院長インタビュー

地域医療のさらなる充実を目指して変革を進める佐野厚生総合病院

地域医療のさらなる充実を目指して変革を進める佐野厚生総合病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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栃木県佐野市にある佐野厚生農業協同組合連合会 佐野厚生総合病院(以下、佐野厚生総合病院)は、医療利用組合連合会 佐野病院として1937年に開設されて以来、地域の中核病院として地域に貢献してきました。

2023年から新たに“地域に寄り添い信頼される病院”という理念を掲げる同院の取り組みについて、病院長である村上 円人(むらかみ まろひと)先生にお話を伺いました。

先方提供
佐野厚生総合病院 外観

1937年(昭和12年)、当院の前身となる医療利用組合連合会 佐野病院が開設されました。以来、当院は一貫して地域住民の皆様に必要とされる医療提供に邁進してきました。

私が病院長として着任した2017年からは、行政や佐野市医師会と改めて連携をとり、有病率の高い主要疾患や地域が求める災害医療などの政策医療に注力。主要職員とのヒアリングや現場視察による評価に基づき、部門の再編を行い、小回りの利く組織へと改革しました。

取り組みの1つとして、2017年に行なった人材育成のための研修センター立ち上げがあります。人口あたりの医師数が少ない(医師少数区域)状況を少しでも改善するため、新専門医制度の日本内科学会基幹病院の認定を取得し、全職員の教育・研修体制も一新しました。その結果、医師の増員も進み、2024年には内科専攻医が10名となっています。看護師不足は深刻でしたが、派遣会社からの既卒採用から新卒の採用と新卒教育体制強化へと舵を切り、新卒採用がおよそ8割となりスタッフの世代交代も進んでおります。また、全職種のリスキリングにも注力しております。

イノベーションの導入としては、2020年に手術支援ロボットのダヴィンチを導入し、泌尿器科で年間約100件のペースでダヴィンチによる手術を行い、2022年からは呼吸器外科もダヴィンチ手術を導入しました。一般病院としては、全国トップクラスの手術数でしょう。また心臓カテーテル手術についても、新型のアブレーション機器に入れ替えました。

さらに2022年9月には、慢性期病床100床を閉鎖し、急性期病床を30床増床。それまでは急性期から慢性期までを一貫して診るケアミックス病院でしたが、救急患者の受け入れ数を増やすために方向転換し、急性期病院となりました。2023年度の救急者受け入れ数は過去最多となりました。

当院は地域の中核的な病院として、”公的医療機関等2025プラン”の医療計画に基づき、5疾病6事業を中心に、高度急性期および急性期医療の維持・向上を行っています。5疾病は特に継続的医療が求められる疾患、6事業は政策医療として医療サービスの確保に必須な事業です。具体的にはそれぞれ以下のようになっています。

5疾病

がん脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患

6事業

:救急医療、災害医療、周産期医療、小児医療、へき地医療、感染症

当院では今後も、 “5疾病6事業”を担う地域の中核病院として成長を目指しております。

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佐野厚生総合病院 内観

当院は先端的な医療体制を展開するため、センター化やチーム医療を推進しています。2024年現在、救急センター、周産期センター、ロボット支援手術センター、内視鏡センター、糖尿病センター、透析センター、嚥下機能サポートチームがあります。中でも密接に関係している糖尿病センターと透析センターについてご紹介いたします。

糖尿病は先に挙げた5疾病の1つで、全身にさまざまな合併症を引き起こす代謝疾患です。糖尿病センターには、2名の日本糖尿病学会認定の糖尿病専門医を中心に、看護師、管理栄養士など多種職のスタッフが所属し、多岐にわたる診療科の入院患者さんの糖尿病診療に横断的にかかわっています。糖尿病合併の手術症例の血糖管理を全て行っております。また、患者さんが糖尿病について学ぶ教育入院や、管理栄養士による栄養指導、栃木県主催の健康づくりイベントで糖尿病についての広報活動なども行っています。

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糖尿病が進行すると糖尿病性腎臓病を合併し、腎機能が低下すると血液透析や腹膜透析を受けなければならなくなります。日本透析医学会の統計では、栃木県は100万人あたりの透析患者数が東日本1位、全国でも6位という状況にございます。また、近隣地域の3次医療機関の透析センターの閉鎖があり、2024年度から当院が位置する二次医療圏には透析医療の急性期に対応できる医療機関は、当院のみとなりました。当院の透析センターでは、タスクシフト・シェアを進めて専門スタッフの業務拡大を行い、増加する広域からの患者受け入れに対応しております。

糖尿病と透析の2つのセンターを併設し、これらを腎臓内分泌代謝内科で横断的に管理することは、当院の若手医師にとっても大きなメリットがあります。糖尿病と透析は切っても切れない関係にありますが、2つのセンターで同時に並行研修を受けて実績を積む体制をとっているため、専門医研修の充実や効率化に繋がっております。将来、複数の専門医取得後に、全身を診る内科医として地域医療に貢献することが期待されます。

