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心不全の治療とは? 心不全のステージ分類と基本方針

心不全の治療とは? 心不全のステージ分類と基本方針
中島 敏明 先生

獨協医科大学 特任教授

中島 敏明 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年07月26日です。

心不全とは、何らかの原因で心臓のポンプ機能が低下し、血液循環が悪化することで、さまざまな症状があらわれる状態です。心不全は病状によってステージがわかれ、治療目標も異なります。心不全のステージ分類と治療の基本方針について、獨協医科大学の中島敏明先生にお話を伺いました。

記事1『超高齢社会で増加を続ける心不全 その原因とは?』でお話ししたように、心不全になると、急性心不全慢性心不全を交互に起こします。2017年には、それまで急性心不全と慢性心不全にわかれていた診療ガイドラインが一本化され、一貫した治療や経過観察が可能になりました。

心不全は、その病状によってステージA〜Dまで、段階的に分類することができます。

ステージAは、器質性心疾患(心臓の弁、血管あるいは筋肉に異常がある病気)がないけれど、高血圧糖尿病動脈硬化性疾患などを発症している状態をさします。

ステージAでは、心不全の症状はあらわれません。

ステージAが進行すると、ステージBに移行します。ステージBは、心筋梗塞、高血圧による左室肥大など、器質性心疾患を伴います。心不全の症状はあらわれません。

ステージCになると、心不全に特徴的な症状があらわれます。急性心不全を発症する、あるいは慢性心不全急性増悪(きゅうせいぞうあく)(急激に状態が悪化すること)を繰り返します。

ステージDは、難治性(治療を行なっても治りにくい)の末期心不全です。心不全のさまざまな症状があらわれます。

心不全のリスク

心不全に対する治療では、前項でご説明したステージごとに、適した治療を行います。

心不全のステージAでは、高血圧糖尿病といった心不全の危険因子に対するコントロール(治療)を行います。また、塩分摂取量の管理など、生活習慣の改善を試みます。

心不全のステージBでは、器質性心疾患の進展や、心不全の発症を予防するための治療やコントロールを行います。さらに、塩分摂取量の管理や運動療法などによって、生活習慣の改善を試みます。(心不全の薬物治療については後述します。)

心不全のステージCでは、急性心不全慢性心不全が交互に起こるため、それらの治療を行い、症状をコントロールします。ステージCの大きな目標は、心不全による再入院を防止することと、突然死を防ぐことです。また、患者さんのQOL(生活の質)を維持することも目的のひとつです。

ステージDは難治性の末期心不全ですから、緩和ケア終末期ケアが必要になります。

緩和ケア・・・生命を脅かす病気による問題に直面している患者さんとその家族に対して、痛みやそのほかの身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、QOL(生活の質)を改善するアプローチをさします。

※引用元:WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義、2002年

急性心不全慢性心不全では、治療の内容が変わります。

急性心不全に対しては、症状を改善し患者さんを救命する治療を行います。一方、慢性心不全に対しては、心機能の悪化と急性増悪を防止し、生命予後を改善する治療、あるいは患者さんのQOLを改善する処置を行います。

しかしながら、心不全の原因は幅広いため、その原因を明らかにしたうえで適切な治療を行うという方針は一貫しています。

急性心不全になると、心臓のポンプ機能が急激に低下します。血液循環が悪化し、生命にかかわることもあるため、救命を目的として、早急に治療を開始する必要があります。

急性心不全で病院へ運ばれてきた場合、一般的には初期治療として酸素投与を行い、安静にしたうえで、心臓のポンプ機能を改善させる強心薬、昇圧剤、血管拡張薬などを投与します。さらに、むくみがひどい場合には利尿剤を投与します。

以上の治療を施しても心機能が回復しない場合、人工呼吸器を導入します。さらに、血液循環を補助するための大動脈バルーンパンピング、あるいは経皮的心肺補助法(PCPS)などを行います。

大動脈バルーンパンピング・・・専用のバルーン付カテーテルを体内に留置し、心臓の動きにあわせてバルーンを拡張・収縮させることによって、心臓の負担を軽減させる補助循環の方法。

経皮的心肺補助法(PCPS)・・・遠心ポンプと膜型人工肺を用いた循環・呼吸の補助を目的とした体外循環法。経皮的に脱・送血管を挿入して施行します。

さらに心臓移植を考慮するケースでは、補助人工心臓(VAD)を装着します。補助人工心臓(VAD)とは、急性または慢性心不全に陥った心臓の代わりに、血液循環に必要なポンプ機能を補う治療用装置です。

補助人工心臓(VAD)

少し前までは、重症の心不全に対する治療法は限られていました。しかし、治療法の進歩によって、現在では補助人工心臓を入れることで患者さんが退院できるケースもあります。

慢性心不全に対しては、おもに心不全の原因となる病気の治療・管理と、生活改善が基本となります。

たとえば、虚血性心疾患がある場合にはバイパス手術(血行を改善するために新しい経路をつくること)を行う、弁膜症によって心機能が低下していたら弁置換術を行うなど、その方法は病気によってさまざまです。(詳しくは後述します。)さらに、心機能の悪化を防ぐために、生活改善を行います。たとえば、塩分制限運動療法などがあります。

心不全薬物療法で使われる治療薬にはさまざまな種類がありますが、ここではいくつか代表的なものをご紹介します。

薬物療法のメインとなるβ遮断薬やACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アルドステロン拮抗薬

β遮断薬は心臓の収縮力を低下させる作用があるため、ある時期までは、心不全には禁忌とされていました。しかし、投与量の適正な管理を行った場合は、心機能の回復、予後の改善に寄与することがわかってからは、慢性心不全に対する薬物療法のメインになっています。このβ遮断薬は、心不全患者において亢進している交感神経を抑制します(詳しくは記事4『心不全の治療として効果が期待される「和温療法」とは?』をご覧ください)。

さらに、心不全で亢進しているレニンアンギオテンシン系の活動性を抑える薬も、心不全患者の長期予後を改善する可能性があります。したがって、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アルドステロン拮抗薬などを用いて治療を行います。

胸水貯留

心不全になると、肺に水が溜まりやすくなります。(胸水貯留といいます)。そのため、胸水貯留を防ぐために、利尿剤で治療を行います。

心不全に対し、心臓のポンプ機能を上げるために両室ペーシングを行うことがあります。「両心室ペーシング」は、中心静脈から、右室と左室の両方にペーシングリードを通す技術です。

ケースによっては、外科治療(手術)を選択することがあります。たとえば、心筋梗塞拡張型心筋症などによる高度左室機能不全を伴う慢性心不全で、心臓が非常に大きくなり、かつポンプ力が非常に低下した場合、薬だけの治療では、心不全症状の改善や進行の予防に限界があります。このようなときには、心筋を切る手術を行うことがあります。

和温療法

近年、心不全に対する新たな治療として、和温療法が行われています。

和温療法とは、乾式遠赤外線サウナ装置により、60℃の均等乾式サウナ浴を15分間行い、出たあとに30分間の安静保温を行う治療法です。深部温度がおよそ1度上昇し、その結果さまざまな効果を発揮することが期待されています。なお、和温療法は2018年現在、保険適用外です。

和温療法については、記事4『心不全の治療として効果が期待される「和温療法」とは?』で詳しく解説します。
 

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