腟が痛い:医師が考える原因と対処法|症状辞典
メディカルノート編集部 [医師監修]【監修】
腟は、外陰部と子宮頸部(子宮の入り口)をつなぐ管状の部位で、成人女性では6~8㎝ほどの長さがあります。経血などの子宮内分泌物の排出路であり、分娩に際しては産道にもなります。また、性交時は陰茎が挿入される部位でもあり、表面は粘膜に覆われていて多くの粘液が分泌されます。
腟は外界と通じているため、細菌やウイルスなどの病原体が侵入しやすい上に、性交などによって粘膜にダメージを受けることも多く、さまざまなトラブルが生じやすい部位です。
これらのような腟が痛む症状が見られた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
腟の痛みは日常生活上の好ましくない習慣が原因で引き起こされることがあります。主な原因とそれぞれの対処法は以下の通りです。
外陰部や腟は下着や衣類、生理用品によって蒸れやすく、不衛生な状態になりやすい部位です。汗や分泌物が蒸れたままの状態が長く続くと、腟内に細菌やカビが感染、増殖して痛みの原因になることがあります。
通気性がよく、陰部に密着しすぎないサイズの下着や衣類を選び、入浴時には外陰部を泡で優しく洗いましましょう。また、長時間の座位などは蒸れの原因になることがありますので、こまめに立ち上がるなどの動作を行うのもポイントです。
ストレスや睡眠不足は、腟の痛みの原因であるカンジダ腟炎発症の引き金になることがあります。
身体の抵抗力を保って、良好な腟内環境を維持するには、十分な休息、睡眠時間を確保して、適度にストレスを解消できる趣味などを持つことが大切です。また、過度なストレスに悩んでいる場合は、原因となる出来事・状況を避けるのもひとつの方法です。
日常生活上の対処法を講じても、腟の痛みが改善しない場合は、思わぬ病気が潜んでいる可能性もあります。なるべく早めにそれぞれの症状に合わせた診療科を受診して、適切な検査・治療を受けるようにしましょう。
腟は病原体の侵入や物理的な刺激によってダメージを受けやすい部位であり、腟の痛みは発症頻度が高い症状の一つです。中には、以下のような病気が原因のこともありますので注意が必要です。
腟の痛みは、主に腟の粘膜に生じる病気によって引き起こされます。原因となる主な病気には以下のようなものが挙げられます。
性行為によって感染する病気であり、クラミジアや淋病、トリコモナス、扁平コンジローム、梅毒などが挙げられます。女性の場合、自覚症状がないことも多々ありますが、淋病やトリコモナスでは、おりものの色調や性状に変化が見られ、腟や下腹部の痛みを生じることがあります。これらの性感染症は適切な治療を行わないと、子宮や卵管などにも感染が波及して子宮内の炎症や卵管の炎症、癒着、腹腔内の癒着を引き起こすことがあり、激しい腹痛や不妊症、異所性妊娠の原因になることもあります。
カビの一種であるカンジダが腟内で異常増殖する病気です。カンジダは腟の皮膚などに常在しているカビで、症状のない女性の腟内でも検出されることがあります。疲れが溜まったときや風邪をひいたときなど体力が落ちている場合に腟内に入り込み、異常増殖して症状を引き起こすことがあります。発症すると、チーズ様のおりものが増加して、腟に灼熱感を伴う非常に強いかゆみを生じ、悪化すると痛みを引き起こすこともあります。
更年期以降の女性に発症する病気であり、女性ホルモンの分泌量が低下することで腟の粘膜が萎縮して菲薄化するために引き起こされる病気です。腟の粘膜が乾燥することで、歩行や性交時などに摩擦が生じやすくなり、粘膜のびらんや炎症を生じ、痛みの原因となります。
悪化すると、腟粘膜から出血を生じることもあり、病変部に細菌感染を引き起こして膿が流出することもあります。
腟に発生するがんであり、発症頻度は少ないものの腟の痛みの原因になることがあります。早期の段階では自覚症状がないことが多いですが、進行してがんが大きくなると、腟の痛みのほかに、下腹部痛や不正出血、便秘などを引き起こすことがあります。
腟の痛みは以下のような腟周辺に生じる病気が原因になることがあります。
子宮内膜組織が子宮以外の部位に発生し、月経周期に合わせて増殖や剥離を繰り返す病気です。20~30代女性に好発し、腟周辺に発症すると腟の痛みとして感知されることがあります。痛みは月経前や月経中に強くなるのが一般的で、直腸などの周辺臓器との癒着を引き起こして性交痛や不妊症の原因になることもあります。
尿道に侵入した細菌が膀胱に炎症を引き起こす病気です。腟は膀胱の後面にあるため、膀胱炎を発症すると痛みが放散して腟の痛みと感知されることがあります。そのほかの症状としては、排尿時痛や尿の汚染、頻尿などの排尿の異常や、発熱などの全身症状が挙げられます。
腟は日常的に傷つきやすい部位であるため、痛みを生じたからといって即座に病院を受診する方は少ないでしょう。しかし、中には早急に治療が必要な病気が潜んでいるケースもありますので、看過することはできない症状でもあります。
特に、腟の痛みと共におりものの変化や不正出血などを伴う場合、発熱など全身症状がある場合、不妊に悩んでいる場合はなるべく早めに病院を受診しましょう。
受診に適した診療科は産婦人科ですが、性感染症が強く疑われる場合は皮膚科などかかりつけの病院で相談するのもよいでしょう。受診の際には、いつから痛みがあるのか、おりものの変化や不正出血の有無、そのほかの随伴症状を詳しく医師に説明するようにしましょう。また、パートナーが性感染症に罹患したなど性感染症が強く疑われる場合は、その旨も事前に説明しておくと診療がスムーズに進むことがあります。