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インタビュー

包括的心臓リハビリテーションにより生命予後が25%改善する-順天堂大学循環器内科の心臓リハビリテーション外来の実際

包括的心臓リハビリテーションにより生命予後が25%改善する-順天堂大学循環器内科の心臓リハビリテーション外来の実際
代田 浩之 先生

順天堂大学 大学院医学研究科循環器内科学・教授

代田 浩之 先生

「心臓リハビリテーション」は、心臓病や血管疾患を患い、日常生活への復帰に不安を抱える方の回復を促し、再発なく過ごせるよう様々な角度から支援するものです。日本でも有数の「心臓リハビリテーション外来」を持つ順天堂大学循環器内科では、運動療法や生活指導などの「包括的なケア」により、数多くの患者さんのQOL改善に貢献しています。

本記事では、心臓リハビリテーション外来で実施されているケアの詳細と、人口の高齢化や心疾患の若年化が進む日本が抱える課題について、順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学・教授の代田浩之先生にお話しいただきました。

「心臓リハビリテーション」は、循環器疾患をお持ちの患者さんに対し、次の2つの目的を持って行われます。

  1. スムーズな社会復帰
  2. 再発や悪化の予防(2次予防)

これらを達成するために、心血管機能や筋力を回復させる運動療法、再発を防ぐための食事指導や禁煙指導、また、患者さんとそのご家族に対するカウンセリングや講義(後述)などを一人一人の状態に合わせて行います。

このように、身体の機能の回復を目指す運動療法のみならず、食事指導や精神的なケア、生活面のサポートも行う心臓リハビリテーションの在り方を「包括的心臓リハビリテーション」といい、循環器疾患の合併率が増える昨今、その重要性が叫ばれています。

 

会話する医療スタッフ

精神的なケアも含めた包括的な心臓リハビリテーションを行うには、医師だけでなく看護師や理学療法士、栄養士、カウンセラーなど、職種を超えた専門スタッフで構成される医療チームの存在が不可欠です。

しかし、このような条件を揃えた心臓リハビリテーションを提供できる本格的な施設は、全国的にみても多くはありません。

そこで順天堂大学循環器内科では、より多くの方に心臓リハビリテーションを受けていただけるよう、約6年前の平成22年9月に「心臓リハビリテーション外来」を開設しました。心臓リハビリテーション外来を担うチームは、医師や看護師、健康運動指導士、フィジカルセラピスト、栄養士などで構成されています。

心臓リハビリテーションの対象は、急性心筋梗塞狭心症、開心術(冠動脈バイパス術や心臓弁膜手術)後、慢性心不全、大血管疾患(胸腹部動脈瘤術後など)、閉塞性動脈硬化症と診断されて治療中の患者さんなどです。

このように対象疾患が多岐にわたるだけでなく、患者さんの年齢層も非常に広いものとなっています。

循環器疾患は高齢の方に多いため、必然的に割合としては高齢者が多くなりますが、学校や職場への復帰のためにリハビリテーション外来を活用されている若年層の方も多々いらっしゃいます。社会生活や日常生活への復帰に不安や支障を抱える全ての患者さんを支える役目を担うのが、心臓リハビリテーション外来の役目であると考えます。

順天堂医院ハートセンター(心血管病の診療科がひとつになったセンター)に入院された患者さんの場合、急性期をみるCCUの中から心臓リハビリテーションを開始します。一般病棟に戻ると心臓リハビリテーション室でストレッチ体操など強度が低い運動療法が開始されます。

その後、定期的な検査を行い、患者さんの病状や体力に合わせて、ウォーキングや自転車(エルゴメーター)などを使用し、少しずつ運動強度を上げていきます。

外来から初めて心臓リハビリテーションを開始する患者さんに対しても、同様に検査を行い、一人一人に適した運動強度を見極めて運動処方を行っています。

心臓リハビリテーション外来では適切な運動処方のために「心肺運動負荷試験」を行い、患者さんそれぞれの運動耐容能を確認します。

これを行うことによって最も効果的で適切な運動強度を確認することができるため心肺負荷試験は運動療法を行う上で最も重要な検査のひとつともいえます。

たとえば、ご本人が適度な強度を超えて運動しすぎてしまうと、不整脈心不全を誘発するといった事態にも繋がりかねません。

運動療法において大切なことは、「適切な強度で適度に続けること」です。

そのため、当院ではリハビリテーションの開始前と終了時に、酸素の摂取量を測定しながら自転車をこぐ「エルゴメーター心肺運動負荷試験」という試験を実施しています。

また、運動中は心電図記録をモニタリングし、患者さんの状態に変化がないか十分に配慮しています。

 

心臓リハビリテーション外来の設備
順天堂大学循環器内科の心臓リハビリテーション外来の様子 画像提供:代田浩之先生

 

クロスウォーキング等の機械
クロスウォーキング等の機械が揃っている 画像提供:代田浩之先生

 

当院の心臓リハビリテーション外来の特徴は、敷地が広く、施設内に広いウォーキングトラックや、クロスウォーキング等の機械が揃っていることです。このような大型の施設は全国的にも珍しいものです。

