ライム病はマダニに噛まれることで発症し、関節痛、筋肉痛、倦怠感を引き起こします。ライム病検査には2種の血液検査がありますが、多くの場合これらの検査は必要ではありません。以下にその理由を説明していきます。
このような発疹があり、最近ダニに噛まれていたり、ライム病の流行地域に滞在していたことがある場合は、検査は必要ありません。その代わり、抗菌薬治療を開始することが適切な対応といえるでしょう。
「痛みがある」、「疲れがある」といった理由でライム病の血液検査を受ける人もいます。これらの症状は、関節炎、うつ病、インフルエンザなどといった他の病気からでも生じることがあるくらい一般的な症状なので、こういったあいまいな症状があるだけでは、ライム病が原因となっているとはいえません。
ライム病の血液検査は偽陽性(病気ではないのに陽性という結果が出ること)になることがあり、病気ではないのに病気にさせられてしまう場合があります。最大4分の1の確率でこういったことが起こります。
偽陽性の結果がでると抗菌薬による不必要な治療につながりかねません。これらの薬剤は基本的には安全な薬ですが、吐き気や嘔吐、下痢、日光過敏といった副作用を引き起こすことがあります。また、まれに命に関わるアレルギー反応を引き起こすこともあります。
過剰な抗菌薬投与は、薬剤に耐性を持つ微生物を増やすことにつながります。体内の微生物が薬剤耐性を獲得すると将来治療をする際に、より困難になってしまいます。
偽陽性の結果はさらなる不必要な血液検査、尿検査、レントゲン、医師の診察にもつながり兼ねません。
また偽陽性であった場合、真の痛みの原因に対する治療が行われないことも考えられます。例を挙げると関節リウマチでも関節痛をきたしますが、早期の段階で的確な治療を受けられなかった場合には、不可逆的かつ重篤な関節の障害を残してしまうことになりかねません。
米国の報告ではライム病に対する血液検査は、医師の診察代に加えて約230ドル(日本円で約25000円)の費用がかかります。さらに偽陽性が出てしまえば、不必要な治療に余分な費用を払うことになります。
ライム病に罹っていても、発疹が出ない場合もありますし、発疹が消失する前に気づかない場合もありえます。こういったケースでは、医師が病歴聴取と身体診察を行い、下記のようなライム病の特徴があるかどうかを探すことになります。
・ライム病が流行っている地域にいたことがあるか
・発赤、熱感、腫脹が一箇所または複数以上の関節で一度に出ていないか(特に膝、肩、手首)
その他の症状は後々出てきます。こういった場合には検査と治療が必要かどうか医師と話してみましょう。
以下の方法でダニに噛まれるのを防ぐことができます。
●ダニに接触しない
背の高い草や葉に覆われた林や茂みを避けましょう。晩春から夏にかけてよく出現します。道の真ん中を通るようにしてください。
●ダニに気をつける
マダニは黒色で小さく、サイズは胡麻粒くらいです。流行地域に行く場合は、肌の露出を避けましょう。
・長袖、長ズボン、靴下、つま先が出ていない靴を履くこと。
・シャツをズボンの中に、ズボンを靴下の中に入れること。
・ダニが付いていてもわかりやすいように明るい色の服を着ること。
●殺虫剤を使う
露出した肌の上に、少なくとも20%のDEETを含んだ殺虫剤を塗ってください(切り傷、かすり傷の箇所は避けます)。洋服、靴、テントなどにはペルメトリンを含む製品を使用しましょう。殺虫剤をすでに塗られている洋服を購入するのもよいです。
●ダニがいないか調べる
・ダニのいる地域から帰った際にはすぐに自分の身体を調べてください。そして2時間以内にシャワーを浴びましょう。
・ダニを持ち込む可能性があるペットやコート、リュックを念入りに検査しましょう。
・高熱で1時間かけて衣服を乾燥させ、ダニを殺しましょう。
●ダニを適切に取り除く
ダニを発見したら、すぐにピンセットで丁寧に取り除いてください。ダニの頭が皮膚に入っているところをうまく掴んでください。
※本記事は、徳田安春先生ご監修のもと、米ABIMによる “Choosing Wisely” 記事を翻訳し、一部を日本の読者向けに改稿したものです。
翻訳:Choosing Wisely翻訳チーム 大阪大学医学部付属病院 佐竹祐人
監修:和足 孝之、徳田安春先生
群星沖縄臨床研修センター センター長 、東京科学大学 臨床教授、獨協大学 特任教授、琉球大学 客員教授、筑波大学 客員教授、聖マリアンナ医大 客員教授、総合診療医学教育研究所 代表取締役、Choosing Wisely Japan 副代表、Journal of Hospital General Medicine 編集長
島根大学 卒後臨床研修センター
日本内科学会 認定内科医
日本有数の急性期病院で総合内科医として幅広く重症患者を診療した経験から、複数疾患を持つ高齢者が増加し続ける今後の日本の医療で必要なものは”ジェネラルマインド”であると訴え続けている。総合診療の領域で現在有名となっている東京城東病院・総合内科では、当初1人だけで勤務する立ち上げ業務から開始、同院総合内科が現在の地位を築く礎を作った。その後、2015年度より旅行医学・臨床熱帯医学を修めるためにタイの名門 マヒドン大学臨床熱帯医学大学院へ。そして、2016年より島根大学卒後臨床研修センターに在籍。全世界に通用する日本の医療を目指して、Choosing Wisely翻訳プロジェクトに参画。
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