独立行政法人国立病院機構四国こどもとおとなの医療センターは、2013年5月に「善通寺病院」と「香川小児病院」が統合し、設立された総合病院です。
新生児から成人まで、患者さんのライフステージに寄り添った医療の提供を目指す同院では、どのような取り組みを行っているのでしょうか。院長である中川 義信先生にお話を伺いました。
当院は1897年に「第11師団善通寺丸亀陸軍衛戍病院」として創設されました。1945年12月には「国立善通寺病院」と「国立善通寺病院伏見分院」の2つの病院に分かれ、それぞれが地域のニーズに応える医療を提供するために再発足しました。
1975年には、国立善通寺病院伏見分院が「国立療養所香川小児病院」に改称し、小児医療専門の病院に変わりました。
そして2013年5月には、この2つの病院が統合し、周産期から高齢者医療まで幅広い医療を行う「独立行政法人国立病院機構四国こどもとおとなの医療センター」が開院しました。
2017年11月現在、当院は小児に関する専門治療を行う診療科と一般的な成人診療科を合わせて48科を構えています。病床数は、成人部門が250床、主に小児を診療する成育部門は411床(重症心身障害病床215床を含む)、ICUや救急救命センターなどが28床、合計689床と、さらに手術室8室を有する大規模な病院です。
2013年に新築された建物は、地震に強い免震構造を採用しています。
当院は災害拠点病院であり、四国内における災害発生時の救命活動および全国規模の大災害時における救援医療チームの派遣などを行います。
災害時医療のための医薬品・食料・飲料水なども、常に3日間分の備蓄を用意しています。
新病院建設とともに、県立養護学校が当院の隣接地に新築移転し、看護学校(2017年11月時点、1学年80名、3学年合計240名)も含めた医療と教育の連携を図っています。
2017年9月には長期入院する小児患者さんのご家族のための宿泊施設“にじいろハウス”の利用も開始されました。
また、循環器病・脳卒中センターや骨・運動器センターを中心として、地域の高齢化に対応した医療の提供に努めています。
当院は、四国4県すべてから救急搬送を受け入れています。当院のドクターカーによる迎え搬送や、ドクターヘリによる広域搬送も受け入れています。
また、いかなる時間帯でも重症患者さんの治療が行えるよう、24時間体制で診療にあたっています。1次から3次救急まで幅広く対応しており、緊急手術やカテーテル治療、緊急内視鏡検査などにも常時対応できるよう、他種職間で連携を図り高度なチーム医療の提供に努めています。
小児患者さんについては、経験豊富な小児科ならびに外科担当医・小児救命救急担当医がすべての疾患に対して24時間対応しており、小児救命救急センターとして認可を受けています。
当院は、2003年12月に香川県総合周産期母子医療センターとして認定されました。2016年4月から2017年3月までの分娩数は856件であり、そのうちハイリスク妊娠が約7割を占めています。当センターのMFICU(母体胎児集中治療室)では、切迫早産や前期破水、妊娠高血圧症候群、常位胎盤、早期剥離などによる緊急母体搬送を24時間体制で受け入れています。NICU(新生児集中治療室)では、四国全域から新生児搬送を受け入れ、出生時体重1,000グラム未満の超低出生体重児等に対する周産期医療に取り組んでいます。また、小児心臓血管外科、小児外科、小児脳外科などの外科治療にも対応しています。
新生児専用の救急車も導入しています。この救急車は、人工呼吸器や生体モニターなどの医療機器に加え、双胎の妊婦さんを搬送できるようにするなど、時代のニーズに応えた設備を整えています。
当院の遺伝医療センターとも連携し、出生前診断に対しての遺伝カウンセリング・母体血清マーカー・母体血胎児染色体検査(NIPT)・羊水検査・遺伝子検査などの各種検査も行っています。臍帯穿刺・臍帯輸血・胎児胸水・羊水シャント術などの胎児への侵襲的治療も行っています。
