皆さんは人間ドックなどの検診を1年に何回受けていますか。また、それは病気の予防や早期発見のために十分な回数なのでしょうか。本記事では、予防医学を推進する「長寿・健康人生推進センター」の検診の特徴や、日常生活で心掛けたい「長生きの秘訣」について、東京医科歯科大学学長(2016年当時)の吉澤靖之先生と、長寿・健康人生推進センター・センター長の石川欽也先生にお話しいただきました。
(右)東京医科歯科大学 学長 吉澤靖之先生
(左)長寿・健康人生推進センター センター長 石川欽也先生
東京医科歯科大学「長寿・健康人生推進センター」では、記事1でご紹介した「健康管理ゲノム情報の提供」(疾患予防のためのプログラム・遺伝子検査・生活習慣指導と経過観察など)のほかに、次のような検診を行っています。
※ご要望に応じてアレンジしています。
石川先生:長寿・健康人生推進センターの様々な検診の中でも、特に力を注いでいるのは消化管の内視鏡検査です。当センターの副センター長(※消化器内科 荒木昭博先生)は内視鏡による診断と治療を専門としており、受診者の方それぞれに最適な内視鏡プランを作成し、最高水準の検査を行うことが可能です。
検査室の向いにお手洗い付きの個室を設けているのも、ホスピタリティを重視する当センターならではの特徴です。通常、大腸の内視鏡検査を行う際には、事前にお手洗いに行って準備をする必要がありますが、個室でゆとりをもって準備していただき、受診者の方のタイミングでスムーズに検査室へと移動できるため、心身の負担は軽減できていると感じています。
石川先生:「歯科ドック」も、歯学部附属病院を持つ東京医科歯科大学ならではの検診といえます。歯の健康は食事や活動にも大いに影響するため、全身の健康を維持するために欠かせません。そこで、医学部附属病院のフロア内にレントゲン撮影などの歯科診療をできる部屋を用意いたしました。このような施設レイアウトの工夫により、他の検診を受けていただく流れの中で、大きな移動や手続きなく歯の検診も受けていただくことが可能になりました。
医学部附属病院を中心としつつ、歯学部附属病院とも密に連携し、大学全体で心を込めてあらゆる医療サービスを提供しようと常に努力をしているところが、長寿・健康人生推進センターの真のアピールポイントといえます。
吉澤学長:施設のレイアウト以外にも、おもてなしの心を重視して様々なサービスを提供しています。通常の人間ドックなどではお一人で様々な検査室を回られることもあると思いますが、当センターの検診では常にご案内スタッフが付き添いますので、不安なくスムーズに様々な検査を受けていただけます。
また、一般的な「病院」のイメージを払拭できるよう、診察券をゴールドカードのようなデザインにし、高級感をプラスしています。
石川先生:長寿・健康人生推進センターは当病棟の16階に位置しているため、受診者の皆様から度々「見晴らしがよい」といった言葉をいただきます。御茶ノ水一帯を超え皇居まで見渡せる展望のよさは、快適に検査を受けていただくことに一役買っているのではないかと、受診者の方々とのやり取りを通して感じています。こういったロケーションも積極的に活かしていこうと考え、離れた階にある診療科の先生による説明が必要なときには、あえて16階に来てもらうよう依頼することもあります。
(16階からの展望 写真提供:東京医科歯科大学医学部附属病院「長寿・健康人生推進センター」)
吉澤学長:長寿・健康人生推進センターの検診は、いわゆる「人間ドック」と一見似ているものの、コンセプトも具体的に実践していることも大きく異なります。当センターでは、受診される方それぞれに応じた「個別化」と、予防から治療までの「一貫性」に重きを置いています。
石川先生:まずは「一貫性」についてお話します。たとえば、一般的な人間ドックで異常が見つかったときには、その異常を専門的にみられる施設に行っていただき、再度詳細な検査を受けることとなります。場合によっては、ドックを受けた施設とは全く異なる病院にいくこともあるでしょう。
こういった不便性を解消すべく、当センターでは検査をして異変をみつけたときには、すぐに当院の専門の診療科に治療予約をとるところまで、一連の流れとして行っています。これが、様々な診療科をもつ総合病院ならではの利点だと考えます。
次に「個別化」についてご説明します。
多くの人間ドックは半日もしくは1日かけて検査を行い、それが終わると皆さん一律に1年などの期間を経て、再び検査を受けることとなります。これとは異なり、当センターでは年に3回~4回と、あえて回数を増やして検査においでいただいています。これは1度目の検診後、受診された方の健康管理がうまくいっているかを確認し、フォローアップさせていただくためです。たとえば、記事1でお話しした食事指導以降の食生活についてお伺いし、必要に応じてサポートやアドバイスをさせていただきます。
また、初回の検診で治療の必要はないものの何らかの小さな異変がみられた場合、2回目の検査でその部分悪化していないかを再確認し、個々人の状況に応じて検査の頻度などを決定していきます。実際に、「次は半年後の受診」となる方もいれば、「1か月後など、より頻繁に受診する必要がある」となる方もおられます。このような個別化が、それぞれの負担を最小限に留めつつ病気を未然に予防し、また、早期発見・早期治療にも繋がるものと考えます。
吉澤学長:病気にならない体を作るためには、適度な運動、食生活の改善、十分な睡眠をとることが大切です。私は呼吸器科の医師ですので上気道感染症(かぜ症候群)についてお話しますが、体の免疫システムの中でも非常に重要な役割を担うNK細胞は、適度な運動によって増えることが科学的根拠をもって示されています。逆に、激しい運動を行うトップアスリートは免疫反応が弱まる方向に働くため、風邪をひきやすくなります。
