
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の治療の1つにCAR T細胞療法があります。この治療は実施できる病院が限られているため、治療を受けるためには患者さんやご家族から積極的に医師に相談することも1つの選択肢です。
今回は、CAR T細胞療法を実施している兵庫医科大学病院 血液内科 教授の吉原 哲先生と、患者さんを紹介している淀川キリスト教病院 血液内科 部長の垣内 誠司先生に、実際にCAR T細胞療法を受ける際の流れや2つの病院が協力して患者さんを治療する体制についてお話を伺いました。
吉原先生:DLBCLは悪性リンパ腫の1つで、B細胞と呼ばれるリンパ球ががん化したものです。悪性リンパ腫の3分の1程度がDLBCLだといわれています。悪性リンパ腫には“病気がゆっくり進むタイプ”と“速く進むタイプ”、 “非常に速く進むタイプ”の3タイプがあり、DLBCLは“速く進むタイプ”です。
B細胞ががん化して増殖するとリンパ節に腫れが生じます。リンパ節は全身にあり、どこのリンパ節が腫れるかによって現れる症状が異なります。リンパ腫が全身に広がっている可能性があるため、初回治療は基本的に全身への効果が期待できる抗がん剤治療を選択します。
吉原先生:DLBCLの初回の抗がん剤治療では、Pola+R-CHP 療法*、またはR-CHOP療法**を行います。この初回治療によって約6~7割の方が完全奏効(検査をしても病変が検出されない状態)を達成し維持しますが、残りの約3~4割の方は病変が完全な消失には至らないか、一度は完全に消失しても再発します。この3~4割の方には次のステップの治療が必要です。
*Pola+R-CHP 療法:ポラツズマブ ベドチン(分子標的薬と抗がん剤が結合した薬)と2種類の抗がん剤、抗体薬のリツキシマブ、副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)の5種類を組み合わせた治療法。
**R-CHOP療法:アントラサイクリン系の薬を含む3種類の抗がん剤と副腎皮質ホルモン薬を組み合わせたCHOP療法に抗体薬のリツキシマブを加えた治療法。
吉原先生:CAR T細胞療法は患者さんの体からリンパ球の1種であるT細胞を取り出し、CARという遺伝子を導入してCAR T細胞をつくり体内に戻す治療法です。T細胞にCAR遺伝子を導入すると、攻撃対象であるリンパ腫細胞を見分ける能力が高まります。さらに、CAR T細胞は一度投与すれば体内で増殖しながらリンパ腫細胞を攻撃してくれます。
吉原先生:CAR T細胞療法が選択されるのは以下のような場合です。
・初回の抗がん剤治療で完全奏効に至らなかった方
・一度は完全奏効しても1年以内に再発した自家造血幹細胞移植*の対象となり得る方
・一度は完全奏効しても再発した自家造血幹細胞移植が難しい高齢の方
・初回の抗がん剤治療の後、二次治療として別の抗がん剤による治療を受けたが、改善がみられなかった方、再発された方
垣内先生:以前は、初回の抗がん剤治療で効果が得られなかった方や短期間で再発された方には、二次治療として別の種類の抗がん剤治療を行っていました。CAR T細胞療法は二次治療で効果が得られなかった方に対する三次治療として選択されることが多かったのです。
しかし最近では、初回の抗がん剤治療で効果が得られなかった方や短期間で再発された方、そして従来の抗がん剤治療が難しい患者さんの二次治療として選択できるようになり、大きなメリットを感じています。CAR T細胞療法は、抗がん剤治療とはまったく異なる作用でリンパ腫にはたらきかけるため、初回の抗がん剤治療がうまくいかなかった方にも選択肢の1つとなります。
*自家造血幹細胞移植:事前に患者さん自身の造血幹細胞(赤血球、白血球、血小板のもとになる細胞)を採取しておき、抗がん剤治療や放射線治療を行った後に移植して血液をつくる機能を回復させる治療法。体への負担が大きいため高齢の患者さんには選択しにくい。
垣内先生:CAR T細胞療法は、この治療を提供できる体制が整った病院で実施されていますが、治療を受けられる施設はまだ限られています(2024年12月時点)。
私の勤務する淀川キリスト教病院(紹介元施設)ではCAR T細胞療法は行っていません。そのため、CAR T細胞療法の対象になり得る患者さんがいた場合は、まず院内のカンファレンスでほかの医師の意見を聞きます。初回の抗がん剤治療で完全奏効に至らなかった方、一度は完全奏効したとしても1年以内に再発された方は、病気が治りにくく進行が速い可能性が高いと考えられます。中には週単位で進行するケースもあり、その場合には治療を急がなければなりません。
医師の間で見解が一致したら、患者さん本人に治療の概略をお話ししてご希望を伺います。ご本人が希望されればこの治療を実施する病院(以下、治療施設)に相談し、それまでの治療経過などの診療情報を送って、CAR T細胞療法の対象となるかご判断いただきます。治療施設にご紹介する際には、血液検査のデータなどと共に普段患者さんを診ている私たちが感じている病気の緊急度を、治療施設の医師と的確に共有できるようにしっかりと情報提供します。
治療対象になると判断されれば、受診日を決めて患者さんをご紹介するという流れです。
垣内先生:CAR T細胞療法に限った話ではありませんが、新しい治療法について自分が対象になるか知りたいと思ったときは、患者さんやご家族から医師に遠慮なく伝えていただきたいと思っています。新しい治療法が選択肢に入る場合もあれば、その方には適さない場合もあるでしょう。いずれにしても、疑問を解消しておいたほうがその後の治療に納得して取り組めるのではないかと思います。よりよい治療の実現は患者さんやご家族と医師との共通の目標ですから、ぜひ、知りたいと思われたタイミングで遠慮なくお尋ねください。
