インタビュー

インフルエンザの基礎知識

インフルエンザの基礎知識
岩田 健太郎 先生

神戸大学大学院医学研究科 感染治療学分野 教授

岩田 健太郎 先生

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この記事の最終更新は2015年06月09日です。

毎年たくさんの人がかかるインフルエンザ。ポピュラーな病気のわりには、きちんと知らないことも多いのではないでしょうか。今回は、インフルエンザの型とは何か、感染経路、潜伏期間、症状など、基本的なことを、神戸大学感染治療学教授の岩田健太郎先生にお聞きしました。

ウイルスにはDNAウイルスとRNAウイルスがあります。インフルエンザウイルスはRNAウイルスです。インフルエンザウイルスは、人間にも、トリ、ウマ、ブタなどさまざまな動物にも感染します。型としてはABCの3種類があります。C型は人間には感染しても問題ないので、一般的には無視することができます。人間を対象とするインフルエンザとしてはA型とB型があります。

まず、A型はH3N2、H1N1など非常に多くの種類があります。これは、「アンチジェニックシフト」という遺伝子の大きな変化により引き起こされます。15種類のヘマグルチニン(HA)、9種類のノイラミニダーゼ(NA)という2つの表面抗原の多様な組み合わせの数により、たくさんのウイルスの種類があります。一方で、B型は表面抗原の種類が単一です。そのため、大きな世界的流行(パンデミック)を起こす可能性は低いといわれています。

どちらかといえばB型のほうが軽症であるとはいわれていますが、それでもオーバーラップがあって、一定数の割合でB型でも重症化することはあります。やはり、より深刻な問題があるのはA型のほうです。予防接種のインフルエンザワクチンにもA型が2種類、B型が2種類入っています。

感染経路は飛沫感染です。咳やくしゃみから感染します。物とか手にウイルスがついて、そこから感染することもあります。潜伏期間(ウイルスに感染してから発症するまでの期間)は1〜4日くらいで、平均すると2日くらいの潜伏期間になります(もちろん、この間に発症することも、発症しないこともあります)。

秋・冬が流行時期になります。そのため、インフルエンザワクチンは秋口に打っておくことが大切です。

典型的には上気道症状と全身症状です。上気道粘膜に主に感染して、潜伏期間に続いて上気道症状(鼻閉・鼻汁・頭痛(いんとうつう))が出現します。また、気管支炎肺炎になると下気道症状(咳・痰)が出ることもあります。咳は上気道症状としても出ることがあります。また、全身症状としては突然の38~40℃の高熱、筋肉痛、関節痛、寒気などがあります。

典型的には、インフルエンザにおいて嘔吐や腹痛、下痢などの消化器症状はありません。オセルタミビルの副作用で下痢になることがあるので、それをインフルエンザの症状と勘違いしてしまっている可能性はあります。

よく、インフルエンザの初期症状という聞かれ方をします。しかし、インフルエンザには結局初期症状も晩期症状もあまりありません。というのも、インフルエンザは発症からの急峻な症状の出方(Acute Onset)が特徴だからです。数時間単位の非常に短い期間で急激に発症し、寒気や喉が痛いなどの症状が出ます。3週間前からインフルエンザというようなことは考えにくいのです。

最近の疫学研究では、インフルエンザウイルスに感染しても、熱も、ほかの症状もまったく出ないことがあることが分かってきました。また、夏かぜや鼻かぜに対しても、検査をしてみると、実はインフルエンザウイルスがいることがあるということも分かってきました。

これは、インフルエンザウイルスの検査が普及したからこそ分かってきた事実です。しかし、実際のところ無症状の人に対してインフルエンザウイルスの検査をすることは意味がありませんし、その人に対してインフルエンザと診断することもできません。インフルエンザという「コト」こそが大切であり、インフルエンザウイルスという「モノ」には意味がありません。元々、インフルエンザは現象を指していて、あとからウイルスがくっついてきたのです。そのため、症状も何もない状態をインフルエンザということには意味がありません。

熱は数日、それも3〜4日で下がることが多いです。2週間、3週間にわたってなかなか治らないということはあまりないのです。「なかなか治らない」という場合は、「あまりインフルエンザっぽくない」という印象を受けます。

インフルエンザが治らない場合は、肺炎などほかの病気が絡んでいたり、合併症を引き起こしたりしている可能性も考えなければなりません。あらためて医療機関の受診を検討しましょう。

インフルエンザにおいて注意すべき合併症は肺炎と脳症です。肺炎のリスクとなるのは、慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)COPD)や気管支喘息などの呼吸器疾患です。基礎疾患として、これらの呼吸器疾患がある方はインフルエンザワクチンを打っておいたほうがよく、インフルエンザにかかってしまったときには、抗インフルエンザ薬を内服したほうがよいでしょう。

一方で、脳症のリスクとなるのはジクロフェナク、メフェナム酸などのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)を内服している方です。また、特徴的なのはReye症候群といわれるもので、子どもがインフルエンザや水痘などのウイルス感染にかかった後、急性脳症脂肪肝を引き起こし、死に至ることがあります。これもNSAIDs(非ステロイド性抗鎮痛薬)の内服が明確なリスクとなっています。

インフルエンザはすっきり治るので、後遺症はほとんど残らない、あとに引きずらない病気です。圧倒的大多数の方は自然に治ってしまうため、割合で考えると死亡率は非常に低いのです。しかし罹患者数があまりに多いので、単純な死亡者数はとても多くなってしまいます(2009年のパンデミックインフルエンザでは200人が亡くなりました)。だからこそ、ワクチンを打つ意味があるのです。

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