乳児期は股関節が未発達で、寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)だけでなく、大腿骨頭が臼蓋から完全に外れている、または外れかかっている発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)などの股関節疾患がみられることがあります。
もし乳児期に発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)が見つかった場合にはどのように対処すればよいのでしょうか。
乳児期の股関節疾患である発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)について、記事1『股関節の痛みの原因となる寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)とは? 症状や手術について』に引き続き北里大学医学部整形外科 助教(北里大学病院 整形外科) 福島健介先生にお話を伺いました。
※記事1はこちら【記事1:寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)とは−症状と手術について 】
乳児期は股関節が未発達で、寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)だけでなく、発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)が起こりやすい状態です。
発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)とは、大腿骨頭が臼蓋から完全に外れている(=脱臼)、または外れかかっている(=亜脱臼)状態のことをいいます。
以前は先天性股関節脱臼と呼ばれていましたが、発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)は必ずしも先天的なものではなく、生活習慣などによって後天的に起こることもあります。そのため最近では病態を考慮して発育性股関節形成不全という名称が広く用いられています。
乳児期に発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)がみつかった場合、手術を行わなくても生活指導を含めた整形外科医の治療によって改善する可能性が高いため、早期発見が重要となります。
生後3〜4か月に行われる健診では、股関節の開き具合や、左右の足の長さ・左右の太腿のしわの違い、クリックサイン(脱臼の独特のコリコリとした音)などをチェックします。しかし、以前に比べると病気の発生率が低下しているということもあり、健診を主に担当する小児科の医師が発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)を発見することが難しくなってきているという問題が生じています。
まれにですが、乳児期に脱臼を見逃してしまった場合、2~3歳になっても歩けないことで発覚するケースもあります。発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)では股関節がグラグラしていて安定性がないため、歩行開始時期になっても歩くことができないからです。
視診や触診によって、発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)が疑われる場合に、レントゲン検査やエコー検査を行うことがあります。
レントゲン検査では、股関節を正面から撮影して主にShenton線とCalve線という補助線を用いて診断します。
Shenton線とは、閉鎖孔の上縁の線と小転子から大腿骨幹内縁に向かう線で、Calve線とは、大腿骨頸部の外縁と腸骨の外縁を結んだ曲線のことです。(下図参照)
どちらも正常な場合は、途切れることなく滑らかな曲線を描くことができますが、発育性股関節不全(先天性股関節脱臼)の場合は、この曲線が乱れます。
ただし乳児期は、まだ骨が発達していないのでレントゲン診断が難しい場合もあります。
また、放射線被曝のリスクから、検査自体に抵抗があるという保護者の方もいらっしゃいます。これらの場合、レントゲン検査を行わないこともあります。
なおエコーでの検査は、医師がエコーセミナーを受講して知識を習得したり、機械を導入したりする必要があるため、まだ広く普及はしているとはいえませんが、安全で確実性の高い検査方法なので今後広まっていくと考えられます。
乳児期の寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)や発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)を確実に発見するために、4か月健診とは別に乳児の股関節健診を行っている自治体もあります。
たとえば、千葉県松戸市では「松戸式スクリーニング」という乳児股関節健診を実施しています。
松戸式スクリーニングでは、家族の既往歴や分娩時胎位など危険因子となる6項目を点数化して計測し、2点以上であれば整形外科医によるレントゲン検査を受けるという流れで、自治体全体で発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)の早期発見を目指しています。
【松戸市で行われる乳児股関節検診の検査項目】
発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)は、症状の程度やみつかった時期によって治療法が異なります。
股関節が柔らかい乳児期にみつかった場合は、股関節を正常な位置に保つように、生活指導で治していきます。それでも改善がみられない場合は、乳児にリューメンビューゲルという装具を装着するリーメンビューゲル法や、乳児をベッドに固定して足を引っ張る牽引法によって、正常な股関節の形成を促します。
また、程度によっては、現在痛みなどの症状が出ていなくても、大人になってから症状が出る可能性が高いため、筋力や傷の回復力も考慮して早期の手術を検討することもあります。
リーメンビューゲル法とは、リーメンビューゲルという、あぶみ式のバンドを装着して股関節を矯正する治療法です。
乳児の足を伸ばす力を利用して股関節を奥に押し込み、股関節を正常な位置に戻します。
リーメンビューゲルは、早期に発見された、発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)に対して有効な治療法ですが、かえって骨を痛めて骨頭が変形してしまうリスクもあります。
牽引法とは、乳児の足を牽引して股関節を正常な位置に矯正する治療法です。
リーメンビューゲル法に比べると骨頭が変形する可能性は低いものの、3か月程度の入院を要するため母子ともに負担が大きいというデメリットがあります。
そのため、最近では自宅で治療を行うためのホームキットも開発されています。
ソルター法は骨盤から骨を切り取って、大腿の骨頭を覆うように臼蓋を形成する手術です。
正常な股関節を形成するために、思春期になる前(主に3~6歳)の子どもに適応される骨切り術です。
乳児期の発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)は日常生活で予防・改善することができます。
たとえば以下のような点に気をつけて乳児のケアを行ってください。
おんぶや抱っこをする際には、乳児の足が開いている状態を保つことが大切です。
また、スリング(乳児を包み込むようなタイプの抱っこ紐)は正しく使用しなければ、脱臼の原因になるので気をつけましょう。
巻くタイプのおむつやゆとりのない服は、股関節を締め付けるため脱臼しやすくなります。
おむつはサイズの合ったものを締め付けないように当てましょう。
サイズの合っていない小さい衣類や重ね着は股関節を圧迫してしまいます。
ゆったりとした柔らかい素材の衣服を選ぶようにしましょう。
発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)は、早期に発見することができれば、生活習慣に気をつけるだけで治療が可能な例が多くあります。
乳児は脱臼していても痛みがなく気づきにくいので、少しでも違和感があれば、早めに検査を受けるようにしてください。
また、寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)は、必ずしも痛みが出るわけではないため、治療法や治療のタイミングは人それぞれです。
また、医師や施設によっても寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の治療に対する考え方は異なります。みつかった時点で完璧なかたちで治すという考えもありますし、患者さん自身の再生能力に期待して可能な限り手術を避けるという考え方もあります。
かつては、寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)の患者さんは重いものを持つな、運動するな、妊娠出産するな、という考えの医師もいました。
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寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)によって、できることは限られてしまうかもしれませんが、一度きりの人生なので、患者さんには好きなことを諦めないでほしいと考えます。
北里大学医学部整形外科学 診療講師
福島 健介 先生の所属医療機関
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