2023年10月9日(月・祝)、希少な皮膚の病気である膿疱性乾癬について多くの方に知ってもらうことを目的に、市民公開講座『知っていますか?膿疱性乾癬』が東京ミッドタウン日比谷で開催されました。
プログラム1では、近畿大学医学部 皮膚科学教室 主任教授 大塚 篤司先生による講演『膿疱性乾癬について』が行われました。プログラム2では、膿疱性乾癬の患者さんであり、一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会 事務局長/NPO法人東京乾癬の会 P-PAT 理事長を務める添川 雅之さんから『患者さんからのメッセージ』が届けられました。プログラム3では、大塚 篤司先生、添川 雅之さん、あきた乾癬友の会(秋田いなほの会) 副代表であり膿疱性乾癬のお子さんを持つ髙岡 千菜美さんにより『病気や悩みとうまく付き合うために』というテーマでトークセッションが行われました。本記事では、当日の講演内容についてレポートします。
【目次】
まずは大塚 篤司先生から、膿疱性乾癬という病気についての解説が行われました。
膿疱性乾癬とは、赤くなった皮膚に膿を伴う水ぶくれ(膿疱)がたくさんでき、発熱や関節の痛み、だるさなどの症状が現れる病気です。「かんせん」という響きから、感染する病気と誤解されることもありますが、ほかの人に感染する病気ではありません。
乾癬には、尋常性乾癬、滴状乾癬、乾癬性関節炎、乾癬性紅皮症などさまざまな種類があり、その1つに膿疱性乾癬があります。膿疱性乾癬は限局型(体の一部に症状が現れる)と汎発型(全身に症状が現れる)に分類され、汎発型の膿疱性乾癬は指定難病とされています。
日本において、乾癬の患者さんは約43万〜56万人いらっしゃいます。
そのうちの約1%が膿疱性乾癬(汎発型)の患者さんとされており、指定難病医療費の助成を受けている患者さんは全国で2,000人(2020年時点)ほどと、とても珍しい病気です。
膿疱性乾癬は小さなお子さんから年配の方まで幅広い年代の方にみられ、どのような方でもかかる可能性があります。発症のピークは男性が40歳代と60歳代、女性が20歳代とされており、日本における男女比としては、男性1に対し女性1.2と、やや女性に多い傾向がみられます。
症状には個人差がありますが、皮膚症状に加えて全身症状が現れる場合もあり、生活に支障が出ることがあります。ご自身もしくは身近な方に下記のような症状がみられる場合、まずは日本皮膚科学会認定の皮膚科専門医までご相談ください。
また膿疱性乾癬になると、主に関節炎やぶどう膜炎(目の中で炎症が起こる病気)を合併しやすくなります。関節の痛みや目の痛み、かすみなど、気になる症状が現れたら早めに主治医に相談しましょう。
膿疱性乾癬は、細菌やウイルスから体を守る“免疫システム”に異常が起きることで発症すると考えられていますが、発症のしくみは、まだはっきり分かっていません。
“免疫システム”の異常は、乾癬を発症しやすい体質や、体を取り巻く環境が影響しているといわれています。体質とは、炎症の起こりやすさなど生まれもった遺伝的な性質です。体を取り巻く環境には、感染症や精神的ストレス、薬剤の使用、気候、睡眠不足、食事などのほか、糖尿病や肥満といった病気も挙げられます。
なお、最近の研究では、炎症性サイトカインというタンパク質が膿疱性乾癬の症状を悪化させたり膿疱を作ったりすることが分かってきました。炎症性サイトカインにはTNF-α(ティーエヌエフ・アルファ)、IL(インターロイキン)-17、IL-23、IL-36などがあり、中でもIL-36が膿疱性乾癬の発症に深く関わっていると考えられています。
膿疱を伴った赤い発疹、発熱、関節の痛みなど膿疱性乾癬が疑われる症状がみられる場合、血液検査や皮膚生検を行い、診断へとつなげます。また、必要に応じて遺伝子検査を行う場合もあります。
膿疱性乾癬の治療方法には、全身療法、外用療法(ぬり薬)、光線療法などがあります。症状やライフスタイルに合った治療法を選択することで、患者さんが抱える悩みの解決や生活の質(QOL)の向上を目指します。
膿疱性乾癬の治療法は近年進化し、寛解(症状がほとんど現れない状態)の維持が期待できるようになってきています。寛解を目指すためには納得して前向きに治療を受けることが大切です。主治医や患者会の方に相談しながら、病気とうまく付き合っていけるとよいでしょう。
全身療法には、以下の3つの治療法があります。患者さんによっては使用できない薬や長期使用ができない薬もあるため、医師と相談しながら治療法を決める必要があります。
皮膚に作用する薬のほか、原因となる免疫や関節に作用する薬などがあります。
免疫の異常に関わる炎症性サイトカインに対して直接作用する薬で、どの炎症性サイトカインに作用するかは生物学的製剤の種類によって異なります。点滴(静脈注射)と皮下注射があります。
血液の中から炎症に関わる白血球を取り除くことで炎症を抑える治療法です。
慢性期の患者さんに処方されることがある治療薬です。主にステロイド(副腎皮質ホルモン)外用薬が使われ、重症度や皮膚症状に応じて適切な強さの薬が選択されます。
紫外線の持つ免疫のはたらきを抑制する作用を利用した治療法です。急激な発熱がなく、全身症状が落ち着いている慢性期の患者さんに対して選択されることがあります。照射する紫外線の種類によって、PUVA療法とUVA療法があります。
膿疱性乾癬の治療では、高額療養費制度や難病医療費助成制度など医療費の負担を軽減するための制度を活用できるケースもあります。治療についてのほか、医療費についても分からないことや不安なことがある場合には、1人で悩まずに、医療機関の相談窓口や自治体のソーシャルワーカー、申請窓口などにご相談ください。
