インタビュー

口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)とはどんな病気?主に頬粘膜や歯肉に発生する慢性炎症性疾患

口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)とはどんな病気?主に頬粘膜や歯肉に発生する慢性炎症性疾患
津島 文彦 先生

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 顎口腔腫瘍外科学分野 講師

津島 文彦 先生

この記事の最終更新は2017年02月06日です。

口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)という疾患をご存知でしょうか。口腔扁平苔癬とは口腔粘膜に生じる難治性の慢性炎症性疾患の一つで、歯科領域では比較的よく見かける口腔粘膜疾患です。よくウェブサイトなどで混同されている口腔白板症とはまったく違う疾患です。

(口腔白板症については、記事2 『口腔白板症(こうくうはくばんしょう)とは-癌化の可能性もあり注意が必要』で詳しくお伝えします)

東京医科歯科大学顎口腔外科学分野の津島文彦先生に、口腔扁平苔癬の症状や原因、検査・治療方法や口腔白板症との違いについて教えていただきました。

口腔扁平苔癬白色型の画像
口腔扁平苔癬白色型1 画像提供:津島文彦先生

口腔扁平苔癬とは、口腔粘膜に生じた角化異常を伴う難治性の慢性炎症性疾患です。口腔粘膜、特に頬粘膜に両側性に白いレース状(網状)の病変を形成することが多く、びらんや潰瘍を伴うときもあります。口腔扁平苔癬は、40歳以降の女性に多く発症します。

当院口腔外科外来には、年間約100例の口腔扁平苔癬の新患患者さんが受診されます。患者さんの多くは、食事や会話時の口腔内の刺激・接触痛を主訴に受診されたり、歯科検診などで病変を指摘されて紹介受診されます。口腔扁平苔癬は原因や発症のメカニズムが未だによくわかっていないため、確立された治療法はなく、症状に合わせて行う対症療法がメインとなります。

口腔扁平苔癬と一言でご紹介しても、その病態と症状のあらわれ方は実に多彩です。

口腔扁平苔癬の病態は、頬粘膜や歯肉,舌,口唇,口蓋,口底などに両側性または片側性に網状、丘状、斑状などの白色病変や紅斑、萎縮、びらん、潰瘍などの紅色病変を呈します。また、まれに水疱を形成することもあります。さらに、多部位に発生したり、白色病変と紅色病変が混在したりすることもあります。口腔扁平苔癬は、その臨床像に基づいて網状型、丘疹型、斑状型、潰瘍型、萎縮型、水疱型の6つの臨床視診型に分類されていました。しかし、病態が混在する症例では6分類に細分するのが難しいため、現在は白色病変が主要な部分を占める白色型(white type)と紅色病変が主要な部分を占める紅色型(red type)の2分類が主流になってきています。

口腔扁平苔癬は白色型
口腔扁平苔癬白色型2 画像提供:津島文彦先生
口腔扁平苔癬_紅色型_その2
口腔扁平苔癬紅色型 画像提供:津島文彦先生

口腔扁平苔癬の症状は、自覚症状が全く無いものから、口を開けた際に感じる突っ張り感や違和感などの軽度なものから、熱いまたは辛い食べ物や歯磨き粉がしみて痛いなどの刺激痛や、食事や会話の際に粘膜が擦れて痛いなどの接触痛を自覚するものまでさまざまです。

一般的に紅色型の方が症状を強く認めます。

口唇口腔扁平苔癬_紅色型
口唇口腔扁平苔癬紅色型 画像提供:津島文彦先生
舌口腔扁平苔癬_紅色
舌口腔扁平苔癬紅色型 画像提供:津島文彦先生

口腔扁平苔癬の80%以上は頬粘膜に病変を認めます。次に多く認めるのが歯肉で舌,口唇,口蓋,口底に認めます。

口腔扁平苔癬が抱える大きな問題は、診療機会が比較的多い口腔粘膜疾患であるにも関わらず「原因や発症のメカニズムがよくわかっていない」ということです。

病理組織学的に上皮下にTリンパ球の浸潤を認めることから、自己免疫疾患やIV型アレルギーとの関連が示唆されていますが、原因の解明には至っていません。

口腔扁平苔癬では、診察による臨床所見のみでは他の疾患との鑑別は十分とはいえません。このため、病変から組織を一部採取して病理組織検査を行う生検を実施して、臨床所見と病理組織学的所見を併せて診断します。

特に、病理組織学的に上皮性異形成を認めるものは口腔扁平苔癬から除外されるため、生検は非常に重要です。

口腔扁平苔癬は、口腔癌との鑑別が必要なこともあり、その際には組織を採取する部位が重要になります。そのため口腔外科専門医がいる総合病院や大学病院の口腔外科で検査を行うことをお勧めします。