MFICU(母体胎児集中治療室)・産科・新生児病棟では、常に看護スタッフ同士が連携を図り、いつでも緊急入院を受けられる体制を整備しています。
当院の循環器病・脳卒中センターでは、一刻を争う超急性期に対して、24時間365日いつでも迅速に対応できる体制を整えています。救急用専用駐車場と直結している救命救急センターには専用の320列CT 1台、3.0テスラMRI 1台、バイプレーンカテーテル血管造影装置2台、放射線撮影装置などを配置(2017年11月時点)し、搬送された直後からスピーディーに検査ならびに治療を実施できるようになっています。
狭心症や心筋梗塞など、緊急処置が必要な心臓血管疾患は循環器病センターで、脳梗塞・クモ膜下出血・脳内出血といった脳血管疾患は脳卒中センターでそれぞれ対応します。また、心臓リハビリテーションも導入されており、急性期から慢性期までのリハビリテーションが一貫して可能です。
当院を退院されたあとは、患者さんのスムーズな社会復帰を目指して、かかりつけ医または紹介元の医療機関において継続治療・継続看護が行われるように支援します。
当院には、重症心身障害児(者)病棟が215床あります(2017年11月時点)。医療的ケアを必要とし長期的な入院治療が必要な患者さんが多く、病棟は患者さんにとって治療と生活の場を兼ねた場所です。季節に応じたお楽しみ会やお誕生日会、車椅子での散歩や外出、バスを利用しての遠足などを実施しています。
患者さん一人ひとりが生きがいを持って入院生活が送れるように、患者さんの思いに寄り添う看護を目指しています。そのために、医師・看護師・理学療法士・児童指導員・保育士・養護学校教員など、それぞれの専門家が協働し、患者さんのQOL(生活の質)の向上を目指しています。
また、在宅重症心身障害児を対象に、療育および保育などを行い、生活圏の拡大を目指す重心在宅支援通園センター「おひさま」を院内に設置しています。生活指導を通して患者さんの適応能力を促進するとともに、保護者の方の家庭における療育技術の習得、QOL(生活の質)の向上を目的としています。
当院は、姉妹病院であるタイのシリキット王妃国立小児病院との国際交流を積極的に行っており、医療の現場においての多職種との交流・勉強会・講演など国際的な活動の機会を設けています。さらにこれを契機に、2015年よりアジア国際小児医療学会(AMCCH)を毎年開催し、国境を越えてこどもの医療について学術的な議論を交わす場を設けています。
2017年6月に開催された第3回AMCCH2017では、タイ・台湾・カンボジア・ラオス・モンゴル・ミャンマー・フィリピンなどの合計8か国から、154名の医療関係者が参加しました。口演27題、ポスター発表15題、合計42演題が発表されました。さらに2017年はタイから2名の臨床検査技師が、台湾から1名の看護師が当院で研修を受けました。
香川県から委託を受け、厚生労働省の「児童虐待防止医療ネットワーク事業」を2015年度、「子どもの心の診療ネットワーク事業」を2012年から実施しています。香川県の児童相談所などと協力して、虐待防止に関する活動に取り組んでいます。また、香川県の医療機関同士のネットワークをつくり、医療従事者向けの啓蒙活動をしたり、研修会を開催したりしています。
当院の育児支援対策室では、子どもの発達や発育の遅れ、育児不安や産後うつなど、子どもに関わるさまざまな悩みに対して解決に努め、安心して子育てができる環境づくりのお手伝いをしています。
当院は成育医療と成人医療、両方の機能を持った病院です。患者さんの“誕生からみとりまで”をモットーに、一生を見守り、寄り添う役割を果たしていきたいと思っています。
「私たちは あたたかいこころと思いやりを持って いつもみなさまと共にあゆみます」という当院の理念を胸に、病気に苦しむ方たちが安心して医療を受けられる病院を目指してまいります。
中川 義信 先生の所属医療機関