かつて不治の病とされていました肝硬変は、近年、医療技術の進歩によって治る病気になりつつあります。しかし、これは「肝臓がなにもかも元通りになる」ことを指すのではありません。いったい、ここでは何をもって「治る」と表現しているのでしょうか。引き続き、湘南藤沢徳洲会病院の岩渕省吾先生にお話を伺いました。
C型肝炎ウイルスに対する治療が進歩したおかげで、肝硬変は治る病気になりつつあります。しかし、そもそも「治る」とはどのような状態を指すのでしょうか? 本項では、肝硬変が「治る」ということはどのようなことか、改めてじっくりと考えていきます。
まず、肝硬変という病気について振り返ってみましょう。肝硬変は肝炎ウイルスやアルコールなどが原因で肝細胞が壊れ肝炎を起こすと、その跡に線維化(ヤケドのあとの引きつれのようなもの)が起こり、それを繰り返すうちに線維化が進行し、どんどん硬くなっていった状態のことを言います。原因が何であれ、肝線維化が長年続くと肝硬変になる可能性があり、最近では非アルコ-ル性脂肪性肝炎からの肝硬変が注目されています。そのような肝臓は、どのようになれば「治った」といえるのでしょうか。
機能的(肝臓の機能)な観点、超音波やCTなど画像診断上の観点、形態学的(手術や腹腔鏡などで外から見た肝臓の形、硬さなど)観点、組織学的(顕微鏡で見た肝臓の組織)観点など、さまざまな観点からの要素が挙げられます。いったいどのように考えるのでしょうか?
まずひと目でわかるところとして、代償性肝硬変であれば、機能的な観点においてはほとんど治ります。機能的に治るというのは、「血液検査をして、肝機能が正常になる」ということです。
それでは、形態学的にはどうでしょうか。実は、硬くなった肝臓もかなり柔らかくなってきます。C型肝炎から肝硬変になり堅くなった肝臓が、ウイルスが消えて何年か経ってお腹の手術をすると、線維化が改善してかなり柔らかくなっている、という患者さんの例がいくつもあります。
ただし、肝硬変の全てが治るわけではありません。
肝臓は肝細胞が一定のルールに従って並んだ構造をしています。それが、肝硬変でできた線維のために分断された構造になります。これを「偽小葉」といいますが、出来上がった偽小葉の構造は、最後まで元に戻るとはいえません。(詳細のメカニズムは記事7・リンク754)
肝線維化により肝臓の正常な構造が歪められ偽小葉ができると、線維、肝臓が硬くなるのと同時に、肝臓内の血液循環が悪くなってしまいます。そうなると胃腸や脾臓、膵臓などお腹の臓器からの血液(門脈)が肝臓に入りにくくなり、脾臓が腫れたり門脈圧亢進などが起きたりします。
肝硬変で大きくなった脾臓は、その働きが過剰となり、血小板や白血球減少の原因となります。また、大きくなってしまった脾臓は、ウイルスが消えて肝炎が治っても容易に小さくはなりません。
この脾機能亢進への対策として「脾動脈部分塞栓術」があります。これは血管カテーテルを用い、脾臓の動脈を部分的に閉塞させる方法です。脾臓の大きさと機能を4分の1程度にまで落とすことができます。これにより、血小板の減少を抑えたり、門脈圧を下げることにも役立ちます(肝硬変で血小板が減る理由は、脾臓が大きくなることで、脾臓の機能が強くなりすぎるためです)。
肝硬変が治ってもすぐに門脈圧亢進が消えるというわけではありません。そのため、胃静脈瘤・食道静脈瘤・脾臓の腫大など、門脈圧亢進によって起こるさまざまな合併症はすぐには良くなりません(その代わり、進行は防げるでしょう)。したがって、ウイルスが消えても静脈瘤の治療や脾腫大への対策が必要な場合があります。
湘南藤沢徳洲会病院 肝胆膵消化器病センター センター長
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