院長インタビュー

地域に求められる医療を実践する渋川医療センター

地域に求められる医療を実践する渋川医療センター
斎藤 龍生 先生

斎藤 龍生 先生

この記事の最終更新は2017年10月18日です。

独立行政法人 国立病院機構渋川医療センターは、国立病院機構西群馬病院と渋川市立渋川総合病院が統合し、群馬県北毛地域の基幹病院として2016年4月に誕生した新しい医療施設です。

結核・重症心身障害児(者)に対するセーフティーネットとしての役割を担う政策医療や、がんの専門医療に加え、総合病院としての一般医療も充実しています。そのため、がん患者さんが、がん以外の合併症を発症しても同センターで一貫して診察できます。

患者さんに寄り添った医療をモットーとする同センターの院長である斎藤龍生先生にお話を伺いました。

渋川病院 外観

当センターは、西群馬病院の有していた地域がん診療連携拠点病院や、地域医療支援病院、結核医療拠点病院、重症心身障害児(者)医療施設、エイズ治療拠点病院、肝疾患専門医療機関などの機能と、渋川総合病院の有していた救急告示病院や、災害拠点病院、DMAT指定医療機関、第二種感染症指定医療機関などの機能を統合・発展させ、政策医療と地域医療に力を注ぐ医療機関として2016年4月にスタートしました。

また、新たに総合診療科、内分泌・代謝内科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、放射線診断科、耳鼻咽喉科、形成外科が加わりました。現在は、2つの病院の強みをいかしつつ、これから必要となる新しい医療にも注力し、診療内容が充実してきたところです。

当センターが開設されるまで、群馬県北毛地域南部の渋川地域の患者さんの多くは、前橋や高崎などにある病院に通っていらっしゃいました。また、北毛地域北部の利根・沼田地域、吾妻地域の救急患者さんも、渋川地域を通り越し、同様に前橋・高崎地域にある急性期病院に搬送されていました。そのような状況下で、北毛地域のみなさまが安心できる地域の病院をつくる必要があるとされ、群馬県地域医療再生計画に基づく北毛地域の基幹病院として当センターが開院いたしました。2016年3月に開催した一般の方々を対象とした、新病院の内覧会には5,500名以上の地域の方々にご参加いただき、当センターへの期待の大きさに身が引き締まる思いがしました。

当センターの病床数は450床です。そのうち一般病床が300床、重症心身障害児(者)病床100床、結核・感染症病床が50床です。結核医療や重症心身障害児(者)医療は国の政策医療として力を入れております。ほかにも、地上ヘリポートを整備し、群馬県の防災、そして救急救命医療活動に貢献する体制を整えています。

診療科は26科あり、常勤医師は52名、非常勤医師を含めると102名在籍しております。外科系診療科では朝日新聞社の「手術数でわかるいい病院」の肺がんランキングにて、毎回全国トップクラスの実績のある呼吸器外科や、専門医を有して低侵襲な腹腔鏡手術を中心とした消化器外科診療を行う消化器外科、センチネルリンパ節生検にいち早く取り組んだ乳腺・内分泌外科など、両病院の外科の統合による豊富な手術症例、およびその臨床データを駆使した最新のがん治療を行っています。内科系診療科では、県内最多の肺がん症例数を有する呼吸器内科、全国的にも有数の悪性リンパ腫の症例を有する血液内科、肝疾患の基幹施設となっている消化器内科など、一般診療の他に特徴のある診療を行っています。また、最新の高精度放射線治療機器を用いた放射線治療や、1993年に国立病院機構としてはじめて開設した歴史と実績のある緩和ケア病棟(PCU)も、全国から注目されています。

当センターは1977年に肺がんの診療を開始して以来、さまざまながんの診療に力を入れております。1993年にがん緩和ケア病棟(PCU)を設立し、地域がん診療連携拠点病院として認定されました。がんの専門医療を実践しながら、一般医療についても幅広くカバーする総合病院であるため、がん以外の合併症を発症されたときでも、当センターで一貫して診療を受けていただけます。

新病院には、全国で2番目の稼働となる最先端の高精度放射線治療装置(ELEKTA社Versa HD®)を導入しました。これは、高い安全性のもと、1台で全身のさまざまな治療ができるように設計された高精度放射線治療システムです。従来どおりの各種放射線治療はもちろん、非常に正確な放射線照射が求められる高精度放射線治療にも対応可能です。高精度放射線治療は、高度先進医療である重粒子線治療に匹敵する治療法であり、今まで治療が難しかったすい臓がんや肝臓がんの治療が可能になります。

当センターでは、この装置を使用して、次のような高精度放射線治療を実施していきます。

  • IMRT(強度変調放射線治療):腫瘍の形に合わせて放射線を集中する治療法
  • VMAT(強度変調回転照射):IMRTを回転しながら素早く行う治療法
  • SBRT(体幹部定位放射線治療):正常組織を傷つけないように細い放射線を多方向から病巣に集中するため、1回に大量の放射線をかけられる治療法
  • アブチェス(呼吸同期):呼吸に合わせて、ずれのない照射を行う治療法

放射線

渋川病院 桜

当センターは、1993年にがん緩和ケア病棟(PCU)を設立しました。国立病院機構としても、群馬県内の医療機関としてもはじめての試みでした。当時は「緩和ケア」という言葉もまだ一般的ではなく、医師もスタッフも手探りの状態でした。

そこでは、緩和ケア病棟の患者さんが、がんにまつわる、さまざまなお悩みを抱えているにもかかわらず、看護師を労ってくださったり、ご家族のことを心配なさったりといった光景をよく目にしました。そのような患者さんの思いに触れ、患者さんの人格の尊さ、人間の偉大さを実感しました。