また当院では、慢性腎臓病CKD)の地域連携パスを実施しています。慢性腎臓病の患者さんは、合併症として心臓や呼吸器など別の疾患を抱えているケースが多くなっています。そのため当院と地域のかかりつけ医が連携して、普段はかかりつけの診療所で一般診療を受けて、腎臓病の診療は当院で行う、2人主治医制を進めております。健診で検尿異常等がある場合に速やかに当院にご紹介いただき、パス化された検査を施行後、精査、経過観察、お返し、の流れをパス化する、CKD地域連携パスが機能しております。経過観察する場合は、かかりつけ医と腎臓専門医が2人の主治医となることで、当院を受診する回数を減少させ、軽症患者が当院に集中することのない体制を目指しております。

このように、限られた医療資源を有効に活用して、患者さんがより少ない負担で、継続して高度な医療サービスを受けられるよう、かかりつけ医と連携して一緒に患者を診る“2人主治医制”が病診連携には重要であると考えております。

消化器内科では、幅広い消化器がんに対応し、特に内視鏡による消化器がんの早期発見と上部および下部消化管の早期がんに対する内視鏡的治療に力をいれています。ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)、カプセル内視鏡を用いた小腸がん、大腸がんなどの早期発見に取り組んでいます。

カプセル内視鏡による検査は、従来の内視鏡検査に比べ痛みが少なく、患者さんの体に負担が少ないことが特徴です。しかし、病変が見つかった場合に、その部分の採取や切除を行うことができないという難点もあります。詳しくは、当院に勤務する日本消化器内視鏡学会認定の消化器内視鏡専門医にご相談ください。

呼吸器内科では、肺がんを中心とした呼吸器の病気の診断と治療を行っています。肺がんは大きさや進行度などによって、手術適応かそうでないかが分かれます。佐野市の特定健診受診率は2018年時点では低いため、肺がん診断時は進行例が多い特徴があります。手術適応の患者さんは、呼吸器外科に速やかに引き継いでダヴィンチ手術や開胸手術を行います。手術適応外の肺がん患者さんに対しては、化学療法、放射線療法などの治療や緩和ケアなどを行っています。佐野市の特定健診無料化によって、肺がんの早期発見・早期治療が期待されています。

また、緩和ケアに関しては、緩和ケアチームを組織し、医師・薬剤師・日本看護協会認定の緩和ケア認定看護師・臨床心理士など多職種で構成されています。

当院は、栃木県がん治療中核病院として、がんの治療と同様に、治療に伴う体の痛みや心の負担を和らげる緩和ケアの提供にも尽力いたします。

2004年に一般病院としては世界初となる声帯内への骨補填材注入術を当院で行いました。これは声帯にリン酸カルシウム骨ペーストを注入することで、声帯の麻痺や萎縮を改善するものです。

声帯の麻痺は、肺がんや食道がん甲状腺がん大動脈解離などによって起こることがあります。原因が不明なことも、加齢によって起こることもあります。声帯が麻痺すると、声がれや誤嚥といった症状が現れます。以前は治療方法として、気管切開手術が行われていました。

声帯内注入術は、気管切開をすることなく治療できます。当院では2023年3月時点で182例の手術を行っていて、一般病院としては全国でトップクラスの手術数となっています。その実績から、全国の医療関係者が研修のため当院を訪れています。

2017年に初めて県庁を訪問した際に栃木県庁から要請を受け、当院は災害医療に参入を開始しました。2018年にDMATを結成し、2020年に栃木県DMAT病院に指定、そして、2022年度に災害拠点病院に指定されました。現在、2つのDMAT(災害派遣医療チーム Disaster Medical Assistance Team )を有し、DMATロジスティックチーム隊員もおります。

先方提供
能登半島地震で出動前のDMATのスタッフたち

2024年1月の能登半島地震においては、1月6日からDMATを派遣し、その後、新たにDMATロジスティックチーム隊員を派遣いたしました。当院は栃木県南部地域のみならず、佐野市と隣接する群馬県館林邑楽郡の災害発生時での活動が期待されております。災害発生時に地域で貢献できるように、BCP訓練等の定期訓練を継続しております。

当院では2024年現在、70床を休床としていますが、2025年度には回復期リハビリ病棟として再稼働します。

実は佐野市内には、当院の他に200床以下の2つの病院がございますが、回復期リハビリ病床をもつ医療機関はありません。これは10万都市として非常に由々しき問題です。現在は、隣接する足利市など他市の医療機関と特別な医療連携協定(T連携)を締結して、回復期患者の転院を進めている状況ですが、これには限界がございます。2025年地域医療構想とは、急増する回復期患者にどのように地域で対応していくかが、最大の課題です。患者さんにとっては、アクセスのよい市内の医療機関で回復期診療を受けることが、ベストでしょう。そのような中、当院では2025年度に休床中の病棟を回復期リハビリテーション病棟として再稼働する計画を進めています。これにより、急性期医療終了後に転院待ちで急性期病床に入院継続していた患者さんを、回復期リハビリテーション病棟へ転棟することができます。これにより、急性期病床の回転が早くなり、より多くの救急患者を受け入れることが期待できるのです。

