小児がんとは15歳未満の子どもがかかる悪性腫瘍のことで、代表的なものには白血病や脳腫瘍、リンパ腫などが挙げられます。国立がん研究センターの調査によれば、日本では年間2,000~2,300人の子どもが小児がんと診断されています。また、5~9歳までの年齢層では死因の第1位は小児がん(悪性新生物)ですが、近年は医療の進歩によって80%の確率で根治できるようになってきたといわれています。まずは小児がんについて十分に理解することが大切です。
小児がんは15歳未満の子どもがかかるがんの総称で、さまざまな種類があります。
国際小児がん罹患 第 3 版(IICC-3)では、小児がんは主分類12種類に分けられています。
上で述べた12種類のうち、“白血病、骨髄異形成症候群、骨髄異形成症候群”と“リンパ腫および網状内皮系腫瘍”は血液のがんに分類されます。また、それ以外のがんは腫瘍細胞の塊を作る“固形がん”と呼ばれます。
小児がんは約半数が血液のがんであり、もっともよく見られるのは白血病です。2番目に、脳腫瘍(中枢神経系およびほかの頭蓋内、脊髄内腫瘍)、3番目に血液のがんの1つであるリンパ腫です。この3つのがんだけで、小児がん全体の3分の2を占めます。
子どものがんと大人のがんには、さまざまな違いがあります。まず、大人のがんは日々の生活習慣が原因で発生するものがありますが、子どものがんの発生には生活習慣が原因となることはほとんどありません。遺伝性のものや、中には胎児の間に体の一部になるはずだった細胞が残って異常な細胞に変化したことによるものもあります。
子どものがんは大人のがんと比較すると、がんの増殖が速いといわれていますが、がん細胞の増殖を抑えたり破壊する化学療法や、がん細胞を小さくさせたり消滅させる放射線治療などが効きやすいというのも特徴です。
子どもの固形がんは大人によく見られる上皮性のがんである確率は低く、より体の深い部分で発生する“肉腫”と呼ばれるタイプが生じやすいといわれています。肉腫は体中のいたるところから発生するため、大人のがんのように“胃がん”、“肺がん”といった発生した臓器別ではなく、病理組織学的に分類されます。
小児がんにはさまざまな種類があり、現れる症状もがんの種類によって異なります。子どもの年齢によっては症状を上手く訴えられない可能性もあるため、心配する親もいることでしょう。そこで、小児がんの主な症状や病院の受診を検討する目安などについて、東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科 部長 湯坐 有希先生にお話を伺いました。
小児がんの多くは特徴的な症状がありません。白血病では顔色が悪い(貧血)、あざができやすい(出血症状)、熱がなかなか下がらない(易感染性)といった症状が現れるといわれますが、インフルエンザのような感染症でも同じような症状が現れるため症状から判断することはできません。また、発症する確率的には、感染症であることが圧倒的に多いです。
このことを踏まえて、あえて疑う第一歩を挙げるなら、“いつもと違う”ということです。「なんか不機嫌」「いつも元気でうるさいくらいの子がおとなしい」「熱が一向に下がらない」「お風呂で見たらお腹がパンパンに張っている」などが例になると思います。ただ、こういった症状があったら絶対に小児がんというわけではありません。上でも述べたように感染症など、ほかの原因であることが圧倒的多数です。
一方で、一部の小児がんでは特徴的な症状があります。網膜芽腫と呼ばれる目のがんでは、“目(瞳孔)が白く光る(白色瞳孔)”“両目の向きが合っていない(斜視)”といった症状で判明することがあります。写真を撮影するときに“赤目防止”モードではないフラッシュ撮影をすることで白色瞳孔が分かる場合があります。また、視力の発達が悪くなることで“発達の遅れ”という形で症状が現れることもあります。1〜2歳くらいまでの間に発症するといわれていますので、健診をしっかり受けるようにしましょう。
なお、脳脊髄腫瘍や脊髄を圧迫するように腫瘍が広がった神経芽腫などでは、手足の麻痺(動かない)、顔面の麻痺(左右差)といった症状が現れることがあります。これらの症状は一度出現すると、元に戻らないことが多いので、症状が進行する前に速やかな診断と治療を行うことが大切です。