また、順天堂大学にはスポーツ健康科学部があり、運動生理学などの基礎知識をしっかりと学んだ卒業生が健康運動指導士として患者さんをみていることも、大きな強みといえます。

また、当院は2015年7月にセントラルスポーツ株式会社との包括連携協定を結んでおり、上記スポーツジムのトレーナーに外来へ来ていただいて勉強会を開くなど、情報交換にも力を入れています。

運動療法の理想的な頻度は週3~4回ですが、立地的な問題もあり、外来に週に何度も来られる患者さんはそう多くはありません。このような方には、週に1回来ていただき、その後はご自宅やお近のスポーツジムで運動を続けていただくよう指導しています。

このとき、ご自身で適切な運動療法を実践するためにも、先に述べた心肺運動負荷試験による運動処方は非常に重要になります。

運動処方を通し、ご自分の安全域を体で覚えていただくことで、外来を離れたときにも適度な運動強度の範囲を超えず運動ができるというわけです。

このほか、スポーツジムに対し、患者さんにとって適切な運動強度を明記した紹介状を書くこともあります。

ここまでは運動療法について記しましたが、包括的心臓リハビリテーションとは、運動療法だけでなく生活指導、ストレスマネジメント、コンサルテーションなど、患者さんとご家族の心身および生活のケア全てを含む総合的なものです。

当外来では栄養士が栄養指導を行っているほか、呼吸器内科の禁煙外来を担当している専門スタッフが禁煙指導を行っています。(※必要に応じて禁煙外来へ紹介となる場合もあります。)

また、リハビリテーションを行う患者さんの精神面をサポートするカウンセリングも極めて重要です。

このように、「極めて重要な要素」が多々存在するために、「“包括的”心臓リハビリテーション」という言葉で捉えていただくとわかりやすいでしょう。

 

心肺蘇生(マッサージ)の練習

リハビリテーションにおいては、患者さんのご家族に「一緒に戦う姿勢」になっていただくことも非常に重要になります。ご家族には、特に次の2つのことが求められます。

  1. 患者さんを励まし、意欲を促してもらうこと
  2. 患者さんの急変に備え、心肺蘇生法を学んでもらうこと

心臓リハビリテーションに限らず、循環器疾患を持つ患者さんのご家族には、(2)の心肺蘇生法の知識を持っていただくこと、とりわけマッサージ法を覚えていただくことが大切です。

当外来でもご家族向けの講座を開き、勉強していただく機会を設けています。

近年では急性期の治療成績が向上し、早期に社会復帰される方が増えたため、包括的心臓リハビリテーションの目的として、「慢性期における再発予防」がより重要視されるようになっています。この流れは、今後益々加速することでしょう。

運動療法と生活指導により生活の質を改善することで、動脈硬化の進行を防ぎ、循環器疾患の再発や悪化を予防することが可能になります。これまでの研究成果によると、包括的心臓リハビリテーションにより、生命予後が約25%改善したという報告がなされています。

心臓リハビリテーションという概念は、1950~60年代頃には既に存在しました。ただし、当初は心筋梗塞の後1か月程度の長い「安静臥床」を要していたため、リハビリテーションの目的は、長期臥床により落ちた運動耐容能を回復させることにありました。

この考え方が医療の歴史と共に変化し、現在では早期離床しリハビリを開始することで患者さんのQOLを高め、慢性期まで続けることで生命予後の改善を目指すというものに行きついたのです。

当院の包括的心臓リハビリテーション外来に通われていた患者さんにも、実際にQOLが明らかに改善された方が多数おられます。

たとえば、他院にて治療の手立てがないといわれ、絶望的な面持ちで来院された拡張型心筋症の患者さんが、大変にこやかな表情で日常生活に戻っていかれたこともあります。

このように、包括的心臓リハビリテーションは心機能や身体機能のみならず、その方の精神や生活に大いに役立つものと考えます。

これからの包括的心臓リハビリテーションは、2つの視点から考える必要があります。

ひとつは、高齢化に伴い増加をみせる「フレイル(Frailty、虚弱という言葉の派生語)」の筋力や心身の活動の低下を回復させるためのリハビリテーション、もうひとつは、生活習慣病の危険因子が増加したことにより増える若い方の循環器疾患に対するリハビリテーション、この2つの課題にどう応えていくかがこれからの私たちの役割となります。

フレイルの高齢者に対しては、状態の悪化を予防し、筋肉をつけるベッドサイドリハビリテーションが有用になるでしょう。ただし、フレイルとは筋量が少なくなっている状態を指すため、骨折のリスクが高いという問題を抱えています。このような方々の心身の機能をどう戻していくか、私たちリハビリテーションに携わる者は考えていかねばなりません。

一方、40代、50代といった若い方は、社会的活動に従事されているため、外来に度々通うことは難しくなります。しかしながら、このような患者さんの多くはもともとヘルスケアに対する意識が十分ではないという傾向があります。こういった若手の方々をどのようにして有効性の高いリハビリテーションの世界に導くか、こちらも同時に検討する必要があります。

 

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