胆道がんは外科手術によってのみ根治が可能ですが、がんが進行すると切除不能と診断される場合があります。
胆道がんの術前化学療法は、進行したがんに抗がん剤を使用することでがんを小さくし、外科手術で切除可能にするという治療法で、横浜市立大学、東北大学、東京女子医科大学、慶應義塾大学、大阪府立成人病センターで実施されています。
切除不能と診断された胆道がんをどのようにして切除できる大きさにしていくのでしょうか。引き続き、横浜市立大学大学院 医学研究科 消化器・腫瘍外科学講座 教授 遠藤格先生にお話を伺いました。
がん治療の三本柱は外科手術、化学療法、放射線療法ですが、胆道がんで根治が期待できる治療法は外科手術のみです。しかし、胆道がんの外科手術には高度な技術が必要であるため施設によって適応基準が異なる場合があります。
また、がんが進行していたり、リンパ節などに転移がみられたりすると、化学療法を行うこともありますが、他のがんに比べると治療成績は悪く、あまり効果がないといわれています。
手術適応となった場合、まず正確な診断を行い、手術方法を決定します。胆道がんは、がんのある場所や広がりによって手術方法が大きく異なるからです。手術の前にはドレナージを行い、胆汁を体外に排出します。
胆道ドレナージには、主に内視鏡的経鼻胆道ドレナージ、経皮経管胆道ドレナージ、胆道ステントの3種類があります。
内視鏡を使って鼻と胆管をつなぎ、胆汁を体外に排出します。
皮膚から肝臓にチューブを挿入し、胆管から体外へ胆汁を排出します。
ステントと呼ばれる筒状の管を胆管に留置し、胆汁を胆管から十二指腸へ排出します。最近では超音波内視鏡を用いて胃から胆道にチューブを入れることもできるようになりました。
胆道がんは放射線に対する感受性(放射線による影響の受け方の度合い)が弱いため、放射線療法のみで根治を目指すことは困難です。しかし、手術で切除できない場合や、術後の再発で局所にとどまっている場合など、がんの状態に応じて放射線療法が行われることがあります。
胆道がんの治療において、化学療法はあまり効果がないといわれていましたが、TS-1とゲムシタビンという抗がん剤を併用すると、ある程度効果があることが最近わかってきました。
さらにアメリカでは、膵臓がんの術前に化学療法と放射線療法を行った症例の治療成績が向上した報告があったため、これを参考に、胆道がんの術前化学療法の臨床研究が始まりました。
胆道がんの術前化学療法は、手術を行っても再発の可能性が高い患者さんが対象です。
リンパ節への転移や血管浸潤がみられない患者さんは、基本的には術前化学療法の対象にはなりません。
術前化学療法では、まず手術だけでは再発のおそれがある患者さんを対象に9週間抗がん剤治療を行います。
胆道がんの術前化学療法で使われる抗がん剤は、内服薬のTS-1と点滴薬のゲムシタビンです。
TS-1は2週間連続で投与し、1週間休薬します。この3週サイクルを繰り返し、サイクルの8日目と15日目にゲムシタビンの点滴を行います。
2か月近く化学療法を行った後は1か月間ほど体を休めてから手術を行います。なぜなら、抗がん剤の副作用で骨髄抑制や肝臓へのダメージが起こるためです。骨髄抑制とは赤血球や白血球、血小板の数が減少し、骨髄の働きが低下することで、抗がん剤でよく起こる副作用のひとつです。骨髄抑制が起こると、免疫低下による感染が引き起こされることが危惧され、肝臓にダメージがあるまま手術をすると肝臓の再生に影響を及ぼす可能性があるため、患者さんの体の回復を待ってから手術を行います。
もちろん切除不能と診断されたすべての患者さんが、術前化学療法によって手術可能になるわけではありません。また手術に持ち込めたとしても、開腹してから転移がみつかり切除できない場合もあります。
しかし、術前化学療法によってもともと切除不能だった状態から手術が可能になり切除を行った場合と、通常の胆道がん切除後の予後はほとんど変わらないことが明らかになっています。
術前化学療法の副作用として、骨髄抑制(赤血球・白血球・血小板の数が減少する)や皮膚障害(発疹や色素沈着、皮膚の乾燥など)、食欲低下、吐き気、口内炎などが挙げられますが、手術ができなくなるほどの副作用が出るというケースは少ないです。
また、化学療法と手術を組み合わせることで合併症が増えるのではないかと心配される方もなかにはいらっしゃいますが、術前化学療法を行った場合とそうでない場合で、合併症が起こる確率はほとんど変わらないというデータが出ています。
術前化学療法を行っている2~3か月間で胆管炎を起こす可能性があるので、消化器内科とうまく連携がとれるような体制が施設に整っている必要があります。
そのため現在、術前化学療法を臨床研究として実施している施設は、東北大学、東京女子医科大学、慶應義塾大学、大阪府立成人病センター、そして横浜市立大学のみです。(2017年8月現在)
術前化学療法があまり普及していない原因には、使用する抗がん剤の効力が弱いと認識されており、進行しているがんの治療に対して効果があまり期待されていない点が挙げられます。
今後、より強力な抗がん剤が登場すれば、さらに多くの患者さんのがんを切除できるようになり、胆道がんの治療成績が上がるのではないかと考えています。
胆道がんに対する治療法は医師によって考え方が違うため、積極的にセカンドオピニオンを受けてください。また、手術適応の判断基準は施設によっても異なりますし、症例数が多い施設ほど手術の成績がいいというデータがあります。胆道がんと診断されたら、多くの患者さんをみている専門の医師に治療法を相談してください。
横浜市立大学 大学院 医学研究科 消化器・腫瘍外科学 教授
横浜市立大学 大学院 医学研究科 消化器・腫瘍外科学 教授
日本外科学会 外科認定医・外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科認定医・消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本肝胆膵外科学会 肝胆膵外科高度技能指導医日本臨床腫瘍学会 暫定指導医
肝臓移植や胆道がん・膵臓がんなど肝胆膵疾患のスペシャリスト。
横浜市立大学を卒業後、第二外科に入局。帝京大学溝口病院、横浜市立大学附属病院などで臨床経験を積み、二度の米国留学を経て、2009年に横浜市立大学大学院 消化器・腫瘍外科学講座主任教授に就任。手術前に化学療法を行うことで腫瘍を縮小させ、切除する術前化学療法を行う。
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