社会医療法人 母恋 天使病院(以下、天使病院)では、やさしさと慈しみの心を大切にすると同時に、北海道の周産期医療を支える病院のひとつとして医療を提供しています。“お母さんとお子さんが安心できること”をコンセプトに周産期母子センターをオープンするなど、常に患者さんにとって何ができるのかを追求する姿勢を貫いている病院です。同院の診療体制の特徴や思いについて、天使病院の院長である、西村 光弘先生にお話を伺いました。
当院は、1911年にカトリックの視察団が設立した内科の病院が始まりです。その後、時代のニーズとともに産婦人科と小児科を兼ねた診療をするように変わりました。2003年には社会福祉法人から医療法人になるという転機を迎え、2007年には病院のコンセプトを一新。具体的には、内科と外科、産婦人科と小児科を天使の翼になぞらえて、病院の両翼としていく方針となりました。
周産期医療に注力するなかでも、高齢出産などハイリスク分娩の積極的な受け入れに努めています。高齢化が進む時代のなかでニーズが高まっている分野であり、地域周産期母子医療センターの使命でもあります。また、当院は周産期医療に注力する病院であると同時に総合病院です。周産期医療は天使病院のひとつの柱であり、“北海道の周産期医療を守ろう”という方針のもと、協力して診療を行っています。
当院で出生した方がご自身のお産で来院してくださることもあり、地域の出産と周産期医療に、世代を超えて関わることができていることを誇りに思っています。
当院の特徴として、周産期医療と他分野の医療をバランスよく行っていることがあります。リスクの高い周産期医療を安定して維持するためには、他診療科との協力が不可決です。妊娠中の高血圧症や糖尿病のコントロールは循環器内科や糖尿病・代謝内科、生まれた赤ちゃんの病気への対応には小児外科と小児科、耳鼻咽喉科、眼科など、各専門診療科が密接に連携することで継続的なサポートが可能なことが、当院の中で一番の強みです。
また、札幌以外にお住まいの方の出産を受け付けているのも特徴のひとつです。外部にマンションの部屋を借りているので、里帰り出産のほか、たとえば「札幌に知り合いも親戚もいないけれど、天使病院で産みたい」と言ってくださる患者さんにも対応することが可能です。さらに、MFICU(母体胎児集中治療室)やNICU(新生児集中治療室)、さらにNICUでの治療後に続けて治療とケアを行うGCU(継続保育室)を備えている病院のため、北海道の周産期医療を支えるという役割の一端を担っている自負があります。
2014年に開設した鼠径ヘルニア・臍ヘルニアセンターでは、小児から成人の方の鼠径ヘルニアと臍ヘルニアの診療を行っております。同センターを開設するまでは、主に小児科のヘルニア患者さんを診ておりましたが、小児外科と一般外科で連携して診察を行うことで幅広い年齢層の患者さんを診療することが可能になりました。また、鼠径ヘルニアに対しては腹腔鏡による手術を実施しており、症状や患者さんの年齢、手術の状況にもよりますが、日帰り手術にも対応しています。
またヘルニア以外でも、整形外科では変形性膝関節症のための手術のひとつとして、骨切り術という手術にも対応しています。
当院では周産期医療のひとつとして、遺伝子の異常によって起こる病気や生まれつきの病気に関して診断する遺伝外来*を開設しております。
また、遺伝子検査室を設置しており、常勤の職員が染色体検査などの遺伝子検査を行っています。院内併設のため、迅速な解析、診断ができる体制が整っていることが強みです。院内併設の迅速な解析、診断ができる体制を整えているのは、大学病院以外では珍しいかもしれません。北海道大学や北海道医療大学などの外部機関と協力して研究、解析を行っており、ダウン症候群、プラダー・ウィリー症候群、ベックウィズ・ウィーデマン症候群など幅広い病気へ対応しています。
カウンセラーへの相談も承っております。染色体異常がある方はもちろん、お産を控えているけど親族に遺伝的な病気がある、ほかの病院で遺伝子検査を受けたがよく分からないなど、遺伝子に関するお悩みなら、お気軽にご相談いただけます。
