インフルエンザについての連載を担当していただいた神戸大学感染治療学教授の岩田健太郎先生は、臨床医としては「臨床は常に正解があるものではなく、ケースバイケース。さまざまな選択肢を持ちながら一人ひとりそれぞれに合った治療を考える」という姿勢です。また科学者としては「常にフェアな立場でさまざまな事象を見る」姿勢で医学と向き合い続けています。
今回は、情報があふれるインターネットで、どのようにして医療情報との付き合い方を考えていけばよいのかをお話しいただききました。
医療における正しさというのは、そもそも、とても難しいテーマです。「これが正しい」「これをやるべきだ」というような記事には注意する必要があります。ここまで、抗インフルエンザ薬や検査、オセルタミビルリン酸塩の予防投与などについてお話ししてきましたが、どれをとっても医療というのは常にケースバイケースであるということがお分かりいただけたかと思います。人の数だけ考えるべきシーンは違い、その都度、どのようにすべきかというのは異なっています。
また、医学はサイエンスでもあります。サイエンスを語るときに「これはこうだ!」という断定的、断言的な言い方をするのは好ましい姿勢ではありません。常に反証の可能性があることこそがサイエンスなのです。私自身も「サイエンスはゆっくりと静かに語る」ことを心がけています。断言的、断定的な記事は、その時点で、あまり信頼に足るものではない可能性があります。
インターネット上の医療情報というのはとにかくガセネタが多いです。インフルエンザに関しては「煽ったもの勝ち」とすら言えるような状況です。極論と例外事項を大きく取り上げ、「針小棒大に語る」ことばかりです。たとえば、オセルタミビルリン酸塩の健康被害についても、ほとんどの人が被害にあっていないなかで、非常に大げさな語られ方をしているのです。被害にあった方のケアはもちろん大切ですが、リスクとベネフィットのバランスを常に考えなければいけません。
また、インターネットからの拾い読みの情報だけで、分かった気になってしまうこと。そして、こうした情報のみを鵜呑みにし、専門家に対していろいろと語ってしまうのは、問題のある行為だと考えています。とはいえ、「素人が専門家に対して語ってはいけない」とはまったく思いません。まずはきちんと勉強してから語ることが大切です。
何かを語るときにはちゃんと教科書を読んで勉強をしましょう。教科書すら読まずに専門家に対して語るのは非常にナンセンスです。基本的なことをきちんと学び、今の主流の考え方をしっかりと勉強する。そのうえで専門家に対して語るというのが常識的な敬意であると考えます。
岩田 健太郎 先生の所属医療機関