期待されます。
*麻酔科標榜医:西部 伸一(にしべ しんいち)先生
当院では、お子さんにも検査内容を理解してもらい、不安やストレスを少しでも軽減する目的で、絵や人形などを使用したデモンストレーションを行っています。お子さんにとっては、病院に来ることや検査を受けることだけでも多大なストレスがかかるため、検査当日に何をされるのかをしっかりと理解して臨むことができれば安心感につながることと思います。これらの取り組みはお子さんにとっては重要な取り組みと考えています。
私たちは一般的な知識や専門性の高い検査・治療でも分かりやすい説明を心がけていますので、不安なことがある場合などは紹介状をお持ちのうえ、当院の消化器科へご相談ください。
また、お子さんが内視鏡検査を受けることは、ご家族も強い不安を感じますし、消化器を専門としていない小児科医や成人の消化器内科の医師であっても、体格が小さいことなどから、小児内視鏡検査・処置を躊躇することがあります。地域によってはお子さんに対して内視鏡検査を行う体制が十分でない地域もあります。子どもに対する内視鏡検査が実施できない病院もあることから、内視鏡検査が必要となる原因不明の血便や慢性下痢などの症状に対しても検査が遅れてしまうことがあります。
多くの子どもの健康に貢献するため、小児消化器疾患を専門とする医師の育成、小児内視鏡検査の実施体制の確立を目指し、1人でも多くの消化器の病気で苦しんでいるお子さんに元気になってもらえるよう日々の診療・教育・研究にまい進していきたいと考えています。