ウェルナー症候群は、20歳頃を境として急速に老化が進行するように見える早老症の一つです。実際の年齢よりも老化しているように見えることに加え、糖尿病やコレステロール、中性脂肪の異常を意味する脂質異常症に罹患する方も多く、動脈硬化や悪性腫瘍が進行しやすいことが明らかになっています。
ではその治療や患者さんの予後はどのようになっているのでしょうか。千葉大学医学部附属病院の横手 幸太郎先生は、ウェルナー症候群の診断や治療に加え、疾患の解明や治療法の確立などにも取り組んでいらっしゃいます。
今回は、同病院の横手 幸太郎先生にウェルナー症候群の治療や予後、治療法確立に向けた取り組みについてお話しいただきました。
ウェルナー症候群の原因や症状に関しては、記事1『日本人に多い早老症のひとつ・ウェルナー症候群の原因や症状とは?』をご覧ください。
ウェルナー症候群の根治的な治療法は、現状では確立されていません。そのため、治療は、患者さんそれぞれに現れている症状への対症療法になります。
たとえば、糖尿病の症状が現れている方は高血糖の治療、悪性腫瘍に罹患した方は腫瘍の切除など、適切な治療が必要となります。
ウェルナー症候群の患者さんは、昔であれば40代で亡くなる方が大半でしたが、近年では60代まで元気に生活されている方も少なくありません。
死亡の主な原因のうち、最も多いものは悪性腫瘍であるといわれています。悪性腫瘍と聞くと、胃がんや肺がんなど、一般的によく知られているがんをイメージする方も多いのではないでしょうか。もちろん、これらのがんに罹患する方もいます。
しかし、ウェルナー症候群の方が罹患することが多い悪性腫瘍は、骨や筋肉などの組織から発生する肉腫(サルコーマ)と呼ばれる腫瘍です。たとえば、悪性黒色腫や骨肉腫、横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)と呼ばれる肉腫が現れることがあります。また、一般的ながんのなかでは甲状腺がんが比較的多いとされています。
ほかにも、心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化で亡くなる方もいらっしゃいます。
また、足にできた傷が悪化し、骨髄炎(骨に細菌が侵入し化膿性の炎症が起きる疾患)を起こし、敗血症や臓器不全で亡くなってしまう方もまれにいます。
ウェルナー症候群の患者さんにとって、悪性腫瘍ができていないかを定期的に検査をすることはとても大切です。また、糖尿病がある場合には、重症化していないか、コレステロール値が高くなっていないかなど、適切な管理が必要となります。
また、細胞の老化により足に傷ができやすいので、クッション性の高い足の形に合った靴を履くことが有効です。
魚の目やタコができやすいことも特徴です。その場合、無理に削ってしまうと、傷となり再生しづらいため重症化しかねません。このため、皮膚科など足のケアを専門とする医師に診てもらうことが大切です。
また、糖尿病内科でもフットケアを専門的に行っているところは多いので、アドバイスを受けることができるでしょう。
ウェルナー症候群には、よい動物モデルがないため、病態の研究がこれまで十分に進みませんでした。
そこで、私たちが近年、注力している取り組みとして、患者さんの皮膚や血液の細胞からiPS細胞を生成する研究があります。この方法を用いて、老化が進みやすい原因や新たな治療薬の模索を行うことができると期待しています。
また、iPS細胞で患者さんの遺伝子を修復した後に皮膚に再分化させ、皮膚潰瘍に対する再生治療にも応用できればと考えています。
女性が妊娠・出産をすることで、この疾患が進行することはないといわれています。そのため、妊娠や出産によって生命予後が悪化するリスクはないと考えてよいでしょう。
しかし、ウェルナー症候群は遺伝子を原因とする疾患であるため、お子さんの罹患を気にされる方も多いのではないでしょうか。
記事1でお話ししたように、両親のどちらか片方がウェルナー症候群である場合、お子さんは遺伝子を必ず1つ保有することになります。遺伝子を1つ持つだけでは、ウェルナー症候群を発症することはありません。
繰り返しになりますが、ウェルナー症候群は、代々遺伝していくようなものではありません。しかし、遺伝子を保有している者同士に子どもができた場合、4人に1人の割合で疾患に罹患する可能性があります。
ウェルナー症候群は、早い段階から精巣機能や卵巣機能が低下しやすく、およそ30歳代から生殖機能が低下し始めます。
女性には、20歳代で結婚し、妊娠・出産をする方が少なくないためにお子さんを持つ患者さんも数多くいらっしゃいます。それに対して、男性の場合は、結婚する年齢も高い傾向にあるためお子さんを持つ患者さんは多くありません。
ウェルナー症候群には「患者家族の会」があります。人にはいいづらい不安を相談したり、日常生活や治療で工夫していることを情報交換するなど、前向きに療養に取り組める場になっていると思います。また、家族同士が交流することで、支える家族も前向きになれるようなつながりを持っていただいています。
さらに、2018年の2月には、アジアで初めてウェルナー症候群と早老症の国際シンポジウムが日本(千葉県木更津市)で開催されます。世界中から研究者や医師、患者さんとご家族が集まる予定です。
このような活動を通して患者さん同士のつながりができ、前向きに治療に取り組むきっかけになればと願っています。
私たち千葉大学医学部附属病院では、全国レジストリーを行っています。全国にいるウェルナー症候群の患者さんの情報を登録してもらい、予後の調査などを行っているのです。
この取り組みは、研究で新たに発見したことを患者さんへお伝えし生かしてもらうことにもつながりますし、患者さんが困っていることを聞いて、研究へフィードバックする意義もあります。
お話ししてきましたように、ウェルナー症候群は早老症の一つです。その名称から、通常よりも早く年をとってしまい若い頃から大変な生活が待っていると悲観する方も少なくありません。
しかし、「早老」というのは、この疾患の一側面に過ぎません。イメージに左右されず、正しい情報とともに治療にあたってほしいと考えています。
この疾患には、糖尿病や動脈硬化に罹患しやすいという特徴があるものの、今ではそれぞれに効果的な治療法もあります。特定の悪性腫瘍が発生しやすいことも既にわかっているので、早期発見・早期治療を受けることができれば重症化を防ぐことも可能です。
実際に、ウェルナー症候群を抱えながらも元気に前向きに生活されている方がたくさんいらっしゃいます。悲観し過ぎることなく、正しい情報とともに、この疾患と付き合っていってほしいと思っています。
千葉大学医学部附属病院長 、千葉大学 副学長、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 教授
千葉大学医学部附属病院長 、千葉大学 副学長、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 教授
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医・内科指導医日本糖尿病学会 糖尿病専門医・糖尿病研修指導医日本老年医学会 老年科専門医・老年科指導医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医
代謝内分泌学、血液病学、老年医学の診療・研究・教育に力を入れて取り組む。「specialistである前にgeneralistであれ」をモットーとし、目の前の患者さんの初期診療にしっかりと向き合うことを怠らず、自身の専門領域では高度な医療を実践し、専門以外の病気では適切な専門家へと委ねることができる内科医になるべきだ、という内科医育成のビジョンを掲げる。また、日々最新の医療を展開する環境で診療をこなす傍ら、講演活動やメディアへの出演も行い、精力的に医療の質の向上へ貢献している。
横手 幸太郎 先生の所属医療機関
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