近年、がんの手術法のひとつとして「腹腔鏡手術」が広まっています。傷が小さい・痛みが少ないといわれている腹腔鏡手術ですが、「それらは真のメリットではない」とがん研有明病院 婦人科医長の金尾祐之先生はおっしゃいます。本記事では、婦人科における腹腔鏡手術のメリット・デメリットについてご説明いただきました。
腹腔鏡は、お腹の中をみる内視鏡のことです。その腹腔鏡を使用する手術を腹腔鏡手術といいます。腹腔鏡手術では、5mm〜1cmの小さな穴を下腹部に3〜4カ所あけて、その穴から器具を入れて手術を行います。腹腔鏡手術は、数ある診療科のなかで、婦人科で最もはやく導入されました。はじめは、不妊治療の検査で用いられていました。その後、腹腔鏡の極めて細かい操作ができる点や拡大視できる点などが、がん治療において非常に有効であるとされ、現在では大腸がんや胃がんなど、他のがんでも広く用いられるようになってきています。
腹腔鏡手術の婦人科悪性腫瘍(がん)に対しての導入が不妊関連(子宮内膜症・子宮筋腫・卵巣嚢腫・子宮外妊娠など)よりも遅れた要因には、一般的にがんの手術の難易度が高いということが挙げられます。しかしそのほかにも、腹腔鏡手術の専門医(日本産科婦人科内視鏡学会)と婦人科悪性腫瘍の専門医(日本婦人科腫瘍学会)とがそれぞれ独立していたため、婦人科悪性腫瘍の専門医にはなかなか広がらなかったということも考えられます。
しかし先述したとおり、近年は腹腔鏡手術ががんに有用であると示されつつあり、活躍の場が広がっています。ですから、今後も婦人科領域においても腹腔鏡手術が行われる機会が増えていくと考えています。
腹腔鏡手術が非常に有用とされるのは、女性の骨盤のような非常に狭い領域での手術です。骨盤は非常に狭いため成人の男性の手はなかなか入りませんし、骨盤の奥のほうは肉眼でみることができません。しかし腹腔鏡手術であれば、狭くて深い領域をカメラで自由自在にみることが可能ですし、細かい作業を行うことができます。
主な腹腔鏡手術のメリットは次のとおりです。
一方、デメリットは次の2点が挙げられます。
*先進医療:厚生労働大臣が認めた先進的で高度な医療。先進医療の技術料は全額自己負担になる。
腹腔鏡手術のメリットとしてよく取り上げられるものに、「傷が小さい・痛みが少ない」などがあります。しかし、腹腔鏡手術の真のメリットは、1〜3であると考えています。がん治療においてはがんをしっかりと治すことが第一です。開腹手術では届かない領域のがんが切除できたり、肉眼よりもがんが確認しやすいため取り残しが少なくなるというような、正確で安全な手術が行えることが腹腔鏡手術における重要なメリットです。
がんが治るのであれば、もちろん傷が小さいに越したことはありません。しかし、傷が小さい・痛みが少ないというメリットで腹腔鏡手術が選択されるのではなく、がんをしっかりと治療するためには腹腔鏡手術・開腹手術どちらがよいのかをしっかりと考え選択される必要があるのです。
がん研有明病院 婦人科 部長
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