インタビュー

胆道がんとは?治療が難しい胆道がんに対する外科手術の進歩

胆道がんとは?治療が難しい胆道がんに対する外科手術の進歩
宮崎 勝 先生

国際医療福祉大学 副学長、国際医療福祉大学 教授、国際医療福祉大学成田病院 院長、国際医療福祉...

宮崎 勝 先生

この記事の最終更新は2016年12月10日です。

「胆道(たんどう)」というのは一般の方にはなじみの薄い言葉ですが、「胆管(たんかん)がん」などの病名は昨今、著名な方の罹患例が報道されたことによって一般の方にも知られるようになってきました。その胆管も実は胆道の一部分なのです。胆道にできるがんは進行した状態で見つかることが多く、治療が難しいといわれます。その胆道がんに対する外科治療はどのように進歩してきたのでしょうか。日本肝胆膵外科学会名誉理事長であり、胆道癌診療ガイドライン作成委員会委員長を務める肝胆膵外科の第一人者、国際医療福祉大学副学長の宮崎勝先生にお話をうかがいました。

肝臓で作られる消化液である胆汁(たんじゅう)は、胆管を通って十二指腸(じゅうにしちょう)へ送られます。胆管は肝臓の中を通っている部分を肝内胆管といい、それが肝臓の外へ出て行くと肝外胆管と呼ばれます。途中にぶら下がっている胆のうは胆汁を蓄えておく貯蔵庫の役割を果たしています。胆管は膵臓(すいぞう)の中を通って十二指腸に達しますが、その出口の部分には乳頭部(にゅうとうぶ)という名前がついています。

胆道とは
胆道(たんどう)とは

これらの胆汁の流れ道や胆汁を作っているところをすべて合わせて「胆道」といいます。がん診療ガイドラインやがん取扱い規約においても、その部分を胆道という言葉で総称するというのが医学的な分類になっています。

胆道がんの発生部位は次の4つに大きく分けることができます

  • 肝内胆管
  • 肝外胆管
  • 胆のう
  • 十二指腸乳頭部

この4つの部位にできるがんはそれぞれ少しずつ性質が異なります。単に発生部位が違うという解剖学的な特徴だけではなく、がんの性質、つまり遺伝子の変化にも違いがあるということがわかってきています。したがって、がんの治療成績もその部位によってかなり異なります。

しかし、これらの胆道がんに共通しているのは「外科切除が唯一の根治的治療である」ということです。胆道のどの部分にできたがんであっても、そのことに変わりはありません。主たる治療として第一に考えるべきは外科治療であり、それだけに外科医の果たす役割が非常に大きい領域であるといえます。

抗がん剤や分子標的薬などによる化学療法という選択肢もないわけではありませんが、残念ながら今の時点では、胃がん大腸がんなど他の消化器がんに比べると効果がよくなく、乳がん肺がんなどと比べても圧倒的に悪いというのが実際のところです。

しかし新たなデータが出てきたことにより、あまり効かないとされる化学療法の中にも、ある程度効果が期待できる薬の組み合わせがあることがわかってきました。胆道癌診療ガイドライン第1版を作成した2007年の時点では、推奨される化学療法はゲムシタビンとTS-1のみしかありませんでしたが、2014年改定の第2版ではGC療法と呼ばれるゲムシタビン-シスプラチン併用化学療法がスタンダードなファーストラインとして推奨されるようになりました。

このガイドラインで推奨される化学療法はあくまでも切除後、もしくはがんが進行して切除ができない患者さんに対して用いるというレベルです。しかし、切除不能であったがんであっても、抗がん剤を使うことによって切除ができるぐらいまでがんが小さくなるという症例がここ1~2年、世界中で報告されてきています。

これはダウンステージングもしくはダウンサイジングといって、がんのステージは変わらなくても腫瘍が小さくなることによって外科的な切除が可能になるということです。ここ数年でようやくそのことが実証され、抗がん剤を使ったことによる恩恵が得られ、患者さんに寄与できるようになってきました。

胆道がんを根本的に治すにはがんを切除するしかありません。しかしがんが進みすぎているため、診断がついたときにはもう切除不能な患者さんもおられます。そのような患者さんに対しても抗がん剤で切除可能なレベルまでがんのステージを引きずり下ろして、その段階で手術をするという新しい方法が出てきたというのが最近の大きな進歩です。

私たち外科医としては、抗がん剤による化学療法など他の治療手段を応用することも行っていますが、やはり一番に行うべきことは手術です。胆道がんは手術がもっとも大きな役割を果たす領域ですから、1人でも多くの患者さんを手術の適応とする、つまり手術でがんを切除できるように持っていくことが大切です。

胆道がんを切除できない理由としてもっとも多いのは血管浸潤(けっかんしんじゅん)といって、胆管のすぐそばにある重要な血管にがんが食い込むことです。これをなんとか手術で切除するために、私たちは血管合併切除ということを行ってきました。