緩和ケア病棟では、患者さんの意思を守り、尊ぶことをもっとも大切にしています。患者さんの意思を知るためには、患者さんとともに考える姿勢や、コミュニケーションスキルが常に求められます。そして、この緩和ケア病棟の存在が、当センターの高いコミュニケーションスキルをもつ職員の育成に大きく貢献していると、私は考えています。「患者さんとともに考える」その体験からの気付きは、私たち医師やスタッフのコミュニケーションスキルを向上させ、病院全体の医療の質を上げることにつながるだろうと信じています。

当センターの緩和ケア病棟で実践している医療は、2003年に日本経済新聞社によって調査された「患者にやさしい病院全国ランキング」で5位に入るなど、全国的にも評価されています。私は、緩和ケア病棟のスタッフに、「自分の立場で見えるものは限られている。見えたものは患者さんの一面であって、すべてではない。だからチーム医療が大切である。」と伝えています。緩和ケア病棟は充実したスタッフを有しているため、在宅がん患者さんの救急にも対応していく体制を整えてまいります。精神腫瘍科の医師をはじめ、多職種で構成される緩和ケアチームの活動も活発に行われており、一般病棟のがん患者さんに対する緩和ケアの充実にも力を注いでいます。

重症心身障害児(者)とは、「重度の肢体不自由と重度の知的障害を併せ持った状態」の患者さんを指し、当センターには100床の重症心身障害児(者)病棟があります。同病棟では、超重症心身患者さんの健康管理、人工呼吸器管理を必要とする患者さんの管理などの医療の場としてだけではなく、生活の場としての療養生活にも力を注いでいます。

座位をとることが難しく寝たきりになり、四肢の変形や関節が固まってしまう症状がある患者さんが多く、また、言語的コミュニケーションが図れる方は少ないため、職員は患者さんの仕草や表情などから思いを感じ取っています。

当センターでは、一般診療を行う総合病院の強みをいかし、骨折がん治療など、さまざまな合併症に対応しています。重症心身障害児(者)の患者さんは、病院に長期に入院される方が多く、そのような患者さんとご家族にとっては、病院は家であると私たちは考えています。患者さんや、ご家族が当センターを信頼し、安心して過ごしていただける病院であれるよう、職員一同患者さんの気持ちに寄り添った医療を実践します。

他院と競い合って医療を行おうとすることは、その医療分野の進歩にはつながりません。専門的な診療ができるよい人材を一か所に集約し、そこで集中的な治療や研究を進めるほうが、地域のみなさまにとってよい医療の提供につながると考えます。

当センターには、26の診療科があります。しかし、患者さんの症状に応じて、ほかの病院のほうが最適な場合は、県内の他院を紹介することも積極的に行っています。

たとえば、当センターの血液内科は、多発性骨髄腫や、悪性リンパ腫の診療に特に力を入れています。一方で同じ血液内科の守備範囲である白血病については、患者さんの病状によって他院を紹介し、患者さんにもっとも適切な治療を提供できるように互いに連携しています。

また、当センターの小児科は重症心身障害児の診察のみ実施しており、NICUを退院したけれども、人工呼吸器が外せず自宅に帰れないような患者さんを、積極的に受け入れています。

北毛地域の基幹病院の役割を果たすべく、渋川地域だけではなく北部北毛地域の診療援助に医師を派遣することも開始致しました。

さらに他病院の事務部との連携も積極的に行い、現在群馬県に必要とされている医療を、どこの医療機関でどのように提供したらよいか、地域全体で考えるよう取り組んでいます。

外来

当センターの職場は風通しがよく、お互いを思いやり、よい医療を実践してくれていると感じています。新病院に設置した医師たちの机を置く部屋(医局)は、すべての医師が集うひとつの大部屋にしました。これには、異なる診療科のスタッフ同士や、ベテラン医師と若手医師がコミュニケーションを図りやすくする目的があります。また、現代医療は、非常に早いスピードで進歩しているため、診療科ごとに細かく部屋を分けていては非効率だという理由もあります。

国立病院機構グループ全体としては、51,400床の病床を有し、治験や臨床研究が非常に盛んです。医師や職員のキャリアアップに対するサポートも全面的に行っているため、研究のための学会活動や書籍購入、各種資格の更新にかかる費用なども病院が負担しています。また、当センターは臨床研修指定病院として、研修医や専門医の教育にも力を入れており、シミュレーターによるスキルアップトレーニングも充実しています。育児短時間勤務のシステムの活用により、仕事と育児を両立する医師や職員が数多く、働きやすい環境作りに努めております。

当センターが、地域に根ざし、地域に貢献できる病院であり続けられるよう、当センターの職員は「求められる医療とはなにか」という視点を常に大切にしてほしいと考えています。

斎藤龍生先生

群馬県地域医療再生計画に基づいて2016年4月に北毛地域の基幹病院として開設して以来、外来患者数や手術件数、救急患者数のいずれも右肩上がりに増加しています。あらためて、群馬県の北毛地域には、当センターのような病院が切望されていたのだと実感しております。

一方で地域のみなさまから求められている医療とは何か、それにお応えするために当センターが何をすべきか、ということを考え続けています。

当センターは、これまで力を注いできたがん・呼吸器疾患・重症心身障害児(者)治療の専門病院としての機能をますます充実させます。当センターの取り組みをモデルケースとして、全国にも発信していきます。また、これからの時代は、自宅で療養し、必要になったときに病院を利用する、といった患者さんが増えてくると予想されます。そのような患者さんを支えられる医療や地域医療機関との連携の充実に努めます。

患者さんの気持ちに寄り添い、患者さんとともに考える医療を実践し、これからも地域社会に貢献してまいります。

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