院長インタビュー

新しい離島医療モデルを目指す種子島医療センター

新しい離島医療モデルを目指す種子島医療センター
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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鹿児島県西之表市にある社会医療法人 義順顕彰会 種子島医療センター(以下、種子島医療センター)は、2024年に創立55周年を迎え、離島である種子島の地域医療を支え続けてきました。

現在は急性期医療や24時間365日体制の救急医療のほか、地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟などを備えた総合病院として、全方位から島民の暮らしを守っています。

そんな同センターの特長について、院長の髙尾 尊身(たかお そんしん)先生にお話を伺いました。

当センターは、1969年にわずか13床の田上容正内科として開院しました。その後、“種子島の医療は種子島で”との思いで徐々に診療科を拡充し、50年以上の歳月をかけて26の診療科と188床の病床をもつ総合病院へと進化してきました。

種子島は人口約3万人の島民のうち高齢者が4割ほどを占めることから、島内で完結できる救急医療や高齢者医療が最重要課題となります。当センターは、種子島で唯一の二次救急指定病院として24時間365日体制の救急体制を整えており、“断らない救急”をモットーに全ての患者さんを受け入れています。

また高齢者医療については、48床の回復期リハビリテーション病棟でチーム医療によるリハビリテーションに取り組むほか、外来から在宅までワンストップの看護体制により、お年寄りの皆さんが安心して暮らせるようサポートしています。

さらに、当センターは2014年にへき地医療拠点病院の指定を受け、へき地医療センターを開設しました。同センターではへき地の診療所を支援するほか、種子島産婦人科医院と連携して年間200件以上の出産をサポートしています。当センターでは常勤の小児科専門医が在籍しているため、子育て世代のご家族も安心して暮らすことができます。

種子島は鉄砲伝来の歴史をはじめ、最先端科学の象徴であるロケット基地や美しい大自然が共存する魅力あふれる島です。私たちは、この素晴らしい土地で島民の皆さんを守り抜くため、日々全力で医療活動に打ち込んでいます。

先方提供
種子島医療センター外観(種子島医療センターご提供)

当センターは種子島で唯一の二次救急を担い、年間3,000名以上の救急患者、1,000台以上のペースで救急車を受け入れています。

そのため、特に外科、整形外科、脳神経外科の緊急手術ができる医師や、心筋梗塞(しんきんこうそく)、吐血、心臓カテーテルに対応できる医師を鹿児島大学病院と連携し、救急医療に対応できる体制を整えています。また、当センターでは対応できない重篤な疾患をカバーするほか、呼吸器内科、皮膚科、泌尿器科などの専門外来の充実を図っています。

地域連携においてはドクターヘリや自衛隊ヘリを活用し、年間30~50人の三次救急対応が必要な患者さんを提携している鹿児島大学病院などの医療機関に搬送しています。

島民の半数近くが高齢者である地域にある当センターの救急医療は、超高齢化社会を迎える今後の日本前期医の地域医療のモデルケースとなるかもしれません。医療の発展に少しでも貢献できるよう、より万全な救急体制を目指したいと思います。

本院のリハビリテーション室には60~70名(県外出身7割)のPT(理学療法士)、OT(作業療法士)、ST(言語聴覚療法士)が所属し、種子島全域にわたり、365日リハビリの対応を展開しています。また、高齢の入院患者にはADL(日常生活動作)をスムースに行うためのリハビリテーション対応も実行しています。とくに術前、術後のリハビリ介入は大切で、高齢者の良好な術後回復を支えています。

当センターは、低侵襲(からだへの負担が少ない)な腹腔鏡下手術をはじめ、内視鏡検査や最新式のCT検査によるがんの早期発見など、積極的に高度医療を推進しています。

しかし島内の医療資源には限りがあるため、とくに鹿児島大学病院と連携して万全の診療体制を構築しています。私も当センターに赴任する前は、同院の消化器外科や腫瘍外科(しゅようげか)の医師として診療を行っていました。特定機能病院に指定されている同院はさまざまな先進医療に取り組んでいますが、その中でも膵臓(すいぞう)がんの手術においては非常に高い評価を受けています。当院の膵臓がんの患者さんで手術が必要となった場合は、この連携を生かして鹿児島大学病院で手術を行うこともあります。