吉原先生:中には、CAR T細胞療法を実施している病院とのつながりがない病院もあるかもしれません。そのような場合でも、患者さんからCAR T細胞療法に関心を持っているというお話をされれば主治医の先生も積極的に動いてくださるのではないかと思います。
垣内先生:セカンドオピニオンは患者さんが納得して治療を受けるための手続きの1つだと考えています。主治医からある治療を提示されたときに「ほかの医師の意見も聞きたい」、「もしかしたらもっとよい治療があるのではないか」と思われるのは自然なことです。病状が急を要するときには難しいかもしれませんが、可能な状況なら積極的に活用されるとよいと思います。
吉原先生:垣内先生がおっしゃったとおり、疑問を解消し、納得して治療を受けることが何より大切です。2019年にCAR T細胞療法が導入された当初は、当院にも患者さんご自身から直接問い合わせの電話をいただくことがありました。最近では主治医の先生が十分検討されたうえでご紹介くださるケースが増えており、導入当初と比べて治療へのアクセスがよくなってきていると感じます。
吉原先生:患者さんが元々受診されている病院(以下、紹介元施設)から当院のような治療施設にご紹介いただきCAR T細胞療法を行うことが決まったら、治療に向けたプロセスを進めていきます。紹介元施設の医師とは、抗がん剤治療のスケジュールや転院のタイミングを丁寧に相談します。
まずは当院で患者さんの体からT細胞を採取する“白血球アフェレーシス”を行い、採取した細胞をCAR T細胞の製造施設へ送ります。完成したCAR T細胞が届くまで1~2か月程度かかるため、その間は紹介元施設で症状をコントロールするための治療(ブリッジング治療)を受けていただきます。なお、患者さんの体から採取したT細胞から、CAR T細胞が必ずしもうまくできあがってくるとは限らないため、製造不良が起こった場合の対応についても相談しておきます。ただし、近年は製造不良の頻度は下がっています。
垣内先生:CAR T細胞療法がふさわしいと判断した場合も、T細胞を採取してからCAR T細胞が製造されて実際に投与するまでは1か月以上時間がかかります。なるべく病気が落ち着いた状態でCAR T細胞を投与したほうがよい結果が期待できるため、紹介元施設ではその間に抗がん剤治療などのブリッジング治療を行います。患者さんには「CAR T細胞療法にしっかりつなげられるよう頑張りましょう」とお話しし、これからCAR T細胞を投与するまでの治療の流れをイメージしていただけるよう努めています。
吉原先生:当院では、医師からの説明だけでなく、日本造血・免疫細胞療法学会認定の“造血細胞移植コーディネーター”が、費用や退院後の生活面も含めご相談を受けるなど、よりスムーズに治療に入れる環境を整えています。
CAR T細胞が届いたら当院(治療施設)に入院していただき、治療効果を高める目的で軽い抗がん剤治療を行ったうえでCAR T細胞を投与します。
吉原先生:当院(治療施設)でCAR T細胞療法を行った後は、合併症などをチェックし状態が安定したら退院となります。
CAR T細胞療法で起こり得る合併症には短期的なものと中長期的なものがあります。CAR T細胞投与後の入院期間中に起こりやすいのは、サイトカイン放出症候群と神経系事象です。兆候を見逃さないように注意して見守り、必要な場合はこれらに対する治療を行います。これらはおおむね入院中に改善しますが、血球減少はどのくらいの期間続くか予測が難しく、中には1か月以上継続する方もいます。低ガンマグロブリン血症*はさらに長期的に経過をみる必要のある合併症です。
基本的には治療後は紹介元施設に戻られる患者さんがほとんどです。紹介元施設に戻られる際は、治療経過や合併症の治療方針を紹介元施設の医師にしっかりと共有します。
垣内先生:血球減少がみられる患者さんは、定期的に輸血や注射が必要です。一人ひとり血球減少の度合いが異なるため、私たち紹介元施設では、治療施設からの情報を基に治療計画を組んで対処します。また、低ガンマグロブリン血症によって免疫力が低下したり、血球減少によって感染症にかかりやすくなったりすることもあります。発熱すると重症化する可能性もあるため、患者さんには体調に異変があればすぐに連絡するようお話ししています。
*低ガンマグロブリン血症:体内の免疫グロブリン(異物を排除するためにはたらく抗体)が不足している状態。
吉原先生:CAR T細胞療法は、DLBCLの寛解維持が期待できる治療法です。従来は、初回の抗がん剤治療で効果が得られなかった方や早期に再発した方の治療は難しいと考えられていましたが、CAR T細胞療法によって4割程度の方に寛解維持を見込めるようになったのは大きな進歩といえます。DLBCLの治療は着実に進歩してきています。希望をもってよりよい状態を一緒に目指していきましょう。
垣内先生:近年のDLBCLの治療の進歩は目覚ましいものがあり、これまで主流だった抗がん剤治療とはまったく異なるメカニズムによる治療法が登場してきています。そのようななかで大切なのは、患者さんと医師がよりよい治療を目指して、それぞれの思いを共有することではないでしょうか。疑問や要望があれば率直に医師に投げかけていただき、よく相談したうえで、それぞれの患者さんにより適切な治療を提供できればと思っています。
兵庫医科大学病院 血液内科 教授・診療部長/輸血・細胞治療センター 副センター長
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