がんと診断された方へ。がん治療のスペシャリストである腫瘍内科医の渡邊清高先生からのメッセージを6回に分けてお届けします。part3では、“腫瘍内科”という科についてお伝えします。
これまでの医療では、胃がんであれば消化器科、肺がんであれば呼吸器科など、病気ができる場所に応じて、治療を行う診療科が分かれていることが一般的でした。それは、病気ができる臓器の種類に特化する形で、診断や治療に関する研究や治療法の開発がなされてきたことが背景にあります。
しかし、研究が進歩していくなかで、“どうしてがんが発生するのか”、“治療がどのように効くのか”など、がんの発生や進行のメカニズムを詳しく知ることで、治療の標的がわかるようになり、その標的に特化した治療薬が開発されるようになりました。すると、例えば「乳がんに効く薬が、胃がんにも効く場合がある」ということなど、複数の臓器に共通して効果がある抗がん剤があることが分かってきたのです。
同じように、副作用をはじめとする治療に伴う合併症への対応も、総合的に全身の状態を評価しながらきめ細かく行うことが求められるようになってきました。
そこで、臓器別に特化するかたちではなく、がんの病気のメカニズムや治療の方法、副作用の管理などで専門的な知識や技術を磨いて、がんをトータルで診ることができる診療科として、腫瘍内科が誕生しました。
がんの3大治療として、手術、放射線治療に加え、薬物療法があります。外科医による手術、放射線治療医が行う放射線治療の特性を活かしながら、効果的に抗がん剤による薬物療法を安全に実施していくことが腫瘍内科の役割といえます。
さらに、腫瘍内科医は、内科を専門とする医師として、がん患者さんの病気の状態や全身の状態、ご本人の悩みや不安と向き合いながら、最も適した医療を提案したり、さまざまな専門医や専門職種と連携しながら治療を行ったりしていく、いわば「がん医療のコーディネート役」ということができるでしょう。
腫瘍内科があることで、外科医は手術を主体とした外科治療に専念できるなど、それぞれの診療科の特性を発揮することができます。こうした動きは治療だけに限りません。治療やリハビリテーション、療養の時期など、それぞれの医師や看護師、薬剤師をはじめとする医療職種の専門性を生かした「チーム医療」が行われることが一般的になってきています。
さらに、現在日本では世界に例を見ない規模で高齢化が急速に進んでいます。人口の高齢化に伴いがん患者さんが増加することが見込まれていることに加えて、高齢者は、がん以外にも、臓器の機能低下や、脳卒中(のうそっちゅう)や認知症など、何らかの病気を併せ持っている場合が多いのです。
その場合、一つ一つの病気に特化した診療では治療がなかなか難しいことがあります。身体的、精神的な側面に加え、社会的な背景を含め、包括的に患者さんの課題を評価し、どのような治療やケアが必要か、腫瘍内科医が、今後の見通しを立て、患者さんに日々向き合いながらベストの医療を実践していくことが大切なのです。
帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授
帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 教授
日本内科学会 総合内科専門医・認定医日本消化器病学会 消化器病専門医日本肝臓学会 肝臓専門医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医日本癌治療学会 会員日本緩和医療学会 会員日本がんサポーティブケア学会 理事日本ヘルスコミュニケーション学会 代議員
患者さんとご家族、地域の視点でがんを診る。
日本人の2人に1人が一生のうちにかかる「がん」。がんの診療、臨床研究とともに、研修教育に携わる。がん対策の取り組みの一環として医療に関する信頼できる情報の発信と、現場と地域のニーズに応じた普及の取り組みを実践している。
渡邊 清高 先生の所属医療機関
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