口腔扁平苔癬は、口腔カンジダ症歯周病などを併発していることがあり、この場合、口腔扁平苔癬の病態が2次的に修飾されてしまい、診断が困難になることがあります。よって、まずは細菌検査を行い口腔カンジダ症が併発している場合には口腔カンジダ症の治療をしたり、歯周病を認める場合にはその治療を行ってから生検を行う場合もあります。

また臨床所見にて、金属で修復された歯周囲に病変を認め、金属アレルギーとの鑑別が必要な場合には金属パッチテストを実施することがあります。金属パッチテストが陽性で金属アレルギーの可能性が示唆された場合には、原因と思われる金属修復物を除去することもあります。

また、天疱瘡(てんぽうそう)や類天疱瘡(るいてんぽうそう)などの自己免疫水疱症や、SLE全身性エリテマトーデス)などの自己免疫疾患との鑑別が必要な場合には、血液検査を実施して自己抗体の検索を行うことがあります。

口腔扁平苔癬は、原因がよくわからず、多彩な病態を呈するため他の疾患との鑑別は非常に重要です。

口腔扁平苔癬と鑑別が必要な疾患の一例

歯周病

天疱瘡(てんぽうそう)

全身性エリテマトーデス(SLE)

口腔扁平苔癬と鑑別しなければいけない疾患の一つに、口腔白板症という疾患があります。口腔扁平苔癬は口腔粘膜の慢性炎症性疾患であるのに対して、口腔白板症は口腔内に生じる癌化する可能性がある前癌病変の最も代表的な疾患です。

2つの疾患は共に口腔粘膜が白色を呈する角化性病変で、非常によく似た臨症像を呈することがあるため、病理組織検査にて鑑別をする必要があります。病理組織検査を行えば鑑別は可能です。

口腔扁平苔癬の癌化率は、過去の報告からおよそ1%程度と言われています。これは口腔白板症と比較すると非常に低くなります。しかし、口腔扁平苔癬は、WHOにおいても口腔粘膜の潜在性悪性疾患(癌化する可能性がある病変)の一つに分類されており、定期的な経過観察は重要です。

口腔扁平苔癬は原因が不明のため、確立された治療法はまだ無く、対症療法がメインとなります。ステロイド剤の使用が一般的になりますが、同時に口腔カンジダ症歯周病,歯を修復している金属など増悪因子と思われるものを可能な限り取り除くことで、症状の改善を図ります。

口腔扁平苔癬は治療が長期化する傾向にあることや完治が難しいこと、症状が改善しても再燃する可能性があること、さらには完治しても再発することがあるから、患者さんには「口腔扁平苔癬は長いおつきあいが必要となる病気です」と説明しています。

口腔環境が不良な状態が続くことにより歯周病やむし歯、口腔カンジダ症などが併発すると、口腔扁平苔癬を増悪させる要因となります。そのため口腔扁平苔癬を治療していくうえで、口腔内の衛生管理は非常に重要です。

口腔衛生管理は開業医歯科医院や他科との連携にて行いますが、まずはブラッシング指導や歯石除去、むし歯の治療などを行うことでプラークコントロールを徹底させます。また、不潔な義歯にはカンジダ菌が増殖しやすく、不適合な義歯は粘膜炎を誘発するため義歯清掃や義歯調整も行います。さらに、良好な口腔環境を維持するために、含嗽剤(がんそうざい)と呼ばれるうがい薬を処方することもあります。

口腔扁平苔癬の治療薬はステロイド剤が一般的ですが、他にも抗炎症作用があるジメチルイソプロピルアズレンやアズレンスルホン酸ナトリウム水和物を使用します。

ステロイド剤には、抗炎症作用と免疫抑制作用があります。しかし長期使用することによって局所の免疫を抑制することから感染症、特に口腔カンジダ症を併発することがあります。その場合には、抗真菌薬を処方し口腔カンジダ症の治療を行います。またステロイド剤に対し治療抵抗性が生じたり、びらんや潰瘍に対しては創傷治癒遅延作用があるため、経過観察を注意深く行います。よって、患者さんの自己判断でステロイド剤を塗布する量や回数を増やしたり、中止したりしないように指導し、病態や症状の変化を確認しながら塗布する量や回数を決めて治療します。

病態や症状がひどい方は月に1度、病態や症状が改善してきた方は3か月に1度、そして病変が消失した方は半年から1年に1度の経過観察をお願いしています。

その他の治療薬としては、当科では保険診療の適応外のため処方していませんが、円形脱毛症の治療で使用するセファランチンの内服にて改善を認めるという報告もあります。

口腔扁平苔癬が治療により消失した患者さんの再発率を調査したところ、5年間で約20%の方に再発がみられました。

このように、長期の治療が必要であると同時に再発する可能性のある口腔扁平苔癬では、治療中だけでなく治療終了後も継続的な経過観察が重要になります。

 
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