インタビュー

胆道がんはなぜ難しいがんなのか?高難易度手術を成功させるための条件とは

胆道がんはなぜ難しいがんなのか?高難易度手術を成功させるための条件とは
宮崎 勝 先生

国際医療福祉大学 副学長、国際医療福祉大学 教授、国際医療福祉大学成田病院 院長、国際医療福祉...

宮崎 勝 先生

この記事の最終更新は2016年12月12日です。

胆道がんは早期発見が難しいため進行した状態で見つかることが多く、治療が難しいといわれます。画像診断技術が大きく発達した今日でも早期発見が難しい理由はどこにあるのでしょうか。また、難易度が高い胆道がん切除の手術成績を向上させるには、今後どのようなことが求められるのでしょうか。日本肝胆膵外科学会名誉理事長であり、胆道癌診療ガイドライン作成委員会委員長を務める肝胆膵外科の第一人者、国際医療福祉大学副学長の宮崎勝先生にお話をうかがいました。

記事1「胆道がんとは?治療が難しい胆道がんに対する外科手術の進歩」で述べたようにCTやMRIなどの画像診断技術が向上し、診断法が進歩したにもかかわらず、がんが早期に見つからないのはなぜかというと、この領域のがんが早期では無症状だからです。たとえば、少しお腹が痛くて病院に行っただけでいきなりCTやMRIを撮ってもらうことはありませんし、自覚症状がなければなおさらです。

しかも胆道がんを見つけるためには普通のCTでは十分とはいえません。thin sliceと呼ばれるスライス幅の狭いCTでなければミリ単位のがんは見つからないからです。たとえば胆管がんはそのほとんどが十数ミリというレベルですが、それにもかかわらず大きな手術をしなければきちんと取ることができません。

もちろん今はミリ単位でスライスできる技術が確立されているのですが、それを検診ですべての人に実施できるわけではありません。費用対効果の面で現実的ではありませんし、被曝の問題もあるため、大多数の方にとって不要なこうした検査を広く行うことはできないのです。そのために無症状のまま、ある程度病気が進んできてしまうというのが、胆道がん・膵臓がんなどの領域の特徴となっています。

したがって、ステージが進んでもがんを何とかコントロールしていかなければなりません。残念ながらこの領域において、すべての患者さんをステージが早いうちに診断できるようになるということはありえません。それは胆道や膵臓が表在臓器ではなく深部臓器、つまり体の表面に近いところではなく、深いところにあるという解剖学的特異性によるものです。

胃がん検診」や「大腸がん検診」などはあっても、「胆道がん検診」や「膵臓がん検診」というものは行われません。それはコストに見合う効果がないからです。もしもがん診断につながる指標、いわゆるバイオマーカーがあればそれが診断のひとつのブレイクスルーになる可能性はあります。もちろん現在はまだ見つかっていませんが、研究は今もさかんに行われています。それは内科医・外科医を問わず、また基礎研究者に限ったことでもありません。私たち外科医はがん組織の標本を得る機会が多く、そういった研究にも好んで取り組むというところがあります。特に研究機関の外科医たちは熱心に研究を行っています。

胆道がんでは胆汁の流れ道にできる腫瘍が多いので、黄疸(おうだん)が主症状となります。胆汁の貯蔵庫である胆のうにできるがんは黄疸がない状態で見つかることが多いのですが、それ以外は黄疸で見つかることが多いといえます。黄疸にはいくつかの種類がありますが、胆道がんでは胆管が詰まって胆汁の流れがせき止められることによって黄疸が起こります。これを閉塞性黄疸といいます。

胆管の太さは8mm程度ですが、がんは胆管の内腔だけで大きくなるわけではないので、胆管が完全に詰まった段階ではおよそ2cmの大きさになっています。しかも、胆管が完全に詰まっていなくて少しでも胆汁が流れていれば黄疸にはなりませんし、痛みも熱も出ません。ですから、黄疸が出た段階ではすでにステージIII以上であることが多くなります。ちなみに、痛みのない黄疸ほど危ないといわれるのは、痛みがあって黄疸が出ている場合は胆石であることが多いからです。

がんの診断につながるバイオマーカーが見つかるのはまだ未来の話ですが、実は検診で調べるような項目の中に、胆汁の流れが悪いことを示す手がかりがあります。それはアルカリホスファターゼ(ALP)やγ-GTP(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)というもので、そこから早期胆管がんが見つかることは少なくありません。これらはマーカーといっても腫瘍マーカーではなく、検診の中では肝機能の指標とされる項目です。したがって、異常値が出ていれば必ず指摘されます。検診ではこれらの値が正常範囲外だからといって、何をしなさいという指示があるわけではありませんが、そのときに専門医を受診して造影CTを撮っていれば早期に見つかる可能性がありますし、実際にそれでがんが見つかる方はいらっしゃいます。

