「わからない」ことこそが精神医学の面白さです

京都大学大学院医学研究科 教授 脳病態生理学講座 精神医学教室
村井 俊哉 先生

「わからない」ことこそが精神医学の面白さです

わからないこと・わかることの意味を探究する村井俊哉先生のストーリー

公開日 : 2017 年 08 月 03 日
更新日 : 2017 年 08 月 03 日

混沌としていて、わからない感じが面白い

両親が心理学者であったためか、物心ついたときから私自身も「人のこころ」について、何とはなしにですが興味を感じていました。医学部在籍時に神経内科や皮膚科など、さまざまな診療科を見学しましたが、今一つ肌に合うものがなく、最終的に残ったのが精神科でした。当時の精神医学は、当時まだ学生の私が言うのも上から目線な話ですが、まだまだ発展途上段階にみえました。診療のあり方も組織としての医局も、何もかもが混沌としていて、わからないことばかりでした。しかし私には、この「わからない感覚」が面白く、精神科に進むことに決めました。

私が医学部を卒業した時期(1991年頃)は、(私の周りだけかもしれませんが)精神科医とは普通の医師になれない・あるいはなりたくない者が選ぶ特殊な進路というイメージがありました。少なくとも、優秀な学生がこぞって希望する人気診療科というイメージはありませんでした。

ところが私の父は、「精神科は面白いと思うよ」と背中を押してくれたのです。このときの父の言葉がなければ、私が精神科医として今ここにいることはなかったかもしれません。

神経心理学との出会い

今でこそMRIによる脳画像の研究など自然科学的なアプローチを専門にしていますが、精神科医になったばかりの頃は、当時神経症(今日の診断分類では不安症、強迫症などに相当)と呼ばれていた患者さんたちに対して、心理療法・カウンセリングを行う精神科医になりたいと、ぼんやりと考えていました。

精神科医になって3年目のことです。教室出身の大先輩が京都から関東に転勤することになりました。余程、適任がいなかったのでしょう、まだ駆け出しもいいところの私がその先生の神経心理専門外来を引き継ぐことになりました。

神経心理学とは、神経症のカウンセリングとはむしろ対極のような専門分野です。脳卒中や頭部外傷によって脳に傷を負った患者さんの脳損傷部位を脳画像で確認し、そして患者さんの精神症状や行動を詳しく聴取し、脳損傷部位と臨床症状の関連を詳細に検討していくのです。膨大な知識が必要な専門領域でしたし、しかも医師になってせいぜい3年目の私の役割が、私より臨床経験がはるかに豊富な神経内科医などからのコンサルテーションに答える立場でしたから、とにかく勉強するしか逃げ道はなかったのです。代表的な教科書は金に糸目を付けず自費で次々に購入して読みましたし、今から考えるとこの時期は実によく勉強しました。必要に迫られての勉強は一番身につくものです。

今は、恥ずかしながらあまり勉強しなくなってしまいましたが、このとき学んだことや経験したことは、20年以上経った今の私の臨床や研究にもおおいに役立っています。

神経画像研究の立ち上げ

このように医師になって最初の7年ほどは、一般精神医学に加え神経心理学を臨床実践から学んだわけですが、そのあと、ご縁をいただきドイツのライプチヒに留学しました。

ライプチヒは、ドイツでも旧東ドイツに含まれるので、当時(1998~2001年)は政治・経済はもとより文化や価値観の流動期でした。好奇心の強い私にとって、日本人留学生もほとんどいなかったこの街で人生の一時期を過ごせたことは、自らの大きな財産となっています。

私を受け入れてくれたのはマックスプランク認知神経科学研究所という、立ち上がって日の浅い研究所でした。センター長はもともと神経心理学が専門の神経内科医でしたが、彼がこの巨大な研究所のセンター長になってからは、狭い意味での神経心理学に限ることなく、先端的な神経画像研究を推進する研究所のマネージメント業務に注力しておられました。ほとんど我流の短い研究歴を経て留学した私にとっては、研究所で目にすることのスケールが何事につけても大きすぎて目を白黒させるばかりでしたが、この経験が帰国後生かされることになりました。

帰国後、出身大学に教官として採用していただきましたが、当時の京都大学精神医学教室は、研究活動そのものがほぼストップしている状態でした(だからこそ私自身も留学前の研究を、学外の病院の専門外来での経験症例をもとに行ったのです)。しかし、当時、面白い研究がしたいという若手医師(私も当時は結構若かったですが、さらにもう少し若い医師)が少しずつ集まってくれるようになりました。それまで研究といえばほぼ1人で行ってきた私も、チームで行う研究の重要性と面白さを感じることになりました。そこから始まったのが、当教室の現在の主力である神経画像研究です。指導する側もされる側も若く、無駄なエネルギーがみなぎっており、互いに何の気兼ねもなく研究のこともそれ以外のトリビアルなことも深夜まで議論した日々が懐かしく思い起こされます。

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京都大学大学院医学研究科 教授 脳病態生理学講座 精神医学教室

村井 俊哉 先生

マックス・プランク認知神経科学研究所を経て、現在は京都大学脳病態生理学講座、精神医学教室において教授を務める。神経心理学、神経画像学におけるトップランナーであると共に、これからの精神医学のあり方に対しても多数の著書を持つオピニオンリーダー。これからの精神科医は生物学、心理学、社会学を単純に組み合わせるだけでなく個々において最適化していくべきであるという多元主義を提唱している。

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