順天堂大学医学部附属浦安病院は開院以来、地域に根ざしながら高度な医療を提供してきました。県内で2施設目となる高度救命救急センターをはじめ、地域がん診療連携拠点、周産期母子医療センター、リプロダクションセンターなど専門性の高い診療体制を整えています。
国際的な活動や災害医療への備えにも力を注ぎ、教育・研究・臨床を三本柱に未来を見据えた歩みを続ける同院について、院長の田中 裕先生にお話を伺いました。
当院は1984年、東京ディズニーランド開園の翌年に開設されました。当初は、250床から始まりましたが、段階的に増床し現在は785床を有する大学病院となっています。
2023年には県内で2施設目となる“高度救命救急センター”の指定を受けました。県内の広域を守る“最後の砦”となるべく、4疾病5事業(がん・脳卒中・心疾患・糖尿病、周産期・災害医療など)に力を入れながら、地域とともに歩みを進めています。
当院の救命救急センターでは、対応が難しい重症例を受け入れています。たとえば、広範囲熱傷や重症中毒、多発外傷、指肢切断・再接着といった症例です。
当院が特徴的なのは、外傷再建センター・手外科センターといった専門性の高いセンターを備え、密接に連携していることです。交通事故で四肢を大きく損傷した患者さんに対して、救命救急センターで初期対応を行い、外傷・再建センターが機能再建を担う。こうしたチーム医療で“失われそうな機能を取り戻す”ことを目指した治療を実現しています。
手外科センターは、日本手外科学会認定専門医が3名在籍しています(2025年9月時点)。当院が舞台となっている、手外科を題材にした漫画『テノゲカ』をご存じの方もいるかもしれませんが、この本の監修をセンター長の市原 理司先生が務めました。このように高い技術力を有する医師がそろっていることから、国内だけでなく海外からも患者さんが来ることがあります。
周産期医療では、“地域周産期母子医療センター”から“総合周産期母子医療センター”へ移行を進めています。妊婦さんが安心して出産できるよう、LDR室*を新設し、無痛分娩**にも対応できる体制を整えました。
リプロダクションセンターでは、不妊症・生殖医療に取り組んでいます。特に男性不妊に関しては泌尿器科の辻󠄀村 晃先生が世界的に活躍しており、国内外から患者さんが来院されます。少子化が進む社会において、生殖医療の重要性はますます高まっており、若い世代を支える医療を展開しています。
*LDR 陣痛(Labor)・分娩(Delivery)・回復(Recovery)の頭文字をとったもので、陣痛室・分娩室・回復質が一体となった個室のことを示します。
**無痛分娩……無痛分娩費用として10万円がかかります(2025年9月時点)。
膠原病・リウマチセンターでは、生物学的製剤を用いた治療を積極的に行っており、その情報が広く伝わり海外からも患者さんが訪れています。
またフットケアセンターは、足の血流障害によって壊死寸前になった状態を改善できるよう治療を行っています。循環器内科や腎臓内科、整形外科、形成外科・再建外科、皮膚科、糖尿病・内分泌内科、看護部、リハビリテーション科、栄養科による多職種によるチームが連携し、足を守るための治療を実践しています。これは生活の質に直結する分野で、国際的にも注目されています。
救命センターの中には“子ども救急センター”も設けており、軽症から重症まで小児の救急に対応しています。近隣には家族で訪れることも多い大規模な施設が複数あるため、それらの施設から患者さんが運ばれてくることも少なくありません。当院では、そうした施設とも連携を取り、重症の患者さんも迅速に搬送・治療できる体制を整えています。
当院が掲げる目標の中でも大きな柱となっている1つが“国際化”です。臨床・教育・研究全ての領域で海外と連携しています。たとえば救急診療科ではハーバード大学との交流があり、若手医師がアメリカで研修する機会を設けています。逆に海外の医師が当院で学ぶこともあり、互いに刺激を受けながら成長できる環境となっています。
当院は、沿岸部に立地していることから、災害医療の備えにも力を入れています。東日本大震災では液状化で上下水道が損傷し、復旧に苦労しました。その経験を踏まえて配管を耐久性の高い素材に更新するなど、ライフラインの改修を進めています。災害拠点病院として、非常時でも機能を維持できるよう準備を重ねています。
今後は高度救命センターのエリアを拡大し、ハイブリッドERを導入する予定です。陰圧室も備えた高度な救急体制の構築を目指しています。
引き続き国際化を目指し、教育・研究・臨床を三本柱として未来を切り拓いていきたいと思っています。
当院は大学病院として、高度な医療や緊急性の高い医療を担う役割を果たしていますが、一方で地域に密着した総合病院でもあります。困ったときには気軽に相談していただければと思います。受診の際には、紹介状があると診療がスムーズになりますので、まずは地域の先生を主治医として持ち、必要に応じてご紹介いただくようお願いいたします。
開院当初から地域に暮らす方々に支えられてきた病院として、これからも皆さまの安心を守り続けます。
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