千葉県松戸市にある三和病院は2014年の開院以来、地域密着型の医療と乳がん治療の2つを柱に診療を続けてきました。地域住民の大きな期待を受けて設立された同院の役割や今後について、院長である渡辺 修先生に伺いました。
当院は地域にお住まいの方々、そして“八柱三和クリニック”の患者さんが集めてくださった22,000もの署名により、2014年に開院いたしました。50床の病床と13の診療科を有する小規模な病院ではありますが、在宅医療を含めて地域密着型の医療を展開し、急性期を脱した患者さんの受け皿としての役割も担っています。
院長の私が乳腺外科を専門としていることもあり、当院には口コミやご紹介などで県外から足を運んでくださる患者さんも少なくありません。地域密着型の医療に加え、乳がんに対する専門的な治療を行うことにより、この地域の医療に貢献してまいりたいと考えています。
ご高齢の患者さんは1人でいくつもの病気を持っていることが少なくありません。大学病院などでは臓器ごとに細かく診療科が分かれていますが、私たちのような地域の病院は診療科の枠を超えて“患者さんの全身を診る”ことが求められます。内科系の病気については可能なかぎり1人の医師が1人の患者さんを総合的に診療する体制を取っており、必要があれば各分野を専門にする医師と連携して患者さんの治療にあたっています。
中でもご高齢の方に多くみられるリウマチや膠原病について、専門的な治療をご提供できる点は当院の強みです。日本リウマチ学会・指導医の資格を持つ高林 克日己先生はキャリア30年以上のベテラン医師であり、訪問診療も担っています。リウマチや膠原病は患者数に対して専門医の数が少ない領域ですから、診療を通して1人でも多くの患者さんのお役に立つことができれば幸いです。
当院は“地域の病院”であると同時に“乳がんの病院”でもあり、日本乳癌学会認定施設にもなっています。病床数50床という規模でありながら年間約400例(2023年度:454例)の手術を行っています。地域の方はもちろん、当院で治療を受けられた患者さんからのご紹介を通して、都内や茨城県などから足を運ばれる患者さんも少なくありません。
治療を受けた患者さんが当院を評価してくださる理由として、オンコプラスティックサージャリーを実践していることが挙げられます。オンコ(腫瘍)プラスティック(美容)サージャリー(手術)とはすなわち、がんをしっかりと切除したうえで、整容性に配慮した手術を目指すものです。
もう1つ、当院が評価を得ている背景には、患者さんに寄り添いながら治療を支える職員の存在があると考えています。病院に寄せられる声の中には、職員に対するお褒めの言葉が多くみられ、院長として非常にうれしく思っています。2024年4月からは月に一度、担当職員に対する“乳がん講習会”を実施し、知識面のレベルアップも図っております。
乳がん手術の約半数は、乳頭や乳輪を残しつつがんを切除する“乳房温存手術”が適応となります。当院では“きれいに治す”ことをモットーに、できるだけ手術前と変わらぬ外見に近付けるべく取り組んでいます。一方で、乳房の全摘出が避けられないケースでは形成外科と連携して乳房再建術を行い、乳房切除と再建を同時に実施する一次再建にも対応しています。
当院では乳房全切除術(全摘術)を受けられた患者さんの約半数が乳房再建術を選択されています。これは若い世代の患者さんに限ったことではなく、いわゆる高齢者と呼ばれる年代の方も対象です。人生100年時代、たとえご高齢の患者さんであっても、ご友人やお孫さんと旅行に出かけて温泉に入ったりする場面もあるでしょう。私たち医療者はあらゆる可能性を排除せず、メリット・デメリットを含めて全ての情報をお伝えし、患者さんの理解と納得のもとに治療を進める必要があると考えています。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行して、私たちの生活にも徐々に日常が戻りつつあります。残念ながらコロナ前に実施していた“健康サービスデー”などの催しを再開する目途は立っていませんが、すこしでも患者さんとの接点を増やしたいとの思いで、ホームページの充実を図っているところです。
その一例が、ホームページ内に開設した“乳腺患者様ご質問フォーム”です。治療に関する不安や疑問、セカンドオピニオン的なご相談など、皆さまから寄せられた質問はすぐに私のもとに届けられ、できるかぎり速やかに回答をホームページ上に公開しています。
また当院には“さくらんぼの会”という乳がん患者会があり、年に4回ほど交流の場を設けています。乳がん治療経験者やこれから治療を受ける患者さんが、お互いの悩みや不安を自由に話し合い、最後は笑顔でお帰りいただく……そんな時間をご提供しています。年に一度は私がお話する機会も設けておりますので、ぜひご参加ください。
当院の前身となる新八柱病院の外科部長として着任したのは2004年でしたから、この地域の医療に携わって20年ほどになるでしょうか。新八柱病院の閉院後に八柱三和クリニックを開院し、地域の皆さまのお力添えにより“三和病院”を開院できたことは、私にとって大きな喜びでした。
高齢化社会においては、リハビリテーションを含めた“痛みに対する治療”に加え、患者さんの全身を診られる医師が必要になってくるでしょう。今後は私の専門である乳がん治療における人材育成に力を注ぐと同時に、地域の医療ニーズに対応するべく医療体制の充実に努めてまいります。当院ならではのフットワークの軽さをいかして、患者さん・職員・地域の3つの“和”を大切に、三和病院をさらに発展させたいと考えておりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
*病床数、診療科、医師や提供する医療についての情報は全て、2024年5月時点のものです。