冬に大流行するインフルエンザ。集団感染がニュースになったり、何となく怖い病気というイメージを持っていると思います。本当のところはどのような病気なのか? 神戸大学感染治療学教授の岩田健太郎先生にお聞きしました。
「病気のど真ん中」としての典型的なインフルエンザは「冬に流行して、急に高熱が出て喉が痛くなり、体の節々が痛くなり、寒気がする」と考えることができ、急激に発症しますが「スカッと」治ってしまう病気です。もちろん病気には幅があり、軽症から重症まであります。また、症状こそが大切であり、「インフルエンザウイルス」の有無を議論することには意味がありません。
もともとは「冬に流行して、急に高熱が出て喉が痛くなり、体の節々が痛くなり、寒気がする」というような病気一般のことをインフルエンザといっていました。3~4日くらい寝込み、大人であれば5日間、子どもであれば7日間くらいで治る病気です。短期間で治り、慢性化することはありません。基本的には短期決戦型の病気であり、「3年前からインフルエンザ」というような人はいません。
インフルエンザはイタリア語でインフルエンスという「影響、感化」という意味のある言葉から派生しています。中世ヨーロッパでは占星術・錬金術が盛んでした。当時の西洋では星の影響でインフルエンザのような現象が起こるといわれていました。また、東洋医学でいうところの傷寒論における太陽病は高い熱が出て、この中にはインフルエンザも交じっているのではないかと考えられます。
1918年にスペインかぜが流行し、4,000万人の死者が出ました。この頃はまだ細菌感染症ではないかと考えられていました。このときに顕微鏡を見ると、そこで見つかった細菌がありました。その菌はインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)という名前がつけられ、現在も同じ名称です。つまり、インフルエンザ菌という名前はその当時、インフルエンザの原因と勘違いされたためにつけられたものだったのです。
インフルエンザが結局ウイルスの病気だと分かったのは電子顕微鏡ができてウイルスの存在が明らかになってからの1930年代のことです。そこからA型、B型などの種類があることも分かってきました。インフルエンザウイルスが中心に語られてしまうようになったのは検査が普及した現代になってからのことです。
最近の疫学研究では、インフルエンザウイルスに感染しても実は無症状であることが分かってきました。また、夏かぜや鼻かぜに対しても検査をしてみると、実はインフルエンザウイルスがいるということも分かってきました。これは、インフルエンザウイルスの検査が普及したからこそ分かってきた事実です。しかし、実際のところ無症状の人に対してインフルエンザウイルスの検査をすることは意味がありませんし、その人に対してインフルエンザと診断することもできません。インフルエンザという「コト」こそが大切であり、インフルエンザウイルスという「モノ」には意味がないのです。
一方では、より重症の方もいます。妊婦さん、著しい肥満の方、肺気腫などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息の患者さんは肺炎や脳症などの合併症を生じやすく重症化しやすいことが分かっています。また、ジクロフェナクナトリウムなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を定期的に飲んでいる方は脳症(Reye症候群)の発症リスクも高くなっています。このように、医学においては典型例と例外を分けることはとても大切です。
普通のかぜとは、英語ではコモンコールドといいます。現象としては「それほど高くない熱が出て鼻がつまるなどの上気道症状を中心とし、インフルエンザほどはきつくなく、人によっては数週間くらいダラダラと続くことがある。学校や仕事を休むほどのものではない」というイメージで考えることができます。
科学的にいえばインフルエンザとはインフルエンザウイルスが引き起こし、コモンコールドはライノウイルスやコロナウイルスが引き起こすということができます。もちろん、同様に病気には幅があります。インフルエンザの軽症型では、かぜとの区別がつかないこともありますしオーバーラップしていることもあります。
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