また、脳卒中の患者は時間が勝負です。tPA治療や血栓除去術による救急治療を365日対応しています。高齢者救急が増加し、とくに大腿骨骨折患者に対しては48時間以内の手術を心がけています。救急患者に対する適切なトリアージの経験と技術が担当医師には求められ、三次救急と判断した場合はドクヘリあるいは自衛隊ヘリでの緊急搬送をします。

このように当院は、提携している医療機関の強みを活用することで、離島にいながらも質の高い医療を実現しています。

当センターは高度な医療を迅速に提供するため、常に新しい医療機器を導入するようにしています。例えば、解像度の高い画像を短時間で320列CTや1.5テスラMRIをはじめ、血管造影装置、超音波画像診断装置、全自動生化学検査機器など最新鋭の画像診断システムを取り入れ、より正確で低侵襲な診断を行っています。

2004年からは鹿児島県で最も早く電子カルテを導入し、病院経営の効率化にも取り組んでいます。このまま少子高齢化が進むと将来的に医療リソースが不足する事態が起こりかねませんが、当センターでは今から適切な投資を行い、この地で継続的に高度な医療を提供できるよう努めていきます。

当センターを運営している社会医療法人 義順顕彰会は、自衛隊基地の整備が進む鹿児島県西之表市馬毛島で2024年に馬毛島診療所を開設しました。同診療所では島内の基地の工事関係者向けに、当センターと患者さんをオンラインで繋いで診療を行っています。

診療所の開設前は、常駐する看護師や定期巡回による医師の診療に止まっていましたが、オンライン診療によってこれまで以上に幅広い疾患に対応できるようになりました。

馬毛島は種子島から西に向かって約12kmに位置する離島です。当センターは、長年培ってきた離島医療の経験を活かし、こうしたへき地医療を支援しています。

私たちは職員のワークライフバランスを重視しており、“まず自分の生活や家族が幸せでないと、患者さんを幸せにすることはできない”と考えています。そのため働き方改革が提唱される以前から、男女ともに育児休暇をとれる制度を運用してきました。本院は、島外から就職される職員が多いため、快適な種子島生活が出来るよう利便性の高い職員寮の建設、家族が多い職員には一戸建ての利用を計画的に進めています。

また当センターでは、部署を越えた職員同士の交流も盛んで、サーフィン部や釣り部などのサークル活動のほか、ゴルフコンペのような院外サークルも行われています。種子島のお祭り“種子島鉄砲まつり”には毎年多くの職員が参加するなど、地域との交流も盛んです。

先方提供

 

毎年、全国から30名以上の研修医が本院にやって来ます。殆どの医師が種子島に来るのは初めてです。とくに宣伝はしていないのですが、理由を聞くと「口コミ」のようです。先輩から勧められたとのこと。

本院を希望する研修医は、前向きで、かつプライマリーケアを学ぼうとする姿勢があります。私どもの方針は、希望の科での外来診療は勿論、種子島特有な疾患の学び、手術への参画、入院患者には主治医として診療することです。

研修医の指導は、各科の部長があたっています。私は、最初のオリエンテーションと最後の研修医発表会を担当していますが、研修医発表はユニークな発表が多く、若い医師たちへ託したい夢と期待が膨らむのを感じます。

それはまた、種子島医療への励みともなり、さらなる離島医療発展への希望に繋がるのです。

当センターは半世紀以上の間、種子島の地域医療を支え続けてきました。長い歴史を経て、島内完結の医療体制がようやく完成されつつあります。

高齢化社会への対応や先進医療の追求など課題は山積みですが、何よりもこの島を愛し、この島に住む皆さんと生きる喜びを分かち合いたいという思いが、日々私たちを医療活動へと駆り立てます。

これからも当センターは、離島医療の新しいモデルを目指し、職員一丸となって島民の皆さんを支え続けていきます。

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