2021年10月頃から、欧米を中心に原因不明の子どもの急性肝炎の報告が相次ぎ、日本でも報告がありました。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていたなかで、人類が感染症に注目していた時期でもあり、ニュースとなったのを覚えている方も多いと思います。
子どもでも、肝臓や胆嚢、膵臓の病気(肝胆膵疾患)になることがあります。大人とは違った理由で病気にかかることが多く、時に重症化することもあるため、普段からこどもの肝胆膵疾患を診ている小児科医・小児外科医が対応することが望ましいと考えられています。今回は、東京都立小児総合医療センター 消化器科の矢部 清晃先生に肝胆膵疾患と胆・膵疾患を対象とした内視鏡検査(胆膵内視鏡検査)の詳細について伺いました。
肝臓がダメージを受ける肝障害は急性肝障害と慢性肝障害に分けられ、子どもではその原因が多岐にわたります。急性肝障害は、肝炎ウイルスによるB型肝炎・C型肝炎や、サイトメガロウイルスなどが原因となるウイルス性肝炎が代表的です。前述した原因不明の肝炎も、アデノウイルスの関与が疑われています。ほかにも、解熱薬や抗生物質などの服用に伴う薬物性肝障害や、自己免疫システムが関与する自己免疫性肝炎などが急性肝障害に含まれます。診療において特に重要なことは、肝臓のはたらきが著しく損なわれる急性肝不全に進行しないかを適切に見極めることです。急性肝不全に対する治療では救命のために肝移植が必要となることもあります。当科では集中治療科とも連携し、急性肝不全に対して肝臓の保護と全身管理を行っておりますが、肝移植が必要となる場合は、移植を行う施設と速やかにコンタクトを取り救命に努めております。
慢性肝障害も原因はさまざまであり、ウイルスの持続感染に伴う肝障害や、食生活の欧米化に伴う脂肪肝を原因とする肝障害、代謝異常に伴う肝障害などが挙げられます。慢性肝障害を放置しておくと徐々に肝臓が硬くなり(線維化)、肝臓の機能が低下し肝硬変に陥ります。
線維化を防ぐには、慢性肝障害の原因を早期に特定して治療を行うことが重要です。当院では、血液・尿検査や画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査)に加えて、外科とも連携し、肝臓の細胞を顕微鏡で観察するために肝生検(肝臓の一部を採取すること)を行い、慢性肝障害の原因を正確に診断できるよう努めております。
肝細胞によってつくられた胆汁は、胆管を通り十二指腸に流れますが、その過程で胆汁の流れが滞ることを“胆汁うっ滞”と呼びます。皮膚や目の色が黄色くなり便の色が白っぽくなる黄疸は胆汁うっ滞の症状の1つであり、新生児・乳児期に黄疸がみられる場合は注意が必要です。
新生児期・乳児期に胆汁うっ滞を起こす病気には、早期に手術が必要となる胆道閉鎖症と呼ばれる病気から、アラジール症候群など遺伝性の病気までさまざまな病気が含まれます。胆汁うっ滞の状態が続くと肝細胞に慢性的な障害を起こすため、適切に対処しなければ、命に関わることもあります。子どもの胆汁うっ滞を早期に発見するためには、母子健康手帳に掲載されている便色カラーカードの活用が有効です。便の色が薄い場合はすぐに小児科医に相談してください。
当院は、「小児期発症の胆汁うっ滞性肝疾患を対象とした多施設前向きレジストリ研究」、通称CIRCLeと呼ばれる全国規模の研究に参加しています。研究では、胆汁うっ滞がある患者さんの血液や尿、胆汁、肝組織などの生体情報を解析することで正確な診断につなげるだけでなく、将来的には新しい診断法や治療法の開発につながる可能性もあります。
大人では、胆石や膵炎などの病気は、脂っこいものを好んで食べたり、お酒を飲み過ぎたりした場合に発症することが多いですが、子どもでも発症することがあります。子どもの場合は発症の背景にほかの病気が隠れていることがあるため注意が必要です。
胆・膵の病気の中には、内視鏡検査によって診断や治療が行える病気があります。胆膵内視鏡検査は、外科的にメスでお腹を開いて行う手術よりも低侵襲である(体へのダメージが少ない)ことがメリットです。しかし、胆膵内視鏡検査ができる小児科医・小児外科医は限られているのが実情です。そのため、大人の患者さんを対象に内視鏡検査を行っている消化器内科医が、子どもの胆膵内視鏡検査に対応せざるを得ず、子どもの検査に慣れていないとの理由で検査が躊躇されることがあります。当院では、子どもを専門に内視鏡検査を行っている医師が修練を積んだうえで、胆膵内視鏡検査を安全に配慮して行っております。胆膵内視鏡検査では胃カメラや大腸カメラよりも太いスコープ(約13mm)を使用しており、検査時間も長い傾向にあります(当院の場合、30分~1時間程度)。体格の小さな子どもの場合、鎮静下(鎮静薬により、ぼーっとした状態)ではスコープにより空気の通り道(気道)が押されることでふさがれてしまうため、麻酔科医による全身麻酔*で確実に気道を確保(気管挿管)したうえで検査を行うことが安全と考えております。
高齢者に多い総胆管結石**は、子どもでも発症することがあります。当院では内視鏡を挿入して胆管の出口を広げ、結石を除去するか、ステントと呼ばれるプラスチックの筒を胆管内に入れ胆汁の流れをよくする内視鏡治療を行っています。
また、繰り返す子どもの膵炎の中には、胆管や膵管の解剖学的な異常が原因のものがあります。MRIを用いて胆管や膵管を描出するMRCPという検査でも診断は可能ですが、子どもでは胆管や膵管が細く、画質の限界から描出できないことがあります。そこで当院では、細かい胆管・膵管まで描出できる内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を用いて病気の診断に努めています。ほかにも、交通事故などの外傷により膵管の一部が裂ける膵損傷では、内視鏡を用いて裂けた部分をカバーするようにチューブを膵管内にしばらく置いておくことで損傷部の修復が期待できます。
*麻酔科標榜医:西部 伸一先生
**総胆管結石:胆管の出口に結石が詰まり、腹痛や発熱を引き起こす病気。
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東京都立小児総合医療センター 消化器科 医員
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