概要
ウィリアムズ症候群とは、成長発達の遅れや大動脈弁上狭窄などの心血管疾患、妖精様顔貌と呼ばれる特徴的な顔つきなどが現れる症候群です。染色体異常が原因で発症し、先天性心疾患の発見をきっかけにしばしば乳幼児期に診断されます。
ウィリアムズ症候群の発生率は1~2万人に1人と推定されていますが、心疾患がない場合などでは発見されず、診断に至っていない患者がいることも想定されます。
ウィリアムズ症候群で生じる病気や症状は多様で、個々によってさまざまです。現在、根治がのぞめるような治療法はないものの、経過を通じて定期的な診察を受け合併症の早期発見に努めることが重要です。
原因
染色体異常が原因です。ウィリアムズ症候群の患者では、7番染色体に非常に微細な欠失がみられることが分かっており、2本ある染色体のうちの1本に欠失が確認されます。欠失した部分にはおよそ20個の遺伝子が存在し、欠失した遺伝子の種類により心血管疾患や視空間認知障害などを発症します。
子どもがウィリアムズ症候群であっても、その兄弟や姉妹が同様に病気を発症する可能性は低いとされています。つまり、仮に第一子がウィリアムズ症候群を発症した場合でも、その弟や妹が同じようにウィリアムズ症候群を発症することはまれということです。一方、患者の子どもには約50%の確率でウィリアムズ症候群が遺伝することが分かっています。
症状
ウィリアムズ症候群でよくみられる症状として、発達の遅れや低身長、視空間認知障害や過敏症、音楽への嗜好などの認知特性が挙げられます。また、太い内側眉毛や腫れぼったい眼瞼、上向きの鼻孔などを現す妖精様顔貌と呼ばれる特徴的な顔つきがみられます。
このほかにも以下のような多彩な全身疾患や症状を現すことがあります。
- 心血管疾患……大動脈弁上狭窄や心房・心室中隔欠損、肺動脈狭窄など
- 内分泌疾患……甲状腺機能低下症や高カルシウム血症など
- 腎泌尿器疾患……腎臓の形態異常や膀胱憩室など
- 消化管疾患……胃食道逆流や直腸脱、鼠径ヘルニアなど
- 整形外科疾患……関節弛緩(幼少期)、関節拘縮(青年期)など
- 眼科疾患……斜視や遠視など
- 耳鼻科疾患……難聴や中耳炎など
- 歯科疾患……咬合不全など
ただし、上記のような病気や症状全てが、全ての患者に現れるわけではなく、現れる病気や症状は個々によってさまざまです。
検査・診断
乳幼児期から成長発達の遅れや低身長、妖精様顔貌(腫れぼったい眼瞼や太い内側眉毛、上向きの鼻孔など)といわれる特徴的な顔貌などを認める場合には、ウィリアムズ症候群の可能性を疑い、遺伝学的検査が行われます。
遺伝学的検査には、FISH法(fluorescence in situ hybridization:蛍光in situ ハイブリダイゼーション)という特定の遺伝子座*を確認できる手法を用います。通常、7番染色体にはタンパク質の構成に関わるエラスチン(ELN)遺伝子がありますが、ウィリアムズ症候群の患者はELN遺伝子の領域が欠失しています。FISH法でこの領域の欠失が確認されればウィリアムズ症候群と診断されます。
FISH法に加え、最近新たにマイクロアレイ染色体検査が保険適用となりました。この検査方法は、染色体の微細な欠失や重複を網羅的かつ確実に調べる方法です。事前にウィリアムズ症候群の可能性が考えられていなかった場合でも、マイクロアレイ染色体検査で発見される場合があります。
ウィリアムズ症候群であることが分かった場合、心血管疾患合併の有無や程度などを確認するため、心エコー検査や胸部X線検査などが行われます。必要に応じて心臓カテーテル検査が行われることもあります。
*遺伝子座……染色体上における遺伝子の位置
治療
ウィリアムズ症候群を完治させるための治療法はありません。そのため、出現する病気や症状に対する治療が中心に行われます。
たとえば、心血管疾患や高血圧は心筋梗塞による突然死などを引き起こす可能性があり、命に関わる恐れもあるため、発症リスクに備えて定期的な検査や診察が行われます。また、重度の大動脈弁上狭窄の場合や腎血管性高血圧を生じている場合には、外科手術が考慮されることがあります。
このほか、必要に応じて作業療法や言語指導、理学療法、心理カウンセリングなどを行うこともあります。
予防
ウィリアムズ症候群を予防するための方法はありません。
すでにウィリアムズ症候群と診断されている場合には、起こり得る合併症の予防と早期発見が重要となるため、定期的な検査や診察が必要です。また、ウィリアムズ症候群でみられることのある高カルシウム血症により、しばしばビタミンDの代謝異常を生じます。そのため、乳幼児期から老年期まで、ビタミンDを含む総合ビタミン薬の使用には注意が必要です。
このほか、ウィリアムズ症候群の患者で麻酔の使用中に突然死を起こした例が報告されています。そのため、外科手術や心臓カテーテル検査など麻酔を使用する際にも注意が必要です。
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