BLS(一次救命処置)は一般の方にも出来る治療法ですが、より高度な治療に「ECPR(体外循環式心肺蘇生法)」というものがあり、近年注目を浴びています。この項では「ECPR(体外循環式心肺蘇生法)とは」ついて、ハーバード大学医学部外科学講座研究員の近藤豊先生にお話頂きました。
ECPRとは国際的にも注目されている新しい治療法で、体外循環式の人工心肺装置を用いた心肺蘇生法のことをいいます。
人工心肺装置は、何らかの原因で心臓が動かなくなった場合、一時的に心臓と肺の代わりをします。その間に心臓や肺の治療を行って、容態が良くなったら人工心肺装置から離脱するというわけです。
具体例を挙げると、心筋梗塞の患者さんが心肺停止になり、通常の治療に抵抗性のある(通常の治療が効果的ではない)場合、ECPRで心臓カテーテル治療を実施してから人工心肺装置を外すというものがあります。
近年ドクターカーやドクターヘリが救命率を向上させているのは、このECPRを患者さんに対して速く実施出来るということが一因だと考えられます。
ECPRは、心肺停止の患者さんが対象となります。しかしながら心肺停止の患者さん全員がECPRの対象となるわけではありません。基本的には心臓や脳機能の回復見込みがある方のみとなります。ECPRの対象となる例は以下のとおりです。
適応基準 |
除外基準 |
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ECPRの対象となりうる疾患としては心筋梗塞、心筋炎、肺血栓塞栓症、重症不整脈(除細動に抵抗性のある心室細動など)、偶発性低体温症などが挙げられます。
一般的には大腿動静脈もしくは内頚静脈経由にカテーテルを挿入し、遠心ポンプと膜型人工肺を用いた閉鎖回路での体外式人工心肺装置を用います。
上記の装置を患者さんに取り付けます。この遠心ポンプ(画像下部)を回転させることで血液を装置に送り、人工肺(画像上部)を経由させることで血液が酸素化された血液へと変化します。その名の通り人工物ですが、血液が人工物に触れると血栓を作りやすくなるため、ヘパリンと呼ばれる薬剤を併用するのが一般的です。また、装置回路内ぶんの血液が必要となるため、多くの場合輸血を実施することになります。なお、ECPR中は患者さんの心臓や呼吸が止まっても生命の維持が可能となります。
ECPR中に起こりうる合併症として最も多いのは凝固異常で、具体的にはヘパリンの使用による出血傾向と人工物と接触したために起こる血栓傾向等があります。
ECPRでは、両者のバランスを取ることが非常に困難です。特に、カテーテルを挿している部位から出血しやすくなります。また貧血も起こしやすくなりますが、この原因としては人工物との接触やポンプの機械的圧力による溶血(赤血球の破壊)、感染症の増加、下肢虚血、末梢循環不全などが挙げられます。
ECPRは、通常の蘇生では救命できない患者さんの救命を可能にします。特に有効性が高い疾患は心筋炎です。心筋炎は若い方に多く、ほとんどが一時的な心機能の低下によるものなので、心筋炎の患者さんに関していえば予後(治療後の経過)は他の疾患に比べて良いといえます。
しかしながら、心肺停止の状態で、その中でもECPRを実施しないと救命出来ない患者さんというのは、そもそも重症な方を指します。そのため、ECRP適用患者全体として見てみると、予後は決して良いものとはいえません。今後の救命救急医療のさらなる発展が期待されます。