このほか、適度なストレスを短期間受けることでアドレナリンや副腎皮質ホルモン・コルチゾールが分泌されますので、何もせず余暇を過ごすよりは仕事などをもっていたほうが、かぜなどをひきにくくなるといえます。ですから、病気になりにくい体質を作ることは、科学的な視点からいっても可能でしょう。
吉澤学長:しかしそれ以前に、各人が精神的な「意欲」を持っていなければ、本質的な健康長寿を目指すことはできません。たとえば、ご家族を既に失ってしまった方などの中には、生活習慣を改善してまで長生きしたいという希望が湧きおこってこない方もいることでしょう。
こういった方から「意欲」を引き起こすことは難しいものですが、まずはどんな小さなことでも構いませんので興味関心を刺激される物事を見つけることが重要です。ここでいう意欲とは、「あの映画を見たい」といった小さなことでよいのです。
また、我々医師は、その方の心をうまく刺激し、意欲を起こさせる医学的なアプローチをしていく必要があります。そのため、長寿・健康人生推進センターにも精神科を設けたほうがよいと、設立以前より考えています。体だけでなく心の相談にも乗れるよう、今後更に事業拡大していくことが、本当の意味で快活に生きることをサポートするために欠かせません。
石川先生:やや抽象的になりますが、やはり生き甲斐や生きる情熱を持っており、また未来への不安が少ないことが、長く健康に生きていきたいという思いを呼び起こさせることに繋がると考えます。
お好きなことでよいので、情熱を持てることを探して実践することが、いくつになっても「進歩し続ける」ことに繋がります。
私自身も以前は自宅周辺の散歩を日課にしていましたが、それがやがて小走りになり、今ではランニングにと、小さなステップを積み重ねながら趣味と運動習慣を進歩させることができました。なぜこのような運動を習慣付けられたかというと、住み慣れた家の周りであっても、時間帯や季節によって景色の見え方が違うといった「小さな発見」に楽しみや情熱を見出せたからです。
私は元々は神経内科に勤務しており、日常生活中の小さな楽しみや発見を重要視することはほとんどありませんでした。しかし、当センターのセンター長に就任することとなり、「健康とは何か」という問題に真剣に向き合う機会を得たことで、小さな喜びや意欲を継続的に持つことこそが、健康に長生きをするために最も重要なことなのではないかと考えるに至りました。
日々を生きていくことに対する情熱や意欲がなければ、“そもそもなぜ遺伝子検査をし節制するのか?”といった疑問が生じ、根本が揺らいでしまうことにもなりかねません。
吉澤学長:補足になりますが、石川先生がいう日常生活内での喜びを見つけるためにも、家庭は心地よい居場所でなければならないと考えます。
社会の最小単位は夫婦ですが、近年では夫婦間に起こるハラスメントなどが大きな問題になっています。
生活の基盤となる家庭において抑圧され萎縮してしまっている方が、意欲や情熱を己の中から見出すのは困難でしょう。ですから、家庭(夫婦間)が円満で互いが伸び伸びとした心を持てることも長生きの秘訣であると考えます。ご家庭をお持ちの方は、ぜひ日常生活の中で、お互いの関係性を見直してみてください。
吉澤学長:予防から急性期治療までを当院で受けていた患者さんが、「そろそろ自宅近くで治療を続けていきたい」とお考えになった時に備え、連携病院だけではなく関東圏を中心に開業医を含めたネットワークを作りたいと考えています。
具体的には、東京医科歯科大学のOB・OGで、なおかつ当センターで行う講習を受けて合格した医師のみに絞って連携するのがよいと感じています。これは密な連携を図れるだけでなく、受診者の方に安心して信頼性の高い病院にかかっていただくためです。
また、当センターの取り組みを「見本」とし、全国の各市町村でも同様のシステムを作っていただきたいという目標も持っています。日本の医療費を含む社会保障費は、今やパンク寸前ともいわれています。健康長寿を実現するための当センターのシステムが全国に広がることは、国にとっても個人にとってもよい結果をもたらすものと考えています。
石川先生:このような壮大な目標の実現のために、今は人材育成にも注力すべきときであると考えます。当センターは2016年4月にスタートを切ったばかりですが、プロジェクトが動き出し目に見える形となったことで、院内で興味をもって声をかけてくださるスタッフが日増しに増えています。興味関心を惹く理由の一つには、実際に働いている私たちが、日々初めての経験にぶつかりながらセンターを作り上げる仕事に、楽しさややり甲斐を感じているからではないかと感じています。
現在は医師や看護師、遺伝カウンセラーなどが所属していますが、今後は更に多岐的な専門知識を持った若い方々を増やしていきたいと考えています。
このほか、当院の連携施設と情報交換し合うことも、相互発展のために重要かと感じています。
吉澤学長:また、現在日本の健康・医療分野はIT化が遅れており、膨大なデータが多方面に分散していることで知られていますので、様々な業界とも連携して医療ビッグデータを整備し、活用することも目標としています。
パブリックヘルスに携わる方などにも参画していただき、社会全体で広角的に個人をみられるよう、体制を整えていきたいと考えています。
東京科学大学医学部附属病院 教授 長寿・健康人生推進センター センター長
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。