腰椎椎間板ヘルニアの治療は、基本的には保存的治療となります。前の記事「腰椎椎間板ヘルニアの治療 保存的な治療をする期間について」でも述べたように、8割くらいの患者さんが手術なしでも軽快していきます(よほど痛みがひどかったり、保存治療の治療期間中によくならない、または悪化をしてしまうような場合には手術をします)。
ここからは、具体的な保存的治療の内容について、腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン委員も務められた千葉大学整形外科学教室主任教授(当時)・高橋和久先生にご説明いただきました。
痛みに対してはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:ロキソプロフェンナトリウム水和物など)の痛み止めを使うのが我が国における主流になっています。しかし欧米では、アセトアミノフェンを痛み止めとして使うことが推奨されるようになっています。これまで日本においては許可された使用量が少なかったのですが、近年その量が増えました。そのため、アセトアミノフェンが活躍するシーンは増えていくものと考えられます。
現時点で我が国において用いられているNSAIDsにはさまざまな種類があります。具体的には飲み薬、徐放製剤(徐々に効いていく薬)、坐薬などがあります。この際に注意していきたいのは痛みが楽になったら薬を減らしていかなければならないということです。NSAIDsの副作用には消化器症状や下痢、腎機能障害がありますから、痛みがおさまってからも漫然と使い続けてはなりません。
しかし、痛すぎるにもかかわらず薬の副作用を心配するあまり薬を用いないことも良いことではありません。痛みをひたすら我慢してしまうと「痛みの記憶が残る」ということが言われています。つまり、急性期でとても痛い時期が続いた後には、治ったあとも慢性腰痛に移行する可能性があるということです。薬を適切に使い、副作用に注意しながら痛みを抑えていくのが最良です。その上で、痛みが楽になったら薬をやめていくようにしましょう。
湿布には白い湿布とテープの2種類があります。白いものには水分が入っているため、使用すると冷やっとした感じがします。炎症の急性期(つまり、痛みが一番強いとき)に関しては白い方が良いと考えられます。たとえば、捻挫や打撲をしたときにも急性期には冷やし、慢性的な痛みになったときには温めます。これに対して、テープは冷やす効果はありません。
ここから考えられるのは、急性期で痛みや症状が強いときには白いシップが適しており、そこから動く段階になった際にはテープ剤のほうが良いということです。
医療機関では神経ブロック(神経をブロックすることにより痛みを止める)を行うこともあります。神経ブロックには「硬膜外ブロック」「神経根ブロック」の2種類があります。もちろん、それぞれ専門家に行ってもらう必要があります。硬膜外ブロックを行うと血圧が下がることがあるため、これもあくまでも薬が効かない場合に行うのが良いでしょう。
安静にすべき期間は長くとも3日程度です。欧米の論文では、強制的に安静状態にすることにはむしろ害があるとされています。ここでいう強制的な安静とは、「あなたはヘルニアなんだから寝ていなさい」というように医療者側が安静を強いてしまうことです。
実際には、2日~3日の急性期を過ぎたら徐々に動き始めることが正しい方法です。「痛みをがまんできる範囲で無理をしなければ動いてもらって大丈夫ですよ」というのが正しい指導であり、そのほうが回復しやすいことも分かっています。
運動はいつ始めるべきなのでしょうか。多くの場合適切なのは、急性期の痛みがやわらいできて辛さが概ね楽になり、通常時の8割程度は動ける段階になってからです。様々な運動、たとえば水中ウォーキングなどもこの段階から始めるのがよいとされています。急激にきつい運動を始めるものではありません。それでも、痛みがなくなった時点で少しずつ運動を開始していくことは必要です。
コルセットには、腰回りに圧をかけることにより、腰椎を安定させる効果があります。コルセットには、注文してオーダーメイドで作るものと薬局で売っている簡易型のものの2種類があります。簡易型のベルト型のものの場合、2000円程度で売られています。簡易型のコルセットは腰を支えるという意味では完全ではありませんが、急性期を過ぎた時期(一番痛みがひどい時期)に簡単なコルセットを用いながら動いていくことはあります。なるべく早い段階で動けるようになるためにはコルセットを使うことも必要です。ただし長期ではめておくべきものではなく、痛みがなくなってきたならば外すべきです。
腰は冷やすべきなのか、それともあたためるべきなのでしょうか。腰椎椎間板ヘルニアにおいては、基本的には急性期を除いて温めるべきです。入浴も、痛みがひどくならないようであれば問題ありません。逆にクーラーなどで冷やしてしまうことは避けるべきです。ホットパックやマイクロウェーブについても、すべて温熱治療の一種と考えられます。
ベッドについての研究がイギリスでありました。その結論としては「ほどほどの堅さ」がよいということです。例えば、完全な四肢麻痺の人に対しては褥瘡(じょくそう・いわゆる「床ずれ」)を作らないために柔らかい方がいいということはよく知られており、体圧分散式マットも発売されています。しかし、ある程度動ける人に対しては柔らかすぎず堅すぎない「ほどほどの堅さ」が良いといわれます。特に腰が痛い人の場合は、ベッドが柔らかくて沈み込みすぎると痛みが増してしまいます。
牽引治療(腰の骨を上下に引っ張る治療)は、痛みがひどい時期(急性期)はやめておいたほうがよいでしょう。激痛の時には引っ張る必要がありません。痛みがひどい時期が終わったあとの慢性期では、もし行うのであれば医師と相談しながら行いましょう。
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