蘇生後脳症(低酸素脳症)は心肺停止から回復した患者さんにとって、もっとも重篤な合併症の1つです。近年、心肺停止の蘇生率が上がると共に、本症にかかる患者さんが増えています。今回は「蘇生後脳症(低酸素脳症)とはどのような病気なのか」について、ハーバード大学医学部外科学講座研究員の近藤豊先生にお話頂きました。
蘇生後脳症は、心肺停止の蘇生後に生じる脳の損傷のことをいいます。通常、病院の外で心肺停止になった患者さんの心拍が再開したとしても、約7割がこの蘇生後脳症で命を落とすといわれています。また、そうならなかった場合でも脳に障害が残り、寝たきりの状態になることも少なくありません。そのため、蘇生後脳症を防ぐことはとても重要となります。
心筋梗塞や重症の不整脈では心臓が止まることがあります。そのような状態に落ち入ると血流が途絶えるため、脳に十分な酸素が行かなくなります。そのため低酸素脳症を生じることとなります。またその後、心臓が動き出したとしても、すでに脳の細胞が酸素不足で死んでしまっている場合、低酸素脳症は避けられません。
*なお、ここでは低酸素の問題だけを述べましたが、近年の研究では蘇生後脳症の主な原因は虚血・再灌流障害だとされており、低酸素だけが問題ではないことも指摘されています。
蘇生後脳症では様々な症状をあらわします。軽度なものでは認知機能の障害など、重度なものになると昏睡状態、手足の麻痺、痙攣などが出現し、ここまで障害されると社会復帰は難しくなります。
しかしながら、脳は時間が立てばある程度回復することもわかっているため、昏睡状態だからといって即座に社会復帰が望めなくなるわけではありません。心肺停止後3日以内に脳の今後の状態を予測することはとても難しいとされています。また、長い時間をかけて症状が良くなる方もいます。特に小児や若年者では、高齢者に比べで脳機能の改善が期待出来ます。昏睡状態になってしまっても、あきらめないことが大事です。
検査としては一般的に頭部CT検査、頭部MRI検査、脳波検査などを施行します。現在のところ、蘇生後脳症の確立された診断基準はありませんので、各検査と臨床症状から総合的に蘇生後脳症と診断されることになります。
なお近年では、重度の蘇生後脳症となった方で、なおかつ医師により「脳死」の状態の可能性が高いと判断され、本人や家族の臓器移植の意向があれば、法的脳死判定を施行することがあります。法的脳死判定では、血圧、瞳孔の大きさ、脳幹反射、自発呼吸の有無などを確認することになります。
血圧や呼吸などの全身状態の管理を行うとともに、脳浮腫があれば脳圧を下げる治療を施行します。とりわけ低体温療法(『低体温療法とは』を参照)は蘇生後脳症に対して有効性が高い治療とされています。
経過は個人により様々で、良くなる方もそうでない方もいます。しかしながら脳に障害を負った時点で厳しい経過となることも多いのが現状です。
心肺停止の患者さんを目撃した場合には、すぐに救急車を呼ぶとともに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行うようにしましょう(詳細は『一般の方にもできる蘇生法、BLSとは』)。胸骨圧迫には脳へ血流を送り低酸素脳症を防ぐという目的もあります。もちろんAEDを使用して心拍を再開させることも重要です。このために記事1で述べた、BLSがとても大切となってきます。