こうした手術手技の工夫を重ね、まず理論的に切除が可能な手術プランを立てます。しかし理論だけで終わるのではなく、実際に手術を行うことができ、危険なく患者さん治すことができる手技として確立するということが重要です。それは1990年代から2000年代、さらには2010年代にかけてこの領域がもっとも進歩してきた部分であり、私自身がもっとも力を注いできたことのひとつでもあります。

CT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)やMRI(Magnetic Resonance Image:核磁気共鳴画像)などの画像診断に関しては、1980年以前にはまだ非常に質の低い画像しか得られませんでした。ところが1990年代になると技術革新が進み、CTやMRIが大きく向上しました。それが2000年代に入るとさらに飛躍的に良くなったのです。

そのことによって、体の中の細かな血管と腫瘍との関係が読めるようになってきました。これは特に肝臓がん膵臓がん・胆道がんでは非常に大きなことです。今ではかなり正確に、ミリ単位でがんと血管との関係が読める時代に入ってきたといえます。

昔は血管造影という方法もありましたが、今では術前に用いられることはほとんどなくなりました。それは単に患者さんにとって負担のある検査だから行われなくなったということではありません。血管造影というのは血管だけを映しだすものであり、臓器は見えません。ところがCTやMRIは血管も臓器も全部映しだすことができるので、がんとの関係がよくわかります。以前は血管だけを映して血管浸潤の状態を読んでいたものが、血管も臓器もすべてをとらえて、血管への食い込み方などを見ることができるようになってきたのです。これは診断能力としてまったく次元が違うものです。

昔はお腹を開けてみて初めて切除不能だということがわかるという症例も少なくありませんでした。今はそういうことがなくなったとまではいいませんが、ずいぶん少なくなってきています。それとともに、血管とがんの関係が明白にわかるようになったことで、手術のプランを立てることができるようになりました。術前にプランが立てられるということになると、外科医はどのような工夫をすればがんが取れるようになるかと考えるようになります。

たとえば血管同士をつなぎ変えればうまくいくのではないかというように、今まではありえなかった方法でがんを取るプランを立て、それにはどうすれば良いか、血管移植をどう行うかというようなことまで考えていきます。そしてそれを安全に行えるようなトレーニングをしたのちに、実際の患者さんで適応してがんを取ってきたのです。その結果が現在の胆道がんの外科治療の進歩につながり、手術成績の向上をもたらしました。

抗がん剤による術前の化学療法は、がんを少し小さくすることでステージが高いものを下げる、つまりがんそのものを動かすことによって切除可能な領域に持って行きます。一方で手術手技の向上というのは、がんはそのままであっても手技が以前より進歩して優位性を増すことによって、がんを制圧しようというものです。その両方を組み合わせれば、手術の適応をより広げていくことが可能になります。

胆道がんは、そのほとんどが局所の病変であるという点が非常に重要です。胆道がんにも転移はありますが、転移するペースが速くなるのは、がんが相当に進んでからであることが多いのです。ところが膵臓がんなど他のがん種の場合は、悪質ながんほど早いうちに転移が起こるという傾向があります。

胆道がんは局所にとどまったまま大きくなるため、進行してステージが高くなっても外科切除の役割が大きいがんであるという特徴があります。ですから、ひと口にがんといっても種類によってそれぞれに違いがあるということが重要です。

たとえば膵臓がんは早いうちから転移しやすく、たちの悪いがんの代表例といわれますが、同じ膵臓がんでも患者さん一人ひとり、がんの1個1個でタイプが違うことがあります。膵臓がんの中にもいろいろながんがあり、全部がステージIなど早期のうちからさかんに転移を起しているわけではないのです。

たしかにステージIのうちから転移する症例が他のがん種に比べて多いことは事実ですが、ステージIVでもまだ転移していないという膵臓がんもたくさんあります。そういう症例に対して私たちは、まず1回目はステージIVの膵臓がんを手術で取り、2~3年経って残った膵臓に局所再発したがんをまた手術して取るということを繰り返して治療成績を上げてきました。

胆道がんや膵臓がんという括りでいえば、胆道がんとはこういうものであり、膵臓がんはこういうものですというように、それぞれに代表的な特徴をとらえた話にならざるを得ないのですが、実際のがんは一人ひとり、ひとつずつ違うのです。

たとえばある共通する特徴を持っている症例が8割を占めていたとしても、それが当てはまらないものは2割あるということになります。患者さん個人にとっては、このがんの8割はこうですよと言ってもあまり意味がありません。目の前の患者さんはどのタイプのがんなのか、それを見極めるのが臨床医の一番大事な役割です。代表的な症例とは異なる2割の方たちをどう治療していくかということを考えれば、当然標準的な治療とはまったく違ってくるはずであり、私はそこが一番大事なところではないかと考えます。

特に胆道がんのように、進行しても局所にとどまっていることが多いタイプのがんにおいては、外科医は外科手術で患者さんに貢献するということを簡単にあきらめてはならないと考えます。また、それと同時に患者さんにもあきらめないで治療に向き合っていただきたいと考えます。

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  • 国際医療福祉大学 副学長、国際医療福祉大学 教授、国際医療福祉大学成田病院 院長、国際医療福祉大学三田病院 前病院長

    宮崎 勝 先生

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