気管支喘息では、薬物治療による症状のコントロールが基本の治療です。今回は、気管支喘息の治療法や日常生活を送るうえでの注意点について、国立国際医療研究センター病院の呼吸器内科診療科長である放生 雅章先生にお話を伺いました。
気管支喘息では、吸入薬や飲み薬による薬物療法を行います。治療の目標は、できるだけ少ない薬、少ない量で症状のコントロールを図ることです。そのため基本的には、気道に対して直接作用する“吸入ステロイド薬”を継続して使用します。
もし、吸入ステロイド薬だけで症状がコントロールできない場合には、患者さんの状況に応じて、以下のような治療薬を使用します。
近年では、新しい分子標的薬がいくつか開発されてきています。
これまで、気管支喘息を引き起こす物質である好酸球を抑制する“抗IL-5抗体”や、IgE抗体を抑制する“抗IgE抗体”という分子標的薬が使用されてきました。加えて、近年では好酸球をコントロールしているサイトカインであるIL-4/IL-13に対するデュピルマブやTSLPに対するテゼペルマブという分子標的薬が登場し、今後重症の喘息患者さんに対する分子標的薬の使用が増えてくると考えられます。
先述したように、吸入ステロイド薬は気管支喘息治療の基本となります。そこで、吸入ステロイド薬を使用するうえでの注意点について説明します。
患者さんのなかには、症状がよくなったからといって、吸入ステロイド薬を中断してしまう方がいらっしゃいます。しかし、吸入ステロイド薬を中断してしばらくすると、気管支の過敏性が治療前の状態に戻ってしまうため、いつ発作が起きても不思議ではありません。
気管支喘息は、残念ながら完治の望めない病気であり、発作が起きていないとしても、それは治ったわけではありません。吸入ステロイド薬の使用は、飲み薬に比べると少しテクニックが要るものですが、吸入を続けることが急な発作を起こさないためには重要です。
吸入ステロイドの使用にあたっては、携帯用ピークフローメーターという器具を使用して呼吸機能を評価し、それを喘息日誌に記録をして自己管理することが大切です。医師はこの結果をもとに、吸入ステロイド薬を使用する、または受診をするタイミングを計ることができ、きめ細かな対策を立てることができます。
吸入ステロイド薬は、気管支から全身へはほとんど吸収されないため、全身的な副作用が起こることはほとんどありません。
局所的な副作用としては、嗄声といって声がかすれることがありますが、この場合は吸入ステロイド薬の種類を変えたり、吸入のタイミングを変えたりして対応します。口腔カンジダ*を防ぐために、しっかりうがいをすることも大切です。また、吸入ステロイド薬は、妊娠中の方でも使用可能です。
*口腔カンジダ……真菌の一種であるカンジダ菌による口腔内疾患のひとつ
気管支喘息の治療目標は、“症状をコントロールして、健康な方と同じような生活を送ること”です。そのため、日常生活に大きな制約があってはいけないと考えています。ただし、以下のようなことに注意することは大切です。
風邪などの感染症は、気管支喘息の症状を悪化させる要因です。そのため、人混みに出るときにはマスクをつけたり、インフルエンザワクチンなどの予防接種を受けたりするなど、感染症への対策を十分に行うようにしましょう。
気管支喘息の原因物質である、ダニや真菌などをできるだけ吸入しないようにするために、家の掃除をこまめに行うようにしましょう。その際、大切なことは、ダニなどをキャッチする“HEPA(ヘパ)フィルター”のついた掃除機を使用することです。
ヘパフィルターがついていない掃除機では、せっかく吸引したダニやホコリを、排気と一緒に再び室内に撒き散らしてしまいます。ですから、できればこのような掃除機を使用して、こまめな掃除を心がけましょう。
ペットの毛に付着したフケ(たんぱく質)も、気管支喘息の大きな原因です。すでにペットを飼っている方の場合には、せめて寝室には入れないようにしましょう。
喫煙をやめるだけでなく、自らの周囲からタバコの煙を遠ざけるようにしましょう。
当院では、“喘息死ゼロ”を目標に、気管支喘息の治療にあたっています。この目標を達成するために重要なことが、開業医やクリニックといった地域の医療機関と日頃からしっかりと連携を図ることです。
こうすることで、地域の医療機関では対処できないような重症の喘息発作が起きたときに、当院にかかったことのない患者さんであっても、スムーズな受け入れが可能です。これからも、気管支喘息で亡くなる患者さんを出さないよう、地域の医療機関と協力しながら診療を行っていきたいと思います。
国立国際医療研究センター病院 呼吸器内科診療科長 第一呼吸器内科医長
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