埼玉県立小児医療センターは、埼玉県さいたま市中央区にある小児専門の医療機関です。内科系診療科や外科系各科、遺伝科、精神科、放射線科、病理診断科、保健発達部門などを有し、さいたま市内はもとより関東全域から患者さんを受け入れています。2016年(平成28年)12月にはさいたま赤十字病院と併設する新病院が開院し、新たに総合周産期母子医療センターとしてもスタートしました。新病院での取り組みやこれからの展望について、院長である小川 潔先生よりお話を伺います。
当院の前身にあたる「埼玉県立大宮小児保健センター」が開院したのは1967年(昭和42年)のことです。病床数が10床にも満たない外来中心の設備ではあったものの、公的な医療機関としては全国で2番目につくられた小児専門の施設でした。地域医療環境の変化や医療ニーズの変化にともない、1983年(昭和58年)に当院はさいたま市岩槻区に300床の小児専門病院として開院しました。その後も、徐々に医療機関としての規模を拡充させてきました。
2016年(平成28年)12月には新病院へ移転し、316の病床数とそれまで以上に充実した救急医療体制を整えた新たな医療機関としてスタートしました。また、新病院への移転にともない、併設するさいたま赤十字病院との連携体制を推し進めています。
新病院では、さいたま赤十字病院と当院が隣接して建てられています。2つの病院が密接な連携体制を構築することで、総合周産期母子医療センターの開設が実現しました。
総合周産期母子医療センターとは、母体・胎児・新生児への高度な医療提供を可能とする設備を有し、ハイリスク妊娠に対する医療や新生児医療など周産期にまつわる高度な医療の提供を行う医療機関のことを指します。当院は、総合周産期母子医療センターとしての認定に必要な新生児集中治療室「NICU」を30床、新生児治療回復室「GCU」を48床有しています。
この総合周産期母子医療センターでは、さいたま赤十字病院の産婦人科が母体を、当院の新生児科が新生児をそれぞれ診ることで理想的な周産期医療の提供を行っています。
当院は、小児の外科系疾患を幅広くサポートする医療体制を備えていることに加え、小児がん治療においても高い実績があります。また、24時間365日体制の小児救急外来を開設しており、地域の小児救急搬送の受け入れも積極的に行っています。
小児がん拠点病院にも指定されている当院は、白血病など血液のがんで受診される患者数が日本最多となっています。また、固形がんにおいても、これまでほとんどすべての種類の小児がん診療を行ってきた実績があります。
当院では、豊富な臨床経験を有していることに加え、国内外の最新情報を収集することにより、最善の治療を提供するよう努めてきました。さらに、関東甲信越地方にあるほかの小児がん拠点病院及び小児がん診療施設と連携を図りながら、県内はもとより関東全体の小児がん診療のレベル向上に全力を尽くしています。
また、当院は造血幹細胞移植の症例数において小児科では全国で三本の指に入ります。院内に移植後長期フォローアップ外来を設置することで、専門の看護師が患者さんとご家族の退院後の生活についてもしっかり支援させていただいております。
小児外科・脳神経外科・整形外科など小児の外科系診療科を幅広く取りそろえている医療機関は、埼玉県内で当院しかありません。そのため当院には、外科系疾患をかかえる多くの患者さんがいらっしゃいます。
特に、当院の小児外科の年間手術件数は約700件を数え、全国でもトップクラスの実績があります。内視鏡の症例にも力を入れており、内視鏡専用の手術室を有する当院では年間400件以上の内視鏡手術を行っております。また、消化器系の内視鏡検査の件数においても全国トップクラスの実績を誇ってきました。
胎児診断の進歩により、かつては発育の状況程度しか診断することのできなかった胎児を、先天性障害の有無に至るまでしっかりと評価できるようになりました。当院では胎児診断の結果、先天性異常や口唇口蓋裂、内臓の異常などを発見した場合、さいたま赤十字病院の産婦人科へ搬送し、産後は当院で新生児の処置にあたるという体制を整えています。
