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インタビュー

交通事故のリスクとは。シートベルトをしっかりと着用して―意外と知らない交通事故のこと(2)

交通事故のリスクとは。シートベルトをしっかりと着用して―意外と知らない交通事故のこと(2)
近藤 豊 先生

順天堂大学大学院医学研究科 救急災害医学講座 准教授

近藤 豊 先生

日本の交通事故による死傷者数は1年間でおよそ72万人(警察庁調べ。平成26年度統計)であり多くの人が遭遇するにも関わらず、意外にも交通事故に遭ったらどうしたら良いか知らない方も多いのではないでしょうか。交通事故では自分だけでなく、友人や家族はもちろん、時には面識のない人とも関わるため状況が複雑になるのが特徴です。また相手が重篤な状態になれば蘇生行為や救急搬送等の迅速な対応も要求されます。そのため交通事故のことをきちんと理解しておく必要があります。

ここでは交通事故のリスクについてよく理解しておきましょう。
2014年の日本外傷データバンクの報告(2009年から2013年まで)によれば、すべての外傷における交通事故の割合は全患者のうち36.2%を占め、外傷の原因として最多となっています。続いて転倒が24.4%、墜落・転落が20.3%となっており、この3つが外傷の原因の大部分を占めることになります。

また、この交通外傷の種類は、四輪車(車)・自動二輪車(バイク)・二輪車(自転車)・歩行者に分けられます。車の受傷者は20代と60代が最も多く、バイクは10代後半〜30歳くらいまで、自転車は10歳〜20代前半と60歳〜80歳くらい、歩行者は5歳〜10代前半と60歳以上で多くなっています。バイクを除いた受傷機転(外傷を負ってしまった原因と経緯)ではその受傷者数が二峰性の分布を示しています。つまり活動性の高い若い世代と、活動性が低下した高齢層の世代が交通事故を起こしてしまうのです。

ただし、高齢になってからバイクに乗る方はほとんどいませんので、バイクのみ単峰性となっています。また高齢者は受傷者数のみならず、その死亡率も非常に高いのが特徴です。寝たきりの原因となることもしばしば見かけられます。十分に注意しましょう。

救急車を必ず呼ぶべき症状としては、大量の出血・意識レベルの低下・歩行不可能・顔面蒼白・痙攣などがあります。その他の微細な症状に関しては総合的に判断するしかありません。また、全く無症状であれば基本的に救急車を呼ぶ必要はありません。

しかしながら、救急車を呼ぶほど緊急性がない場合でも、多くの場合はご自身で医療機関を受診する必要があります。なぜなら、警察から事故後に診断書を求められることが多いためです。また時間が経つとともに症状が悪化する場合もありますので、事故当日に医療機関を受診しておくことが望ましいです。

身体への危険性は受傷した部位で一律に決まるわけでなく、受傷した部位に発症した疾患次第で危険性が決まります。つまり「頭を打った=危険」というわけではありません。

頭部では最も軽症の「頭部打撲」から「脳震盪」「脳挫傷」「外傷性クモ膜下出血」「びまん性軸索損傷」「急性硬膜下血腫」「急性硬膜外血腫」「頭蓋骨骨折」など様々な疾患があります。このうち、急性硬膜下血腫や急性硬膜外血腫等は非常に危険な疾患です。いずれの疾患を合併するかで危険性が決まると言えます。そのため、早期に病院で診断してもらうことが非常に重要です。

たとえば、頭部打撲の場合には、通常は入院の必要はありません。しかし脳震盪の場合、症状が強いケースであれば入院が必要となります。脳震盪の症状としては、頭痛・吐気・嘔吐・健忘(ものを忘れてしまう)・痙攣などがあります。また脳挫傷・外傷性クモ膜下出血・びまん性軸索損傷・急性硬膜下血腫・急性硬膜外血腫・頭蓋骨骨折では基本的に入院となります。場合によっては緊急手術となることもあります。ちなみに、交通事故で最も多い受傷部位は頭頚部です。

参考記事:志賀隆先生「『頭を打ったとき』どう対処する?―大人の場合

次に頚部の話をします。頸部では「むち打ち」という言葉をよく耳にすると思いますが、正式な病名をご存知でしょうか? 医学用語で「むち打ち」のことを「頚椎捻挫(けいついねんざ)」もしくは「外傷性頚部症候群」などと呼びます。「むち打ち」とは俗語であり、自動車の衝突や急な停車等によって首が鞭のようにしなって受傷するためにそう呼ばれています。首の痛み・肩こり・可動域制限のような局所の症状から、吐き気・耳鳴り・めまいなどの自律神経症状が現れることもあり多彩な症状を示します。そのうえ症状の持続時間も個人差があります。

また、自分が受傷していないと思っている部位の検査が行われることがあります。たとえば、頭部をぶつけたのに病院で胸部や腹部の超音波検査を行われるなどです。時として患者さんは「こんな検査いらないのに」と感じることがあるかもしれません。しかしながら、頭部外傷の患者が胸腹部外傷を合併していた場合は見逃されやすく、また重篤になりやすいことがあらかじめわかっています。つまり本人に外傷の自覚のない部位が損傷していることがしばしばあるのです。

そのため、医師が必要と判断する状況であれば、様々な検査が行われることになります。また意識レベルの低下や、血圧が低い場合には重篤な損傷を合併している可能性があるので要注意です。

シートベルトを装着することにより、「車外に放り出される」「頭部や全身を強打する」「他の同乗者との接触を防ぐ」の3つを予防することができます。一般に自動車乗車中のシートベルト非装着者は、装着者より死亡率が15倍高いといわれています(警察庁による)。ですからシートベルトの装着は必須と言えます。

しかし、シートベルトを適切に装着していなかったため受傷する「シートベルト損傷」と呼ばれる外傷も認められます。通常であれば腰のベルトは骨盤を巻くように装着する必要がありますが、ベルトの位置が高くなってしまうと腸管破裂、腸管損傷・膵損傷・横隔膜損傷・椎体骨折(Chance骨折と呼びます)などを起こすことがあります。また肩ベルトによる頸動脈損傷や鎖骨骨折もあります。これらはシートベルトの不適切な使用により合併しますので、きちんと装着するように心がけましょう。また運転手席や助手席のみならず、後部座席でもシートベルトをきちんと装着することも重要です。

シートベルトの正しい着用法

シートベルトの正しい着用法

*「命を守るシートベルト~全ての座席で着用しましょう~」警察庁より引用)