兵庫県姫路市にある姫路聖マリア病院は、1950年に開設して以来一貫して地域医療に貢献している伝統的な急性期の病院です。医療、介護、福祉を統合的にサポートし、特に同地域で不足している重篤なアレルギーを診療できる病院として大きな存在感を示しています。「365日リハビリテーション」や緩和ケアを導入するなど、急性期医療のさらなる拡充に取り組む同院の地域での役割や今後ついて、病院長である金廣 有彦(かねひろ ありひこ)先生に伺いました。
当院はドイツに本部を持つカトリック系の病院として、1950年に8床の聖マリア診療所を開設しました。その翌々年から一般病院として徐々に規模を拡大し、1984年には360床の総合病院となって再スタートを切ります。近年も2017年の重度障害総合支援センター開設のほか、2022年に回復期リハビリテーション病棟を開設するなど病棟の増築を繰り返し、現在は440床の総合病院として地域医療の中核を担っています。
当院では急性期医療を中心に医療、介護、福祉を包括した“地域完結型医療”を提供し、姫路市中北部から神崎郡にかけて地域医療を支えています。2017年には重度障害総合支援センターを開設して障害児者の診療に取り組むほか、介護老人保健施設や緩和ケア病棟を設置してがん患者の受け入れから看取りまでワンストップでサポートを開始しました。その中でも姫路市の中部以北で不足している回復期リハビリテーション病棟の新設により、急性期の治療後も患者さんの在宅復帰を支援できるようになりました。
さらに2021年にはアレルギー科を開設しました。多岐にわたるアレルギー疾患を高度な診療レベルで治療し、重篤なアレルギー患者を治療できる地域屈指の病院として責務を果たしています。
当院は厚生労働省の定める救急医療等確保事業のうち、“救急医療”における要件の充足が認められ、2013年に社会医療法人となりました。救急対応から撤退する病院が相次ぐ今だからこそ、当院は年間を通じて24時間体制の救急診療を提供していることの重要性を再認識しています。
救急対応のさらなる進化のため医療の機能性を追求し、救急処置室や外来診察室をはじめ当直室やカンファレンスルームなどを一体化しました。さらに看護詰所と共に2床の滞在型病床を併設し、外来から点滴や入院までをスムーズに連携しています。今後も全科の連携による救急患者の受け入れ体制などを重点目標に掲げ、地域医療に貢献していきたいと考えています。
年々増加するアレルギー患者への対応策として、当院は2021年に内科、呼吸器内科、小児科、耳鼻科、皮膚科で“アレルギー疾患総合診療部門”と“アレルギー科”を開設しました。病院長である私自身もアレルギー疾患や呼吸器が専門ですので、一人でも多くの患者さんを支えたいという想いから今も呼吸器アレルギー内科の外来を担当しています。
アレルギー診療においては、ここ十数年で病態の解明や治療技術などが飛躍的に向上しました。症状を改善できる選択肢が増えた今こそ、患者さんのためにできることを着実に進めて参ります。姫路市とその周辺地域では現状、重篤なアレルギー患者を診療できる医療機関は当院のほかにないので、今後もより一層アレルギー治療に注力したいと考えています。
産婦人科では地域の皆さんからの信頼を得て、年間400件の分娩やハイリスク出産に対応しています。また、低侵襲(体への負担が少ない)な治療に力を入れており、例えば婦人科の子宮筋腫の場合、膣から内視鏡を入れて手術するvNOTESを採用することでお腹に一切傷を付けずに治療することができます。
vNOTESを行っている病院は少ないため、兵庫県の西部地域でこの手術を希望される方はぜひ当院を頼ってください。
内視鏡を使用した低侵襲手術は、外科における各種臓器の疾患や整形外科のスポーツ外傷や脊椎手術にも取り入れていて幅広く活用しています。また低侵襲な検査として、姫路市の地域内で訪問による超音波診療を行っており、患者さんに大変喜んで頂いています。
このように最先端医療を常に取り入れる一方で、より専門的な治療も展開しています。例えば外科に大腸・肛門外科を開設して様々な肛門疾患を治療するほか、耳鼻咽喉科に睡眠診療部門を設置して近年増加している睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーへの治療を強化しました。
急性期の治療だけを行う病院の場合、患者さんは治療後1週間程度で自宅に戻されることが多々ありますが、実際は日常生活が困難なケースもあります。当院ではそのような患者さんを対象に医師、看護師、リハビリスタッフが一丸となって“365日リハビリテーション”を行い、低下した能力の回復やスムーズな日常生活を支援しています。こうした取り組みから、今では姫路市中部から北部にかけての“リハビリテーション診療の砦”と呼んで頂けるようになりました。
また積極的ながん治療を望まない患者さんへの緩和ケアを専用病棟で行い、患者さんの苦痛を少しでも和らげながら看取りまで支えています。当院は1996年から緩和ケアを始めましたので、およそ30年ほどの経験が臨床の現場で活かされています。
当院は急性期を軸に介護や福祉までを包括した“地域完結型”の医療機関です。介護については介護老人保健施設を備えて高齢者の自立を支援しています。また福祉については1997年に重度障害総合支援センター“ルルド館”を開設し、重い障害のある方の生活をサポートしています。こうした当院のすべての活動は、キリスト教の教えのもと展開していて、どの施設にもお祈りするための礼拝堂を設置しています。
我々の使命は地域の皆さんを守ることに尽きます。そのためには高齢化社会など時代の変化に合わせて病院を運営していくことが重要だと考えています。姫路市内では2022年に兵庫県立はりま姫路総合医療センターも開設されましたが、当院の特徴である急性期から看取りまでをトータルにカバーする医療体制はこれからも地域で独自の役割を果たしていくはずです。
またさらなる医療技術の向上のため、民間病院では珍しい修練施設である姫路メディカルシミュレーションセンター“ひめマリア”を設置し、人材育成にも力を入れています。ここでは医療はもちろんのこと、介護や福祉までを統合的に学べるワークステーションで現場に活かせる専門能力を日々磨いています。
さらに当院では医療現場で培った知見を活かし、「身近な病気を詳しく丁寧に」と題して年間6回、1回に2つの健康をテーマにした市民公開講座を開催しています。コロナ禍で一時中断していましたが一昨年から再開し、多い時で300人ほどの方々に参加して頂いています。こうした予防医療の啓発と医療体制のさらなる強化という両面から、引き続き患者さん最優先のもと地域医療に貢献していきたいと考えています。