「できることなら病院ではなく、自宅で療養したい」「最期は、住み慣れた自宅で迎えたい」という人は少なくありません。そういった患者さんの切実な願いを叶えるべく、当院では2022年9月に訪問診療科を立ち上げました。これは、当院が慢性期病棟を有するケアミックス型病院から、急性期病院へ転換したタイミングでの決断でした。回復期病床が存在しない佐野市における状況を踏まえての、ハイケア患者の在宅医療への移行を促進する施策です。

自宅療養中の患者さんは、年齢や病状によって定期的な通院が難しいケースもあります。そういった患者さんの自宅を訪問診療科の医療スタッフが訪問し、継続的な在宅ケアをしております。担癌患者などが中心です。

通院をせずに自宅で最期を迎えた場合、多くは警察による検死が必要になります。しかし当院の訪問診療を受けていれば、警察が介入することなく死亡診断が下せるので、ご家族も心穏やかにお見送りができるというメリットもあることを、ぜひ知っていただきたいと思います。日本人には「最期は自宅で」という文化があり、それを実現することは極めて重要と考えております。2022年9月から2024年10月までの全看取り数65名の内、在宅看取り率は74%となっております。一方、市内の訪問看護ステーションの看取り率は20%未満となっております。

当院の経営母体となっている厚生農業協同組合連合会(厚生連病院)は、全国に100病院ございますが、農村部への医療サービス提供が本来のミッションです。当院にとっても、医療資源の少ない地域への医療介入は、最優先課題といってもいいでしょう。

佐野市北部の奥佐野地区には、5ヵ所のへき地診療所があり、その医療体制は十分とはいえない状況でした。そこで県庁および佐野市役所と協議を重ね、準備を進めて、2024年度に当院はへき地医療拠点病院に指定されました。現在、2つの診療所に当院の常勤医師を派遣しております。その医療スタッフは、地域医療の経験を有する自治医科大学出身の医師と栃木県養成医からなる常勤医チームです。地域医療に情熱を持つ医師が複数集う状況を、大変ありがたく思っております。今後も、訪問診療科の医師とも連携し、奥佐野地区の医療の充実に尽力してまいります。

2015年の時点では、栃木県内で佐野市の平均寿命は最短でした。死因としては脳卒中と心臓病が多く、その引き金となる高血圧糖尿病の有病率が高い地域特性がありました。

このような環境となった原因として、疾患が悪化して自覚症状が現れ進行するまで、医療機関にかかろうとする人が少ないこと(未受診)が挙げられます。実際に佐野市では、健診受診率も県内最低でした。

そこで当院では医師会と共同し行政に働きかけ、有料で行っていた特定健診を無料化し、健診受診啓発活動を医師会や行政とともに行いました。その結果、2020年の集計結果では健診受診率の増加に加えて、平均寿命の県内ワースト1から脱却いたしました。

病気にかからないようにする予防医療(未病対策)、そして病気の早期発見・早期治療は、いかに大切なことかお分かりいただけるでしょう。今後も、市民公開講座等で未病対策活動を継続し、健診受診の啓発、市民の健康寿命の延伸、ウエルビーイングにも貢献していきたいと考えております。

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当院は、地域住民の皆様に寄り添う医療提供を理想に掲げています。理想の医療の実現のため、5疾病6事業に留まらず、医師会や行政と連携しながら地域住民の皆様が求める医療に取り組んでいきます。そのために当院は、今後も変革に挑戦してまいります。2025年度からは、新たに慶應大学形成外科学教室のプロジェクトの一貫として、美容医療へ参入する計画が進んでおります。

現在、当院が位置する両毛二次医療圏は医師少数区域であり、絶対的医療スタッフ不足の問題を抱えていて、医局の医師の引き上げ等、医療環境は以前厳しい状況です。しかし逆に考えれば、適切な医療を受けられない市民が多い状況であり、医療のチャンスはあり、まだまだ伸びしろがあるということです。当院としても、自前の医療スタッフの育成など、できることはたくさんあるはずです。

現在は医療のイノベーションが留まることはなく、DX化も加速しております。個別の人財育成のみならず、医療チーム内の業務分担、DX化にともなうタスクシェアやシフトへの大胆な対応が求められています。そのような中、地域のニーズを把握し、必要とあらば体制を一新させて、時代に順応した変革を進め、地域が求める効率的で質の高い医療を提供し、市民の健康を支えていく歩みを継続してまいりたいと考えております。「患者よし、病院よし、世間よし」をスローガンに、地域住民の皆様から、より一層信頼され、ご支援いただける病院となれるよう、職員一同、さらなる努力を重ねてまいります。

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