本気で「命」と向き合ってきた

「本気で「命」と向き合ってきた」

患者さんのたくさんの「命」に立ちあってきた後藤悌先生のストーリー

国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科

後藤 悌 先生

組織に貢献するよりも「患者さんのために」働ける世界へ

「将来は、なにか大きなことを成し遂げたい」

私は幼い頃から、こんな想いを胸に秘めていました。両親が医師という環境に育ちはしましたが、医療という選択肢だけでなく、政治や海外の仕事などを含め、幅広く自分の将来を考えていました。

そして、高校2年生の秋、進路選択の時期が迫ります。当時は官僚・政治家・外交官に強い魅力を感じました。しかし、これらは日本を救うというより、属する組織へ貢献する側面が強いのでなないか、という思いもありました。一方、医師という仕事ならば「患者さんのため」という大義名分のもとに一生懸命働くことができる。そして、それは自分の人生における1本の揺るぎない軸になりうる予感を感じました。

「やっぱり私は医師になって、患者さんのために働きたい」

18歳の私は、そう心に決めたのです。

医学知識を患者さんに還元できる内科の魅了に惹かれて

もともと手先が器用ではなかったので、外科医になろうと考えたことはありません。最初から内科医を目指した私でしたが、内科学を学ぶうち、あらゆる医学知識を吸収し患者さんに還元するというプロセスに、探究心が湧き立ちました。

人が生まれる瞬間に立ち会える産婦人科に興味を抱いたこともあります。しかし、気づけば私は東京大学医学部で呼吸器内科を選び、やりがいを得て、現在では肺がんを中心とした悪性腫瘍(がん)を扱う国立がん研究センターで医員としての職を得ています。呼吸器内科への探究心、患者さんと接する医師としての働きがい、その両方を持ち続けられる今の状況を幸せに思います。

国立がん研究センター呼吸器内科のスタッフ

真剣に命と向き合う患者さんの心に寄り添うことが生き甲斐

悪性腫瘍(がん)は、人の生死にかかわる病気です。そのため、患者さんはがんの告知を受けてからは、心に葛藤を抱えながら残された時間を大切に過ごす必要に迫られます。もちろん私たちの仕事は第一に患者さんの病を治すことです。しかしそれと同じくらい、患者さんが心に抱く葛藤を分け合い、ともに歩むことも大切なのです。

生死の境目で命と真正面から向き合う患者さん。そんな患者さんと触れ合うたび、自分自身の人生についても深く考えさせられます。

「私はどう生きていくべきなのか」

「どんな医療を目指していくべきなのか」

患者さんの心に寄り添い、ともに歩むことのできる医師としての日々は、私の生き甲斐そのものだと感じます。

患者さん一人ひとりが積み重ねた時間を感じて仕事に向き合う

研修医になってから今まで、本当にたくさんの患者さんに出会ってきました。

ある患者さんには、ちょうど当時の私と同じ年齢の息子さんがいました。「まるで息子をみているようで、ついつい心配してしまう」と、私に色々な気遣いをしてくれました。病気になった自分と、息子の世話をちゃんとしてあげられないこと。色々な思いが、私への気遣いに変わったのではないでしょうか。

日々多くの患者さんと接し、ときにその人生を垣間見て、喜びや悲しみを分け合います。そんなとき強く感じるのは、目の前にいる患者さんには一人一人の人生があって、それぞれの時間があり、そこにたくさんの人々が繋がっているということです。

それぞれの思いを受け止めようとすれば、当然ながら重たいものを背負うことになります。しかし、ひとつひとつの重みをきちんと感じながら、眼前の仕事に向き合うこと。それこそ、医師の醍醐味ではないかと私は思うのです。

経験の積み重ねで医師としての自信が生まれる

患者さんの思いを真正面から受け止めるためには、医師としての自信が必要です。医師になりたての頃は、座学から得た医学知識と先輩からの教えを頼りに患者さんを治療します。そこに経験が積み重なることで医師としての勘が磨かれ、判断に自信を持つことができるようになります。

患者さんが「すべて先生にお任せします」と口にしたとき、「わかりました。僕の勘を信じてください」と答えられるようになったのは、医師になって10年目の頃からです。これからも日々、新しい知識と経験を蓄積し続け、患者さんに心から信頼してもらえる医師でありたいと思っています。

息子の誕生で人の生きていく意味が初めてわかった

仕事柄、「死」について考える機会が多くあります。私たちの人生で確実に決まっていることは、唯一「いつか死ぬこと」ではないでしょうか。ただ、それがいつ訪れるかはわかりません。それは遠い未来の出来事のように思えて、私たちは「死」を忘れて生きているのかもしれません。

では、人は一体なんのために生まれ、生きていくのでしょうか。私は36歳で息子が生まれて、初めて自分の人生の意味を知らされたように思います。息子が幸せそうに眠る姿をみて、強く感じました。

 

「私は人生で学んだことを、この子に伝えていくために生きている」

 

生き物はみな、このようにして命を繋いでいるのでしょう。生きていれば辛いことも悲しいこともありますが、家族がいるから乗り越えられています。

医療を発展させることにやりがいを感じる

私は現在、国立がん研究センターでおもに新薬の開発・実用化に携わっています。開発された新薬を実用化することは、自分が直接に診療しない患者さんや、未来の患者さんを救える可能性があり、研究者として大きなやりがいを感じています。

医療は社会のなかにあるものです。どんなに効果の高い薬を開発しても、それが患者さんの手元に届かなければ意味がありません。私たちはこれから、新薬の開発・実用化はもちろん、医療が行きわたるよう社会の基盤まで考えていく必要があります。

 

「医療をよい方向に発展させたい」

 

その思いが、医師としてのやりがいにつながっています。

これからも医師・研究者としての日々を全うしていきたい

私が18歳の時に感じた「医師になって、患者さんのために働きたい」との想い。

その夢は、日々の診療と研究によって叶いつつあります。直接話を聞き、心に寄り添いながら行う診療。新薬の開発と実用化によって、間接的に患者さんを救う研究。その両方に携わっていられる現状を、とても幸せに思います。

私はこれからも、目の前の患者さんの苦しみを和らげること、未来の患者さんを救うことを目指して、医師・研究者としての日々を全うしたいと考えています。

医師のストーリー 医師には医師のドラマがある

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