小児がんを疑う特徴的な症状は限られています。そのため、特徴的な症状がなくても体調不良を認めたら小児科を受診しましょう。
なお、目が白く光る白色瞳孔を疑った場合には必ず速やかに眼科を受診し、眼底検査をしてもらいましょう。検査を受ける際に、鎮静薬が必要な場合は開業医の先生では対応が難しいケースもありますので、必要に応じて総合病院などを紹介してもらうことも検討しましょう。
また、手足の麻痺、顔面の麻痺なども速やかに小児科を受診しましょう。
成人がんは腫瘍の増殖速度が緩やかなものが多く、早期発見の重要性が指摘されています。そのために“がん検診”が推奨されています。
一方で小児がんは増殖速度が早く、一部のがん種を除いて早期診断が予後に影響しないといわれています。ただし例外もあり、網膜芽腫や脳脊髄腫瘍などは早期発見・治療によって生命予後がよくなることや、元に戻りにくい症状が現れることの防止などが期待されます。繰り返しになりますが、“いつもと違う”を逃さずに受診すること、健診をしっかり受けることが大切です。
小児がんの治療はがんの種類によって、手術治療・薬物療法・放射線治療・造血幹細胞移植などを組み合わせて行われます。小児がんは進行が速い一方で化学療法や放射線治療が効きやすく、近年では医療の進歩によって80%の確率で根治できると考えられています。
成人ではいわゆる“がん検診”というものがありますが、小児がんにおいてはありません。その理由は先にも述べたとおり、がんの増殖が速く進行が早いため、なかなかタイムリーに検診で発見できないこと、また一部のがん種を除いて早期発見が予後に影響しないことが報告されているからです。
一部のがん種とは、網膜芽腫と呼ばれる目にできる小児がんと、一度出現してしまうと症状が元に戻らない脳脊髄腫瘍です。ただし、小児がんが疑われた場合には速やかに診断・治療を行うことが大切です。
小児がんは成人がんとは異なり、成長期にある体に強力な治療を行うので臓器に影響を及ぼすことが知られています。そのため、治療後に数年経過してから合併症が現れることも少なくありません。これを晩期合併症といいます。主な晩期合併症としては、成長や発達のトラブル、生殖機能の問題などが挙げられます。このような合併症に適切に対処するためにも、治療後も長期的に経過観察を行い、担当医と十分にコミュニケーションを取ることが大切です。
小児がんは化学療法や放射線治療が有効であるがん種が多く、これらの治療の進歩に伴って治癒率が徐々に向上してきており、今後さらなる治療成績の向上が期待されています。小児がんは発生数から考えるとまれな病気ではありますが、子どもが命を落とす原因であるのも事実です。そのため、小児がんについて十分に理解したうえで、子どもに気になる症状がある場合は放置せずにまずは担当医に相談しましょう。
東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科 部長
東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科 部長
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児血液・がん学会 小児血液・がん専門医・小児血液・がん指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本血液学会 血液専門医・血液指導医日本造血細胞移植学会 造血細胞移植認定医日本輸血・細胞治療学会 細胞治療認定管理師
山形大学を卒業後、東京慈恵会医科大学附属病院を経て、2010年より小児がん拠点病院のひとつである東京都立小児総合医療センター血液・腫瘍科に入職。2020年現在、同科にて部長を務める。小児白血病治療のさらなる発展を目指し、JCCG(日本小児がん研究グループ)の次期APL臨床試験研究代表者として、現在特定臨床研究開始準備を進めている。
湯坐 有希 先生の所属医療機関
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