千葉県市原市にある帝京大学ちば総合医療センターは、1986(昭和61)年に帝京大学医学部附属市原病院として開設されました。当初より地域の中核的な病院としての役割を担い、救急医療に力を注ぐ同センターの役割や今後について、病院長である井上 大輔先生に伺いました。
当センターは帝京大学医学部附属市原病院として1986年に開院して以来、“質の高い医療の実践を通して社会に貢献する”ことを使命として邁進してまいりました。開院20周年を迎えた2006年には名称を帝京大学ちば総合医療センターと改め、内科・外科を問わず総合的な診療を行っています。
当センターは大学病院でありながら民間病院としての側面も併せ持ちます。大学病院として高度な医療を担う一方、コモンディジーズと呼ばれる日常的な病気やけがの治療を担当しながら、地域の方々の健やかな暮らしを支えてまいりました。あいにく最寄りの姉ヶ崎駅から少々離れているため、患者さんにご不便をおかけする場面もあるかと思いますが。2029年に計画されている移転・新築によって、皆さんによりいっそうご満足いただける医療体制が整うことを私自身も期待しています。
三方を海に囲まれた千葉県は、それぞれの地域ごとに特色が異なります。当センターのある市原市は工業地帯の発展とともに人口が増えたものの、2000年頃を境に人口が減少しています。一方で市原市の面積は千葉県でもっとも広く、市街地のみならず山間部にお住まいの方もいらっしゃいます。そのため当センターではヘリポートやドクターカーを備えて救急医療に力を注ぎ、市原市を中心に県内全域を対象とした救急医療を展開しています。
当センターは市原市内の医療機関として唯一、救命救急センターを設けています。救命救急センターは、心肺停止や多発外傷など命に関わる状態に陥った患者さんを受け入れる三次救急医療施設です。当センターは救急医療の“最後の砦”としての役割を担い、24時間365日体制で救急患者さんに対する救命措置や高度な医療を行っています。また当センターは災害拠点病院にも指定されており、DMAT(災害派遣医療チーム)を整備するなど災害時の中心的な役割も担っています。
私が内分泌代謝を専門にしていることもあり、当センターにおいても糖尿病・脂質異常症・骨粗鬆症といった代謝性疾患、さらに下垂体・副腎・甲状腺・副甲状腺・性腺などさまざまな内分泌疾患に対して専門的な診療を行っています。
内分泌代謝とは体の正常な機能を維持する仕組みのことを指し、体の機能を調整する役割を担っているのがホルモンです。ホルモンや代謝に変化が生じると全身の状態に影響を及ぼすため、患者さんの全身を診ることを重視して、適切な治療を行わなければなりません。内分泌代謝内科やリウマチ科を掲げて診療する医療機関は少ないですが、当センターはこの領域のトップランナーとして、より質の高い医療をご提供できるよう努めています。
当センターは内科・外科を問わず幅広い診療を行っており、がん診療にIVRを導入していることも特徴です。IVR(Interventional Radiology:インターベンションナルラジオロジー)は“画像下治療”“切らない手術”とも呼ばれるように、CTや超音波の画像を確認しながら、カテーテルや針などの医療器具を使って治療を行います。高齢の方でも安心して治療を受けていただけるため、患者さんの中には海外からお越しになる方もいらっしゃいます。
一方、外科手術においても患者さんへの負担が少ない低侵襲手術に取り組んでいます。最近では新たに手術支援ロボット“ダヴィンチ”を導入し、泌尿器や婦人科がんの治療に活用しています。ロボット手術は体への負担が少ないことから回復が早く、入院日数の短縮などが期待できます。このほか心臓外科、消化器外科などそれぞれに優秀な医師が在籍しておりますので、安心して治療をお任せいただければと思います。
帝京大学ちば総合医療センターという名前のとおり、当センターは帝京大学の附属施設であり、患者さんの診療にあたるほかに研究・教育施設としての役割も担っています。当センターには学術面・診療面ともに優れた医師が在籍しており、各診療科は日々の診療に加えて研究にも注力しています。また教育については東京・板橋の本院に協力を仰ぎ、次世代の医療を担う人材の育成に努めています。
これらは全て、継続して質の高い医療を提供していくための取り組みです。患者さんの治療にあたる医師や看護師をはじめ、地域の中で連携を図る際にも“人”は欠かせません。医療を必要とする方に、適切な医療をお届けできるように。この地域に暮らす方々が、毎日不安なく過ごせるように。安定した医療提供体制を構築していくことも、私たちの大切な役割だと考えています。
当センターは1986年から40年近くにわたり、この地域の医療に携わってまいりました。地域の皆さんから信頼を寄せていただく一方で建物の老朽化は否めず、2029年に市原市ちはら台へ移転する計画が進んでいます。近隣にお住まいの方々は、いつもそばにあった病院がなくなってしまうことを不安に思われているかもしれません。しかし当センターの移転をネガティブに捉えることなく、“病院の機能がさらにパワーアップするのだ”と、前向きに受け入れていただければ幸いです。
当センターからちはら台までは、車で30分ほどの距離になるでしょうか。少々遠く感じられるかもしれませんが、新病院ではより快適な環境のもと、より質の高い医療をご提供できるものと思います。時代の変化や地域のニーズに合わせた医療を展開し、地域の他の医療機関と密に連携しながら、皆さんの命と健康を守る取り組みを継続してまいります。どうかご理解とご支援のほどよろしくお願いいたします。
*医師や提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年5月時点のものです。