山形県東根市にある北村山公立病院は、三市一町で構成される北村山公立病院組合によって運営されている病院です。地域特性に合わせたリハビリテーション施設を有し、ユニークな医療を提供している同院の役割や今後ついて、院長である國本 健太先生に伺いました。
当院は北村山地区の医療を担っていた東根赤十字病院が閉鎖されることを受け、当時の北村山地域の市長たちが病院機能を存続させるために奔走し、1962年に自治体病院として開院しました。運営母体は、東根市、村山市、尾花沢市、大石田町の三市一町で構成される北村山公立病院組合です。
開院当初の病床数は98床(一般病床62床、伝染病床36床)で、内科、小児科、外科、整形外科、産婦人科、耳鼻咽喉科の6つの診療科でスタートしました。その後、医療ニーズの多様化に対応するため段階的に診療科の拡大を進め、開院から62年を迎えた2024年現在は300床の病床と20の診療科を備えています。
“医療の空白を生じさせない”という信念のもと、今後もこの地域の医療に貢献してまいります。
当院の一次脳卒中センターには脳卒中専門医(日本脳卒中学会認定)が3名在籍しており、24時間365日体制で脳卒中をはじめとする脳疾患の患者さんを受け入れています。MRIやCTといった機器も充実しており、脳梗塞に対するt-PA療法(血栓溶解療法)や破裂脳動脈瘤に対する急性期治療などにも対応しています。
同センターでは今から15年ほど前にいち早く、バイプレーン(血管撮影装置)を導入しました。当時としては10年先を見据えた決断でしたが、この装置の導入により血管内治療が可能になり、その後もステント治療などを実施できるよう体制を強化してきました。今後も一次脳卒中センターとしての役割を果たし、質の高い医療が提供できるよう努めてまいります。
当院では、救急搬送時などに患者さんのバックグラウンドを迅速に把握し、適切な医療を提供することを目的として、救急医療情報シートの活用を推進しています。このシートは北村山地区医師会と共同で作成したもので、緊急時に必要な情報を事前にご記入いただくことにより、救急隊や医師たちが患者さんの状態を理解するのに役立ちます。
シートの特徴は、通常の医療情報に加えてACP(アドバンス・ケア・プランニング)の要素を盛り込んでいることです。ACPとは、自身が望む医療やケアについて日頃から考え、家族やかかりつけ医などと話し合い、共有する取り組みのことです。シートには自身の希望にチェックを付ける欄があり、“できるだけ救命・延命をしてほしい”や“心肺停止時には蘇生処置は望まない”などを選んで記入できます。
救急医療情報シート普及の一環として、住民の方に向けたACPに関する講演会を行っています。この背景には、医療の進歩による生き方の変化があります。かつては“生老病死”といって、生まれてから年齢を重ね、年老いて病気になり、最期を迎えることが一般的でした。しかし現代は、“生老病死”から“生病老死”へと変化していると考えます。近年は医療の発展により、たとえ病気になっても治療によって長く生きられる時代になりました。このため講演会では、患者さん一人一人がどのように生きるかを考える重要性をお話ししています。年に一度の講演会ですが、人生の最終段階における過ごし方や、病気との向き合い方について考える機会となれば幸いです。
この取り組みは現在、北村山地域のみで実施していますが、将来的には山形県全体への普及を目指しています。救急医療情報シートは当院のホームページからダウンロードすることができますので、ぜひご活用ください。
当院のリハビリテーション棟には、温泉を活用したプールリハビリテーション施設があります。さくらんぼ東根温泉源泉から引湯した温泉を利用しており、このようなリハビリ施設は山形県内でも珍しいのではないでしょうか。同施設では、骨折した患者さんに向けて骨の強度を向上させるリハビリなどを実施しています。温泉プールでの歩行訓練は浮力を利用できるため、患者さんの身体的負担を軽減しながら効果的なリハビリを行うことが可能です。
また、脳卒中後のリハビリでは2023年に運転シミュレーターを導入し、より実践的な運転機能回復訓練を行っています。地域の教習所と連携して実車での評価を行う予定としており、病院と教習所の双方が情報を共有することにより、運転再開の可否を適切に判断していきます。日常生活を送るうえで車の運転が不可欠なこの地域において、病気やけがから回復した後で運転を再開できるかどうかは患者さんにとって非常に大きな関心事です。当院では単なる医学的な回復だけでなく、患者さんの生活の質の向上も見据えたリハビリプログラムを提供しています。
当院では“ATM”を合言葉に日々の診療を行っています。Aは明るく、Tは楽しく、Mは前向きに、の頭文字を取ったものです。“ATM”の合言葉は各病棟に掲示してあり、職員の日々の働き方の指針として浸透しています。
“ATM”には、たとえ日々の業務がつらかったとしても、その日成し遂げたことを前向きに捉えて仕事に取り組んでほしいという思いを込めています。毎日何かしらの目標を持って、患者さんへ適切な医療を提供できるよう、働き甲斐を持って仕事に励んでほしいのです。“ATM”の合言葉の根底にあるのは、風通しのよい医療文化の醸成です。当院では、職員一人ひとりの学ぶ意欲を大切にしており、それに応える環境づくりを心がけています。
当院が目指すのは、自己完結型医療の提供と地域完結型医療の構築です。できる限り初診から治療完了まで一貫した医療を提供し、専門的な医療が必要な場合には当院が地域のハブ病院となり、適切な医療機関をご紹介できる体制を整えるべく取り組んでいます。山形県立中央病院や山形大学、その他各専門病院と顔の見える関係を構築し、シームレスな医療連携を実現するために尽力してまいります。何か不調を感じたり困ったりしたときには、気軽に当院を頼っていただければと思います。
東根市は子育て支援施設の設置や県内初の中高一貫校の開校など、若い世代が住みやすい環境の整備が進められています。こうした取り組みにより、東根市は県内で高齢化率がもっとも低く、若い世代が増加傾向にあります。当院としても地域の特性に対応し、これまで以上に充実した医療を提供できるよう尽力してまいります。
※病床数や医師数、診療科数など本文中の数字および、提供している医療の内容等に関する情報は全て2024年11月時点のものです。