インフルエンザによる異常な行動(異常行動)には、窓から飛び降りる、突然走り出すといったことが一定の割合で報告されています。そのため、たとえばお子さんがインフルエンザにかかったときには時々様子を見ること、異常行動が発生しても重大事故に結びつかないように注意をすることなどが重要です。
本記事では、川崎市健康安全研究所所長である岡部信彦先生に、インフルエンザの異常行動の原因と対処法についてお話を伺いました。
インフルエンザを発症した患者さんにまれに起こる、窓から飛び降りたり突然走り出したりするといった予測できない行動を異常行動といい、抗インフルエンザウイルス薬の使用との関係が日本国内で問題となっていました。このような異常行動に関する調査が、国の研究費の給付を受けて、毎年行われてきました(日本医療研究開発機構委託事業「インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動に係る全国的な動向に関する研究」研究代表者・岡部 信彦)。
国内の医療機関(すべての医療機関に重度調査、インフルエンザ定点医療機関*に軽度及び重度調査)の協力を得て、インフルエンザ様疾患の診断がついた患者さんに異常行動が現れた例について報告をしていただくことを、毎年のインフルエンザシーズンごとに行ったものです。
調査の内容は、異常行動を起こした個人情報を除いた患者さんのプロフィル、異常行動の状況、どのような抗インフルエンザ薬や解熱剤を使用していたか、あるいはそれらを使用していなかったかということなどです。新しく登場した抗インフルエンザ薬は、その都度、調査の対象に加えています。
インフルエンザ定点医療機関…インフルエンザ様疾患についての報告を依頼された小児科約3000、内科約2000の医療機関
抗インフルエンザ薬であるオセルタミビルリン酸塩(以下、オセルタミビル)が発売されて間もない頃、この薬剤の服用と、異常行動の関連について大きな話題となりました。これは、この薬剤を服用した患者さんに異常行動がみられ死に至ったという事例が学会で報告され、オセルタミビルによって引き起こされるのであると提起されたためです。
これについては、その後いろいろな意見が出され、重症者が多かった10代への同薬の使用が国内で差し控えられました。しかし、その後10年にわたる疫学調査では、抗インフルエンザウイルス薬服用の有無にかかわらず、異常行動は一定の割合で報告されていることが明らかとなりました。
異常行動と薬剤との因果関係の有無を調べるためには、実験研究をさらに続けていくことが必要です。
インフルエンザにかかると、まれに異常行動を起こす場合があります。私自身、抗インフルエンザ薬が出現する以前より、インフルエンザにかかった子どもが異常行動を起こした例の経験もあり、また実際に、薬を服用していない場合の異常行動も報告されています。インフルエンザに伴う異常行動の存在は、私が医学生だった頃の教科書にも記載がありました。
しかし、異常行動がどのようなメカニズムで起こるのかという医学的な説明は未だ明らかになっていません(2018年7月時点)。
オセルタミビルの他に、広く使用されるようになった新たな抗インフルエンザ薬や、解熱剤であるアセトアミノフェンも調査に加え、これらの薬剤を使用したグループのいずれにも異常行動の発生はみられました。
また、ほぼ10年間の疫学調査では、重症異常行動がみられた患者さんの0~26%はアセトアミノフェン(解熱剤)のみの使用、7~25%は薬剤の使用なしという結果でした。
このことから私たち研究班は、異常行動はインフルエンザ罹患そのもので生じる可能性は高い、という結論を出しました。
異常行動とインフルエンザ、抗インフルエンザウイルス薬との因果関係についてはっきりしたことはわかっていませんが、抗インフルエンザウイルス薬を飲まなければ安全ということはありません。インフルエンザにかかったら、窓から飛び降りたり突然走り出したりするなどの異常行動には注意する必要があるでしょう。
異常行動は小学校に入学する前後のお子さんからみられるようになり、まれに成人での報告もあります。性別では明らかに男子に多く発生しています。このことから、小学生以上の男子がインフルエンザにかかったときは、特に注意する必要があるでしょう。しかし、女子でも発生する可能性はあるので、女子だから大丈夫というわけではありません。
インフルエンザの異常行動による大事故が目立った年齢として、10代が挙げられます。
小学校低・中学年くらいの子どもであれば、異常行動が起こっても周囲の人がすぐに抱きかかえるなど、大きな事故を未然に防ぐことが考えられます。しかし、小学校高学年以上になると、親と一緒に寝ていないことが多く異常行動があってもすぐに気づきにくい、体格も大きく力も強くなっており気がついても押しとどめることができない、などの理由から大きな事故に結びつきやすいと考えられます。
小学校高学年以上のお子さんについては、インフルエンザにかかったら、時々様子をみることや、このあとで述べるように異常行動が発生しても重大事故に結びつかないような注意をすることが大切です。
成人の異常行動については、疫学調査では極めて少ない報告数でした。正確なことは分かっていませんが、少なくとも異常行動による重大な事故が発生した報告はほとんどないため、重大な事故につながるような異常行動は子どもに特有のものではないでしょうか。
インフルエンザの異常行動にはさまざまな種類があります。主に、
などが挙げられます。
そのなかでも、制止しなければ命にかかわる可能性のある行動(窓から飛び降りる、急に走り出すなど)について、注意が必要です。
異常行動が起こると重大な事故につながる恐れがあるため、周囲の方はあらかじめ注意してください。
たとえば、窓が開いていると飛び出してしまい転落したり、玄関のドアが開いていると外へ出てしまい交通事故に遭ったりする恐れがあります。そこで、普段から窓際にベッドを置かない、玄関や窓にはきちんと鍵をかける、異常行動に気づいたら周囲の方がすぐに抱きかかえるなどにより、事故を未然に防ぐことができます。
インフルエンザによる異常行動の特徴は、短時間で治まることです。数時間にわたり続くようなことはなく、しだいに落ち着いてきます。症状が落ち着いてからでもよいので、念のために受診はしてください。
疫学調査では、発熱から異常行動が現れるまでの日数は、2日以内であることが多いという結果でした。2016/2017シーズンの報告のまとめでは、発熱後1日以内に異常行動が現れた方は34.62%、2日目に現れた方が48.08%でした。1)
インフルエンザ脳症とは、インフルエンザにかかった早い時期に主に幼児の間でまれに発症する急性脳症のことを指します。
インフルエンザの異常行動は、インフルエンザ脳症の初期症状に似ていることがあります。たとえば、意味不明の言葉を突然喋りだす、異常な行動を起こす、意識障害やけいれんを起こす、といった症状が現れます。ただし、インフルエンザ脳症は急速に悪化し、異常行動であれば短時間で元に戻ってしまいます。
異常行動の場合は、様子が落ち着いてから受診しても問題ありません。インフルエンザ脳症の場合は命にかかわる重症疾患ですので、救急車を呼ぶなどして、至急、小児救急医療機関につれていく必要があります。
1)独立行政法人 日本医療研究開発機構. インフルエンザ罹患に伴う異常行動研究 2017年3月31日までのデータ取りまとめ2016/2017シーズン報 表2.発熱から異常行動発現までの日数
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