東京都文京区にある東京都立駒込病院は、がんと感染症を柱に幅広い診療を行う医療機関です。充実した設備のもとで専門性の高い医療を行う一方、“誰一人取り残さない”をモットーに難病や高齢者医療にも取り組んでいます。
そんな同院が担う役割や今後の展望について、院長である戸井 雅和先生にお話を伺いました。
当院は1879年に内閣府の命によって設立され、明治から大正にかけて日本における感染症医療の中心的な役割を担っていました。その後、当時の東京市に移管され、都制実施に伴い都立病院となり、新病院が誕生したのが1975年でしたから、この建物で診療を始めて50年ほどになります。
病院の名前に“がん・感染症センター”とあるように、当院は開業当初から強みのある感染症に加え、がんに対する専門的な診療を行っています。第一種感染症指定医療機関や都道府県がん診療連携拠点病院としての役割を担う一方、内科系と外科系ほぼ全ての診療科を網羅し、都民の皆さまの健康を支えています。
当院は高水準で専門性の高い総合診療基盤のもと、診療科の枠を超えて多職種が連携するチーム医療を実践しています。より質の高い医療の提供を目指してセンター化を推進しており、コロナ禍においては感染症センターにて多くのコロナ陽性患者さんを受け入れました。
最近では新たに臨床研究・治験センターを立ち上げて新しい薬や診断法の導入・開発に努めているほか、神経難病センター(PML/MS/NMOセンター)では近隣の医療機関と連携して難病患者さんの診療にあたっています。また医療情報基盤センターではカルテ情報などを一本化してスムーズな医療連携を可能にしています。近年は患者さんの高齢化が進んでおりますので、医療機関同士の連携のみならず介護・福祉分野との連携も密にして、地域医療を支えていきたいと考えています。
がん診療連携拠点病院とは、がんの標準治療とされる手術・放射線治療・化学療法(抗がん剤治療)や緩和ケアなど組み合わせた集学的治療を行う一方、がん診療に関わる情報提供をしたり、患者さんやご家族からの相談を受け付けたり、セカンドオピニオンに対応するなどの総合的な支援を行う医療機関のことを言います。
当院は都内に2施設ある都道府県がん診療連携拠点病院の1つに指定されており、専門性の高い医療を行うことに加え、未来の医療を担う人材の育成や啓蒙活動などにも積極的に取り組んでいます。‘未来の医療を切り拓く’をキャッチフレーズに、東京都のがん医療の向上、充実に努めているところです。
当院はがんに対する診療体制が充実しており、人口10万人当たりの患者数が6人以下とされる希少がん、近年患者数が増加傾向にある大腸がん、脊椎(骨)腫瘍など、それぞれに対応するセンター機能を有しています。
がんの標準治療の1つである手術については、2017年3月にダビンチXiを導入し、前立腺がん、腎がん、膀胱がん、腎盂尿管がんに対するロボット支援下手術を開始しました。腎泌尿器外科領域を皮切りに、大腸外科、胃外科、婦人科、肝胆膵外科、食道外科、呼吸器外科と適応範囲を広げ、2024年10月には新たにダビンチSPサージカルシステムを導入いたしました。これにより手術支援ロボットは3台体制になり、より多くの患者さんに負担が少ない低侵襲な手術をご提供できるようになっています。
手術と同様に放射線治療や薬物療法についても質の高い診療を行っておりますが、中でも造血細胞移植や分子標的療法、免疫療法、CAR-T細胞療法には強みがあります。白血病や悪性リンパ腫などの血液がんに対応する造血・免疫細胞治療センターでは1986年から造血細胞移植を開始し、これまでにたくさんの治療実績があります。またCAR-T細胞療法については、保険適用となった翌年の2020年にいち早く診療をスタートさせました。
当院ではさまざまながんに対して手術支援ロボットを用いた低侵襲手術を実践していますが、それでもやはり、がんにならずに済むのであればそれが一番です。すでに消化器内科では内視鏡検査によって消化器がんの早期発見に努め、早期介入、早期がんの内視鏡治療に注力してきました。最近では、新たに膵臓がんに対する専門外来(膵臓がん高りスク外来)を立ち上げました。
膵臓がんは画像検査や超音波検査で見つけにくいにもかかわらず進行スピードが速く、死亡率が高いがんとして知られます。このため当院では、患者さんの年齢、遺伝因子、生活習慣などを総合的に診療することによって膵臓がんを早期に見つけ、早期の治療介入につなげるべく取り組んでいます。
一方で、都民の皆さまにがんに対する正しい知識を得ていただけるよう、情報発信にも努めています。主に肝胆膵外科の脊山 泰治先生が中心になり、“出前講座”と称して小中学校などに出向いて啓蒙活動を実施しており、働き盛りの保護者世代のがん検診受診率向上を目指しています。
当院がある文京区には大学病院や高機能な医療機関が複数集まっており、日頃から地域の医療機関が密に連携し、顔が見える関係づくりを構築しています。当院に優秀な人材が集まってくれているのも、そうしたネットワークがあるおかげだと思っています。
当院は東京都の支援のもとに医療設備の充実に努めておりますが、何より大きな強みは“人”にあると考えています。新しい医療機器を導入して専門性の高い医療を行う一方で、看護部を中心に患者さんの心身のケアにも力を入れています。良質な医療とともに、良質なケアやサービスをご提供することもできる、それが当院の一番の特徴です。都民の皆さまがお困りのときに頼れる場所として“誰一人取り残さない”をモットーに診療しておりますので、何かご心配なことがありましたら遠慮なくご相談ください。