乾癬にはいくつかのタイプが存在しますが、そのなかでも非常にまれで特殊な病態に「膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)」というものがあります。膿疱性乾癬では、一般的な乾癬にみられる赤い皮疹(紅斑)や銀白色の皮膚の粉(鱗屑)といった症状にくわえ、膿の腫れもの(膿疱)が多数あらわれるという特徴があります。
膿疱性乾癬は軽症~重症まで症状に幅があり、重症な方では発熱や脱水症状に加え、全身にさまざまな症状があらわれ、ぐったりとしてしまうこともあります。さらに症状は一度おさまったとしても、突然再発することもあり、いつ症状があらわれるかという不安を抱える患者さんもいらっしゃいます。
しかし近年新しい薬剤が登場したことで、症状は大幅に改善され、再発も大きく抑制できるようになってきました。膿疱性乾癬の治療はどのように変わってきたのか、膿疱性乾癬の診断についても踏まえながら、記事1に引き続き福島県立医科大学 皮膚科学講座 教授 山本俊幸先生にご解説いただきます。
▼膿疱性乾癬の症状や原因については記事1をご覧ください。『画像でみる膿性乾癬(膿疱性乾癬)-症状や原因、合併症について詳しく解説』
膿疱性乾癬は乾癬のなかでもまれな疾患で、なかには他の病態と鑑別が難しいケースもあります。膿疱性乾癬の診断はどのように行われるのか、そのフローを見ていきましょう。
膿疱性乾癬の診断では、皮膚の臨床症状をみていくことが最も重要です。皮膚科を専門としている医師であれば、皮膚の臨床症状をみることでだいたいどの疾患であるかを判断することが可能です。
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こうした臨床症状を確認していくことで膿疱性乾癬の診断の大きな手掛かりを得ていきます。
また皮膚生検や、血液検査などが行うことでより確実な診断へと導いてきます。
膿疱性乾癬では全身性の炎症がおきていることがありますので、血液検査では炎症マーカーの項目で数値の上昇がみられます。しかし、こうした炎症マーカーの異常値はそのほかの疾患を発症した際にもみられるため、膿疱性乾癬に限ったことではありません。
現在、膿疱性乾癬に特異的な(膿疱性乾癬を発症したときにだけ反応する)バイオマーカーは報告されておらず、血液検査の結果だけで診断を行うことは難しいでしょう。そのためまずはやはり臨床症状をみていくということが診断ではとても重要になります。
膿疱性乾癬のような症状は、薬剤を使用してアレルギー反応を起こしたときにもあらわれることがあります。こうした薬剤によって誘発される皮疹は薬疹(やくしん)とよばれます。膿疱性乾癬を診断する際には薬疹との鑑別が一番問題となります。薬剤を複数回使用している場合には「薬剤を使ったあとに症状があらわれた」ということがわかるかもしれませんが、薬剤を使用するのが初回の場合には、薬疹であることに気が付きにくくなります。
また、もともと乾癬を発症しており、その乾癬のうえに膿疱ができた場合には、膿疱性乾癬ではなく「乾癬の膿疱化」と判断されることがあります。
そのほかもともと乾癬(尋常性乾癬)を発症していた患者さんが、なんらかのきっかけで全身に症状が広がり膿疱ができて膿疱性乾癬になったものの、治療がうまくいくともとの尋常性乾癬にもどっていくというようなケースもあります。このようにひとりの患者さんの病態が尋常性乾癬へ、膿疱性乾癬へとシフトしていくような場合もよくみられます。
以前は、膿疱性乾癬の治療に使用できる薬剤の種類は限られていました。症状を改善させることができる内服薬はありましたが、服用量が多くなると肝機能障害や腎機能障害を引き起こしてしまうという副作用が懸念されていました。そのほかにも、血中の中性脂肪の量が上昇してしまう、手足や唇の皮がむけてきてしまうなどの副作用や、爪の症状には効果が表れにくいなどの点が報告されていたことから、さらなる治療方法が求められていました。
そうしたなか2010年に乾癬に対して「生物学的製剤」が使用できるようになったことで、膿疱性乾癬の治療は大きく変わりました。
生物学的製剤とはバイオ製剤ともよばれる新しいタイプの薬剤で炎症を抑えるはたらきをもちます。生物学的製剤が登場したことで乾癬の治療、とりわけ膿疱性乾癬の治療は大きく改善されました。
こうした薬剤の登場は、膿疱性乾癬の患者さんにとって大きな福音となりました。患者さんのなかには、治療によって症状が改善されても、突然再発してしまう方もおり、そうした患者さんは日々いつ再発してしまうのかと不安を抱えて過ごされていました。さらに2~3歳から膿疱性乾癬を発症する方もおり、その場合には治療で症状が改善したとしても一生、この病気を抱え続ける苦悩を抱えていらっしゃいました。
しかし生物学的製剤はより大きな改善を期待できるとともに、再発も大きく抑制できる薬剤であると考えられ、患者さんの負担を大きく軽減していくことが可能になってきました。
こうした大きな症状改善を期待できる生物学的製剤は「人生を変える薬(ライフチェンジングドラッグ)」ともよばれています。生物学的製剤はそれほど膿疱性乾癬治療において劇的な変化をもたらした薬剤であるといえるでしょう。
生物学的製剤は多くの患者さんで改善を見込める薬剤ですが、なかには当初よりも症状が改善されなくなってきた、次の薬剤を投与するまでに効果が持続しないといった方もいらっしゃいます。その場合には他の種類の生物学的製剤への切り替えを検討していくことがあります。こうしてより患者さん個々の病態に合った薬剤を持続して使用し続けることが必要になっていきます。
また、なかには生物学的製剤を使用できない患者さんもいらっしゃいます。たとえば過去5年以内がんを患った方、結核、重症の心不全、ウイルス性肝炎を発症されている方では生物学的製剤のような免疫抑制作用のある薬剤の投与はできません。そのためこの薬剤を使用していきたいにもかかわらず、それが叶わないという方もいらっしゃいます。
最近では顆粒球・単球吸着除去療法(GMA)という治療方法があらたに保険適用され、膿疱性乾癬治療の選択肢がさらに広がっています。
顆粒球・単球吸着除去療法とはこれまでの治療法とは全く異なる治療方法であり、炎症を起こす原因となっている、血液中に流れる活性化しすぎた好中球や単球を除去することで症状を改善させる治療法です。上図のように血液を体外の専用カラムに通していくことで、カラムに活性化しすぎた好中球や単球が吸着され、取り除くことができます。
こうした治療方法は生物学的製剤では十分な改善を見込めない方や、生物学的製剤を使用できない方にも行うことができる、新たな治療選択肢といえます。
近年、乾癬全体で大きく治療が変容してきました。特に膿疱性乾癬のような特殊なタイプの乾癬には早期に積極的な治療を行うことが求められることがおおいため、こうした新しい治療法が登場してきたことは、非常に大きなメリットといえるでしょう。これからも新規の生物学的製剤が登場してくる見込みですので、よりよい治療法が確立していくことが望まれます。
膿疱性乾癬の患者さんは、非常に辛い症状を抱え、さらに症状が改善してもいつ出てくるかわからない不安を常に抱え続けている方もいらっしゃいます。そうした方々の不安がより軽減されるということは、非常によいことです。今後もさらに治療のデータが蓄積され、よりよい治療がなされていくことが期待されます。
福島県立医科大学 皮膚科学 教授
山本 俊幸 先生の所属医療機関
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