*遺伝外来で行う羊水検査は、公的医療保険の適用外です。2020年1月現在、80,000円+税の自己負担費用が発生します。このような遺伝子検査は、必ずしも生まれつきの病気やその発症リスクを発見できるものではありません。また、リスクとして流産の可能性があります。
また当院では、外部の医療関係者および一般の方に向けて、遺伝医学セミナーも行っております。初心者の方でも分かりやすいテーマを取り上げており、参加費も無料です。気軽に参加いただき、より多くの方に遺伝医学について知っていただきたいと思っております。また、当院は日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医研修施設に認定されており、教育機関としても活動しています。
2014年にグランドオープンした新病院の小児を含めた周産期医療を担う病棟全体にアートワークを導入しました。“天使の庭”をメインコンセプトとして多数のアーティストの方にご協力いただき、“天使病院らしさ”を残しながらも“病院らしくない、癒しを提供できる空間”を目指しています。
全ては、とにかくお母さんが安らげる場所を作ろうという思いから始まっています。お母さんが安らげないと、お子さんたちも安心できません。常に親子そろって安心して過ごせる環境づくりを心掛けています。また、周産期の病棟については、安全性の面からできる限り関係者以外が立ち入らない作りにしています。
循環器内科の取り組みとして、旅行や帰省などで一時的に札幌へお越しの方にも臨時透析の対応を行っております。事前に予約や情報の提供が必要なため、その部分ではご協力いただく必要がありますが、問い合わせがあればできる限り対応をしております。透析によって旅行などの遠出を諦めることがないように、透析患者さんの力になれたらという思いで実施している取り組みです。
当院では臨床研修医を受け入れています。研修後にそのまま当院で勤務してくれる医師もいて、大変うれしく思っています。また、ほかの病院や施設で勉強し、当院に戻ってきてくれた医師もいます。医師から「働きやすい」と言ってもらえるのは大きな強みだと思っています。
たとえば、産婦人科では当直の翌日は午前中に帰れるような制度にしています。医師の負担を減らす試みとして効果が高いと思いますし、結果として業務時間により集中して臨むことを、後押しする狙いがあります。もちろん、例外の場合もありますが、ルールが決まっていると医師も働きやすいのではないでしょうか。
さらに当院は、人間関係が良好なことも特徴的だと思います。全員が顔見知りのうえ、診療科間の垣根が低いため、他診療科へ頼みごともしやすいようで、スタッフ同士の雰囲気はとてもよいです。
病院に入ってすぐの場所にマリア様の像があります。これは昔、社会福祉法人だった頃の名残で病院設立のメモリアルとして残しています。この像には宗教的な意味合いはなく、広く普遍的な母性とやさしさ、慈しみの心が込められていると感じるからです。老舗という存在には、病院に限らず歴史を受け継ぎつつ近代化していく、という役割が現代において求められます。当院も専門性と医療の質を高め、設備も必要に応じて新しいものを取り入れていくなど、絶えず進化を続ける努力をする必要があります。ただ、設立当初、シスターたちが奉仕の精神でお産を手伝っていた頃の純粋な慈しみの心は忘れてはいけない、もっとも大切なことのひとつです。
大変ありがたいことに「昔、この病院で生まれました」とおっしゃる妊婦さんが当院でまたお産をし、何世代にもわたって当院で命をつないでくださっています。人の終焉に携わることの多い医療の世界で、生命の誕生から人の人生に関われることは私たちの誇りです。
当院の理念にあるように“訪れたとき、いつもほっとしてもらえる病院”でいられるよう精進を続け、これからも周産期医療に限らず、20科を持つ総合病院(2020年2月時点)として、世代を超えて地域とともに在りたい、それを見守っていきたいと思っています。
社会医療法人母恋 天使病院 院長
西村 光弘 先生の所属医療機関
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。