さいたま市は小児の救急医療が比較的充実している地域です。自治医科大学附属さいたま医療センターやさいたま市民医療センター、さいたま市立病院、さいたま北部医療センターなど、二次救急の機能を持つ医療機関があるため、小児の内科系疾患に関しては万全の受け入れ体制が整っています。ところが、頭部外傷や熱傷などの重度の外傷は、そのような医療機関でも受け入れが困難であるため、当院の小児救命救急センターでなければ診られません。
さいたま赤十字病院が運営する高度救命救急センターと連携して、重度の外傷から内科系疾患までの幅広い患者さんを受け入れることのできる小児救急体制を構築しています。
もともと当院は、外科系疾患から内科系疾患に至るまでしっかりとした処置を行うことのできる三次医療体制をとっていました。しかし、そのような体制であっても頭部外傷や熱傷など重度の外傷を受け入れることは困難でした。さいたま赤十字病院との連携体制が実現したことで、重篤な症状をかかえる救急患者さんにも対応できるようになったのです。
埼玉県は、年間3, 000件を超える分娩数を有する産婦人科クリニックもあり、全国的にみても出産件数の多い地域といえます。そのような情勢を受け、当院では通信回線を用いて県内の産婦人科クリニックと画像を共有し、母体や胎児について診断・ディスカッションを行うシステムを構築しています。
産婦人科クリニックの設備では対処しきれない疾患が見つかった場合には、速やかに高度な設備を有する医療機関へ紹介することで周産期の地域医療連携を強化していくことがこのシステム導入の主な狙いとなっています。
小児期に発症した疾患を抱えたまま成人期をむかえた患者さんのことを、「キャリーオーバー患者」と呼びます。このキャリーオーバー患者さんの受け入れ先がなかなか見つからないということが、全国の小児科共通の課題として取り上げられてきました。成人期をむかえた患者さんの受け入れを積極的に行っている医療機関もありますが、そのなかでも特定の小児疾患をかかえる患者さんの受け入れ先がみつからないというケースもあります。
たとえば、当院でキャリーオーバーをむかえた患者さんのうち、先天性心疾患などの循環器系疾患をかかえる患者さんの受け入れは、隣接するさいたま赤十字病院が積極的に行ってくれています。しかし、ダウン症や重症心身障害、白血病などは受け皿がなく、ほかの医療機関に受け入れをお願いせざるを得ません。染色体異常などの先天性異常をかかえた患者さんの受け入れ先は特に少なく、このようなキャリーオーバー患者さんの受け入れ先をどのように確保していくのかということが、当院にとっても大きな課題となっています。
キャリーオーバー患者さんの受け入れ先確保と同様に、今後日本の小児医療全体の問題として積極的に取り組んでいかなければならないのが小児科医の不足です。そもそも成人医療に比べて患者数が少ない小児医療には、医師のニーズそのものがそれほど多くはないという現状があります。さらに、少子化という情勢も加わって、大抵の医師は小児科を専門とすることに将来の不安を覚えるものです。
これにより、全国的に小児科の層は薄く、先天性疾患や悪性腫瘍など特に高いリスクをともなう患者さんを受け入れる回復期の医療機関が不足しています。さらに、成人疾患の場合には開業医の先生のもとである程度の処置を施してもらえますが、小児科の場合にはそれが難しいとされます。そのため開業医の先生方から紹介を受けることは多くても、回復期に入った患者さんをほかの医療機関に逆紹介できないという現状があります。
私たちは「子どもたちの未来は私たちの未来」という理念のもと、日々医療の提供を行ってきました。当院では救急医療や高度急性期医療の提供に加え、同じ建物のなかに特別支援学校を併設し、入院している児童の教育を行うなど幅広い面で患者さんのケアにあたっています。
今後はより良い医療が提供できるよう、地域との医療連携を深めることで患者さんの受け皿を拡充し、地域全体で患者さんを診るような体制の構築に努めてまいります。
また、当院が理想とするのは、医師と患者さん、さらにはご家族が一体になって診療にあたるような医療です。すべてを当院にお任せいただくのではなく、一緒に疾患を克服していこうという気持ちで診療に取り組んでいきましょう。当院はこれからも常に患者さんやご家族に寄り添う存在でありたいと考えています。
埼玉県立小児医療センター 前病院長
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