検診レベルでのひとつの検査の異常値からどんな病気が考えられるかという話は、一般の方を脅かすようなことになってはいけませんので難しいところです。しかし、専門医の立場から申し上げると、やはり胆道がんに関してはそういう可能性があるということを知っておいていただいたほうが良いのではないかと考えます。検診で受診者全員の造影CTを撮ることができない以上、現時点では無症状の早期のうちに対象者を絞り込もうとすると、マーカーとしてはこのようなものしか使えるものがないというのが実際のところです。

実際に黄疸が出ている患者さんを治療する際には、まず黄疸の症状を取ってから抗がん剤治療や手術をすることになります。黄疸を治すための処置はドレナージといって、従来は体の外から経皮的にチューブを挿すことが多かったのですが、現在は内視鏡的にチューブを入れるという方法に変わってきています。

多くの場合はこの内視鏡的な方法でドレナージを行いますが、患者さんによってうまくいかないときには外瘻(がいろう)といって、従来通りに皮膚の上からドレナージするという方法を使うことがあります。患者さんにとっては体の表面から針を刺してチューブを入れるのではなく、内視鏡で入れることで負担も軽減し、処置を行っている期間の生活の質はずいぶん向上したといえるでしょう。

1990年代の終わりから2000年前後にかけて、外科医個人の経験症例数(surgeon volume)や施設全体の経験症例数(hospital volume)の多少によって合併症例に差があるかどうかを検証した論文が多く発表されました。このころは特にイギリスのNHS(National Health Service:国民保健サービス)で医療事故が問題となり、アメリカでも同じような問題があった時期でした。それが契機となって臨床外科医たちがそういうデータを出すようになったのです。

その結果、年間10例でも100例でも差がないような手術手技がある一方で、10例・50例・100例のそれぞれを比較すると明確な差が出るものがあることがわかってきました。たとえば心臓でいえば冠動脈のバイパス手術がそうです。医師比較(surgeon volume)と施設比較(hospital volume)をそれぞれみていくと、施設全体の経験症例数は個人の能力以上に大きく差が出ています。

手術の種類でいえば、肝胆膵の領域は圧倒的に難しい手術になります。しかし胃切除、大腸切除になると50例でも100例でも問題が少なく、それほど差が出ません。肺がんも同様の傾向があります。大きく差が出るのは心臓の中でも冠動脈バイパス手術であり、膵臓では膵頭十二指腸切除、肝臓では肝葉切除などです。そして胆道がんの手術でも同じように症例数によって如実に差が出るということがわかってきたのです。

このように、客観的にみて難しい手術である肝胆膵領域において、どのようにそれを教育するかという問題があります。私たちもいつまでも第一線で手術ができるわけではありませんから、いかにそれを教育していくかということになると、やはり専門施設で若い医師をトレーニングしていくしかありません。しかし、年間10例しか行っていない施設でトレーニングをしても患者さんのリスクが増えるだけということも考えられます。中長期的に次の世代を育てようとしたとき、施設の症例が多いところへ集約していったほうが効率良く安全にトレーニングができるのではないでしょうか。そういったことから当然ハイボリューム化という考え方が出てきます。

そうすると韓国のように、中小規模の病院でも安全にできる手術とそうでない手術というものが区別されるようになるでしょう。そこでひとつ問題になるのは、ハイボリュームセンターでトレーニングをして何百例も経験してきた医師が中小病院に行ったときにも安全に手術ができるかどうかということです。このことについてはまだ検証されていませんが、基本的には大丈夫なはずです。

しかしながら、外科医療は術後管理も含むトータルなものですから、バックアップのスタッフやチームとしての体制がうまく機能しているかどうかというところも重要です。その点ではやはり施設での症例数、hospital volumeが大きく影響する可能性があると考えます。

難しい手術こそ、きちんと医師を育てるという姿勢をとる必要がありますし、そういう人たちがいてある程度安全に手術ができる施設はどこなのかということを示していかなければなりません。そのために日本肝胆膵外科学会では、高度技能専門医・高度技能指導医を認定し、その医師が指導する施設についても修練施設という形で認定しています。しかも一度クリアすればそれでよいということではなく、もしも問題があるとわかった場合には認定を取り消してホームページ上にも掲載します。

*参考リンク:日本肝胆膵外科学会

今の専門医制度は、専門医があまりにも多すぎてどの医師が本当に高難度手術を安全に行えるのかがわかりづらい面があります。どこでも比較的安心して受けられる手術とそうでないものを明確にすることで、患者さんも安心して無理をせず近くの病院で手術を受けられるようになります。また提供する医療の内容によって病院の役割は当然違ってくるので、厚生労働省の考え方にも一致するのではないかと考えます。ひと言で外科手術といっても、今やそれだけ細分化され、各々の手術手技に差があるということなのです。

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  • 国際医療福祉大学 副学長、国際医療福祉大学 教授、国際医療福祉大学成田病院 院長、国際医療福祉大学三田病院 前病院長

    宮崎 勝 先生

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