【インタビュー】
インフルエンザ-タミフル®の予防投与についての考え方
公開日 2015 年 03 月 13 日 | 更新日 2018 年 02 月 20 日
- インフルエンザ


神戸大学大学院医学研究科 感染治療学分野 教授
岩田 健太郎 先生
インフルエンザが流行する季節…学校や職場など、周囲でインフルエンザにかかる人が出ることはよくあります。そんなとき、タミフル®の予防投与が話題にのぼります。本当に予防投与は効果があるのでしょうか?リスクはないのでしょうか?神戸大学感染治療学教授の岩田健太郎先生にお聞きしました。
タミフル®の予防投与には効果がある?
タミフル®の予防投与には、インフルエンザ感染症を防ぐ効果があると考えられます。そのほか、リレンザ®も用いることがあります。イナビル®、ラピアクタ®については予防投与に用いることはありません。
タミフル®の予防投与、どれくらいの期間飲めるの?
通常の予防投与は10日間です。透析センターなどであればもう少し長く飲む場合もあります。しかし、どれくらい長く飲めるかというのは実は定説がありません。何日間なら安全に飲めるというデータは不十分なのが現状です。ただ、おそらく何カ月も飲む薬ではないと思います。
タミフル®の予防投与をするときは?
「予防投与をするべきとき」は一概には言えず、ケースバイケースです。もちろん、周囲や家族がインフルエンザになった時に限定すべきだというのは間違いありません。
はっきりと予防投与をした方が良いのは、病棟でインフルエンザ感染症が発生(アウトブレイク)したときです。このようなときは病棟の患者や看護師さんなどのスタッフにタミフル®を予防的に飲んでもらうことがあります。
そのほか、どうしてもインフルエンザになりたくない時には予防的にタミフル®を飲むのもひとつの手段としてはありえます。先日娘がインフルエンザになったとき、自分自身はどうしても休めなかったため、タミフル®を飲みました。
例えば、受験前に家族がインフルエンザにかかってしまったとします。そのようなとき、タミフル®を飲むというのは一つの選択肢としてありえます。「今はどうしてもインフルエンザにかかりたくない」人にはタミフル®の予防投与をすることにも価値があります。「どうしても」の度合いによって予防投与の価値は異なると考えるべきです。
タミフル®の予防投与、リスクは?
タミフル®は中枢神経の副作用があるかもしれないというのは一つの事実です。世の中には100%安全な薬はありません。タミフル®を飲んだ子どもがビルから飛び降りたという事件もありました。ただし、これはインフルエンザ脳症のせいかもしれません。さきほどの受験の話で言えば、タミフル®の中枢神経系への影響が受験のパフォーマンスに影響を及ぼすリスクもあります。
インフルエンザとタミフル®のリスク、ベネフィットを良く考えながら飲むことが大切です。世の中すべてが薬害だという考え方はよくないし、それと言ってインフルエンザ感染症を無視するのも良くないです。
基本的にはインフルエンザは短期決戦型でスカッと症状が出て、スカッと治ってしまう病気であり、かかってもほとんどの人は回復してしまうような病気です。タミフル®を飲むリスクを考えて、かかってしまう可能性を残すというのも一つの選択肢なのです。
記事1:インフルエンザとはどんな病気?―インフルエンザウイルスの有無を議論することには意味がない
記事2:インフルエンザワクチンの効果と副作用
記事3:お風呂に入っても大丈夫?―インフルエンザワクチンを打った後に気になる3つの疑問
記事4:インフルエンザワクチンを打つべき人とは
記事5:インフルエンザの予防接種ーいつどんな病院で受ける?
記事6:インフルエンザの治療―抗インフルエンザ薬は症状改善を1日早める
記事7:インフルエンザ-タミフル®の予防投与についての考え方
記事8:インフルエンザの検査とは 検査なしでも診断書はもらえる
記事9:インフルエンザの予防について
記事10:インターネット上の医療情報についての考え方―医療における「正しさ」は難しい
記事11:高病原性鳥インフルエンザ:H5N1型について
記事12:インフルエンザの基礎知識
記事13:インフルエンザの治療法 安静と睡眠が治療に大切
記事14:インフルエンザの治療―4つの抗インフルエンザ薬に対する考え方
記事15:インフルエンザの治療-漢方薬について

神戸大学大学院医学研究科 感染治療学分野 教授
岩田 健太郎 先生
日本の感染症診療の第一人者およびオピニオンリーダー。医学だけでなく哲学から社会科学まで幅広い分野において造詣が深く、多くの著作で知られる。臨床医としては「臨床とは常に正解があるものではなく、ケースバイケースでありさまざまな選択肢を持ちながら一人一人それぞれにあった治療を考える」姿勢で、科学者としては「常にフェアな立場でさまざまな事象をみる」姿勢で医学と向き合い続けている。
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