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低侵襲心臓手術(MICS)の特徴や人工心肺確立の方法とは?〜心臓手術における人工心肺の役割について解説〜

低侵襲心臓手術(MICS)の特徴や人工心肺確立の方法とは?〜心臓手術における人工心肺の役割について解説〜
岡本 一真 先生

国立大学法人 浜松医科大学 外科学第一講座 教授

岡本 一真 先生

一般社団法人 日本低侵襲心臓手術学会

目次
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従来の手術と比べて体への負担が少ない手術のことを“低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)”といいます。中でも、心臓に対する低侵襲手術は“低侵襲心臓手術MICS)”と呼ばれ、さまざまな心臓の病気に対して検討されることがあります。このページでは、MICSの種類や特徴、適応となる病気の種類などについてご説明します。

低侵襲心臓手術MICS:Minimally invasive cardiac surgery)とは、従来の心臓手術よりも患者さんの体への負担が少ない心臓手術のことをいいます。具体的には、人工心肺装置を使用しない手術や、胸骨を大きく切り開かない手術がこれにあたります。

MICSを使えば体力がない方、持病のある方、高齢の方、子どもなど、従来の手術方法では手術に耐えきれないと思われる方でも手術が行える可能性があります。また、体への負担が少ないことから術後の回復が早く、入院期間が短くなることが期待されるため、早期に社会復帰できる可能性も高まります。この点では、仕事や学業などのために長く入院できず手術をためらっていた若い方にもメリットとなる治療といえるでしょう。

MICSには侵襲の程度によっていくつか段階があります。中でも狭義のMICSは僧帽弁や大動脈弁といった心臓弁に対する低侵襲手術に対する呼び方です。かつては“ポートアクセス手術”といわれたこともありますが、右小開胸心臓手術や小切開心臓手術と呼ばれることもあります。2018年診療報酬改定において胸腔鏡下弁形成術、胸腔鏡下弁置換術という新規術式が設定されて以降はこれがMICSの公式な名称です。

このような胸腔鏡下心臓手術では従来の心臓手術より小さい傷で手術を行います。この手術は一般的に足の付け根の血管から管を入れ、人工心肺装置を使用して行われます。従来の心臓手術では胸の中央から皮膚を切り開き、胸骨を大きく切ったうえで心臓の手術を行っていました。そのため、術後は20cm程度の大きな傷あとが残ることが特徴でした。一方、胸腔鏡下心臓手術は片胸の皮膚を小さく切り開き、肋骨(ろっこつ)と肋骨の間から心臓の手術を行うことが一般的です。傷は3~8cm程度で目立ちにくく、胸部正中にある胸骨という骨を切らないため痛みも少なく済みます。

胸腔鏡下心臓手術は皮膚を大きく切り開いたり、胸骨を大きく切ったりしないため、術中の出血が少なく、術後の傷からの感染などのリスクも低くなります。傷が小さく目立ちにくいため、美容的にも利点があるといえるでしょう。骨を切らないことで痛みが少なく、回復が早いために入院期間が短く済むことも期待されます。

一方の胸腔鏡下心臓手術では、手術用内視鏡による視野で小さな作業空間で手術を行うことから手術の難易度が高くなり、手術に時間がかかりやすいなどの注意点が挙げられます。また、足の付け根から管を入れて人工心肺装置(後述)を使用するなど、通常の心臓血管外科手術では用いない技術が必要となるため、胸腔鏡下心臓手術に習熟した外科医と熟練した手術チームが備わっている病院での手術が推奨されます。日本低侵襲心臓手術学会では胸腔鏡下心臓手術に関連した認定医および指導医の認定制度を開始しました。日本低侵襲心臓手術学会ウェブサイトなどで確認できるため、参考にするとよいでしょう。

心臓は常にドキドキと拍動を繰り返して全身に血液を送っています。しかし、拍動している心臓をメスで切ったり、縫い合わせたりすることは難しいため、従来の心臓手術では心臓の動きを止めて手術を行うことが一般的です。

心臓が止まっている間は全身の臓器に酸素化された血液を送るために、“人工心肺装置”と呼ばれる機械を使用します。この機械は心臓周囲の大きな静脈に留置した管(脱血管)から全身の血液を抜き取り、人工心肺装置にある人工肺というフィルタで酸素化したうえで心臓の出口にある大動脈に留置した管(送血管)から酸素化された血液を送ります。

MICSでも上述の人工心肺を使用して心臓の弁を修理したり取り替えたりしますが、MICSにおける人工心肺確立については特殊な方法を使用します。

通常の心臓手術では胸骨正中切開により大きく胸を開けるため、上行大動脈(心臓の出口)や右心房もしくは上大静脈、下大静脈(心臓に血液が戻る場所)にカニューラという管を留置して、人工心肺で酸素化された血液を送ったり、全身から心臓に戻る静脈血を抜き出したりして人工心肺に注入するための管(脱血管)を心臓の周りの大きな血管に留置する必要があります。

一方で小さな傷で行うMICSではこれらの操作が困難です。その代わりの方法として、鼠径部にある大腿動脈・静脈も用いて送血管、脱血管を留置します。具体的には鼠径部に3cm程度の小さな切開をおき、大腿動脈・静脈を露出させ、ここからガイドワイヤという細い針金を心臓付近まで進めます。これに沿って経7〜8mm程度の管を心臓周囲まで進めることで人工心肺に必要な血液を抜く管、血液を送る管を留置します。

これらの操作を安全かつ正確に行うためには麻酔科医による経食道心エコーのガイドや手術中の微妙な位置調整が必須であり、外科医もこの操作に習熟していること、特有の合併症を防ぐためのさまざまな方策を理解しておくことが重要です。また、手術チームのチーム力が高いということがMICSのもっとも重要なところであり、日本低侵襲心臓手術学会でもMICSにおける安全な人工心肺確立に関する教育活動を進めています。

MICSは主に以下のような病気で検討されます。ただし、病気の状態や患者の状態によっては別の手術方法が検討されることもあります。

主な適応疾患

など

MICSは従来の手術方法と同様に保険適用で行われるため、手術費用に大きな違いはありません。 MICSには体への負担が少ないなどの大きなメリットがありますが、デメリットも存在します。また、誰でも受けることができるわけではないので、手術方法を検討する際は担当医の説明をよく聞いて決定するとよいでしょう。

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