インタビュー

脂質異常症の運動療法とモチベーションの維持

脂質異常症の運動療法とモチベーションの維持
岸本 美也子 先生

山王病院・国際医療福祉大学 内科部長 (糖尿病・代謝)・ 国際医療福祉大学 講師

岸本 美也子 先生

この記事の最終更新は2016年03月08日です。

脂質異常症の治療は生活習慣の改善が基本となります。しかし、運動習慣のない方が効果的に運動を続けていくことは簡単ではありません。運動療法のポイントや、モチベーションを落とさず治療に取り組んでいただくための工夫について、山王病院内科部長の岸本美也子先生にお話をうかがいました。

そのうえで運動療法には次のような効果が期待できます。

  • 体力の維持・増強
  • 動脈硬化性疾患やメタボリック・シンドロームの予防・治療効果
  • HDLコレステロールを増やし、トリグリセリド(中性脂肪)を減らす
  • インスリン感受性を高める
  • ストレスを解消
  • 骨密度増大
  • 脳の活性化
  • 心肺機能の向上
  • QOLの改善

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では、運動は有酸素運動を主体とし、1日に30分以上(できれば毎日)または週に180分以上行うことを目標としています。持続的な運動が困難な場合は散歩程度の軽度の運動でも、回数を多く行うことで治療効果が期待できます。

 

速歩の理想的なフォーム
速歩の理想的なフォーム 健康づくりのための運動指針2006 ~生活習慣病予防のために~ <エクササイズガイド2006>より引用

 

脂質代謝の改善には有酸素運動が有効です。特に大腿筋(だいたいきん)や大臀筋(だいでんきん)などの大きな筋肉をダイナミックに動かすと効果が高く、速歩(早歩き)・水泳・水中歩行・ラジオ体操・社交ダンス・ベンチステップ運動などがすすめられます。高齢の方は日常生活の中での身体活動を増加させるようにします。室内で座ったまま行える軽い筋力トレーニングをすることも有効です。

食事や運動に気をつけて生活習慣の改善をはかっても、なかなか結果が数値として現れないという方もいらっしゃいます。日頃から明らかに食べすぎの方が食事を減らすことは差し支えありませんが、それほどでもないという方が極端にカロリー制限をしてしまうと、体がエネルギー不足で危機感を覚えて、自己防衛のために体内でコレステロールを合成します。その結果、コレステロール値が下がらず、むしろ少し上がるということが起こる場合があります。

このような患者さんの場合には、体の仕組みを理解して生活改善のモチベーションを落とさないようにしていただくとともに、コレステロールの合成を抑える薬(スタチン)や、コレステロールの取り込みを抑える薬(小腸コレステロールトランスポーター阻害薬)をうまく組み合わせてコントロールしていくことも考慮します。(関連記事「脂質異常症の薬物治療と注意点」参照)

病院で医師に言われたからという受け身の姿勢では、やはり治療も長続きしません。治療をしないとどうなるのか、そうなっては困るということをご自身が納得して、自分の体をどういう状態に持っていかなければならないかを自覚していただくことが必要です。

そうすることで自分自身にどんな「いいこと」があるのか、なりたい自分をイメージしていただきます。元気で仕事を頑張りたい、子どもが成人するまで健康でいたいなどのイメージ、目標をもって頑張っていただくということです。その際、家族や友人など周囲の方と励まし合い、サポートしてもらうことも必要です。

「ウエストがきつくて履けなかったスカートが、履けるようになった」「同僚の女性からスリムになったと褒められた」「今まで息切れしていた階段の昇り降りが苦にならなくなった」など、日々の生活の中での達成感を自分へのご褒美として、ぜひ私たちと一緒に励んでいただきたいと考えています。

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