ここでは、『患者さんからのメッセージ』として、膿疱性乾癬の患者さんである添川 雅之さんが、ご自身の体験をお話されました。
※この報告は1人の患者さんの経過を示したもので、すべての患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。
私は、14歳のときに尋常性乾癬という乾癬を発症しました。最初は肩に小さな皮疹が1つあるだけで、たいした病気とは思っていませんでした。全身に皮疹が広がったのは22歳のときで、大学の卒業論文の執筆のため忙しくしていた時期でした。そのとき初めて全身に広がる病気なのだと思ったものの、そのうち治るだろうと考えていました。
その後、28歳のときに膿疱性乾癬(汎発型)を発症しました。高熱と全身の皮膚症状に悩まされ、34歳までの7年間は、入退院を繰り返し寝たきりの状態の時もあり、「どうしてこんなことに」と悩みを抱えて過ごしていました。34歳で社会復帰した後も、ときには再発し、思うように生活できない時期もありました。43歳のときから生物学的製剤が使えるようになり、それ以降、一時的に悪化することはあるものの、ほぼ寛解を維持しながら社会人として日常生活を送ることができています。
膿疱性乾癬では、風邪などをきっかけに体調を崩すと、突然、急性期(フレア)がやってきて体中に皮疹が現れたり高熱が出たりすることがあります。このようなとき、私の場合は、皮疹に薬を塗るだけでも針で刺されたような刺激を伴う痛みがあります。40℃前後の高熱が続き生命の危機を感じたこともあり、高熱が下がった後も微熱や倦怠感が続くため日常生活に支障が生じます。
また、膿疱性乾癬の患者さんの3割程度は乾癬性関節炎を合併することがあるといわれており、私も背骨や指が痛むことがあります。乾癬性関節炎の症状も相まって、長期にわたって慢性的な倦怠感に悩まされています。
膿疱性乾癬の治療には、免疫抑制薬やビタミンA誘導体などの内服薬、光線療法、ステロイド(副腎皮質ホルモン)や活性型ビタミンD3の外用薬など、さまざまな方法があります。私も主治医の先生と治療法を模索してきましたが、症状を軽快させるには、なかなか難しいものがありました。
しかし、2010年に生物学的製剤が認可されてからは、私も処方してもらい、寛解を目指すことも期待できるようになりました。それでも体調を崩すと突然、急性期の状態になることがあります。
微熱や倦怠感が続くと仕事のパフォーマンスが低下しますし、遊びに出かけるのも億劫です。乾癬性関節炎を合併していると体の痛みもあるため、やるべきことができず、憂うつな気分になることもあります。
また、体の見える部分に皮疹が出ると、「病気をよく知らない人が見たらどう思うだろう」と不安になります。もし膿疱性乾癬の患者さんが周りにいたら、優しく接してあげてほしいと思います。
治療の進歩により、しっかり治療を続けることで、よい状態を長く維持することも期待できるようになりました。一方で、今はインターネット上にたくさんの治療に関する情報が溢れています。信頼できる主治医の先生に相談しながら、病気に関する正しい知識を身に付けて、科学的根拠のない情報に惑わされず治療を続けることが大切だと思います。
また、急性症状を引き起こさないよう、できるだけ規則正しい生活を送り、バランスの取れた食生活、十分な睡眠を取るよう注意して日常生活を送るようにしています。
膿疱性乾癬は珍しい病気なので、悩みを1人で抱え孤独を感じる患者さんもいらっしゃるかもしれませんが、どうか“決して1人ではない”と思っていただきたいです。
全国各地に、24の乾癬患者会があります(2023年10月現在)。患者さん同士で話し合えば、共感し響き合う部分があると思いますので、たった1人で病気に悩んでいる方がもしいらっしゃったら、患者会のホームページにアクセスしてみてください。
プログラムの後半では、『病気や悩みとうまく付き合うために』をテーマに、皮膚科の医師である大塚 篤司先生、働きながら膿疱性乾癬の治療を続けている添川 雅之さん、膿疱性乾癬のお子さんを持つ髙岡 千菜美さんによるトークセッションが行われました。
添川さん:これまで、膿疱性乾癬の治療のために長期間仕事を休むこともありました。当時は、やはり周りに迷惑がかかるのではと心配しましたし、何より悔しさがありました。
現在は、症状や病気のことを上司や同僚に話し、“大変な病気なのだな”と分かってもらっていますし、つらいときはできるだけ休ませてもらっています。また、どうしても休めないときは、適宜息抜きをしつつ仕事をしています。
大塚先生:主治医の先生に、病気に関する注意点や入院する可能性があることなどを記載した診断書を書いてもらっておくと、何かあったときにも職場に伝えやすいのではないでしょうか。
添川さん:私は大学を卒業してから同じ職場でずっと働いていますが、長期入院のときには会社に診断書を提出していました。これまでも何度かそういったことがありましたが、診断書のおかげで会社も理解してくれたと感じます。
髙岡さん:私の子どもは、出生時から肺の機能が低く入院していました。首の周り、耳の後ろ、腋などに皮疹が現れたのはもうすぐ退院という頃です。皮膚生検で膿疱症が疑われ、その後、高熱が1週間ほど続いたため膿疱性乾癬と診断を受けましたが、診断がつくまでには1か月ほどかかりました。
大塚先生:お子さんで膿疱性乾癬を発症するケースはあまり多くないので、診断がつくまでが大変だと思います。大学病院で診断がつくまでに数か月、あるいは1年ほどかかったケースも聞かれますので、1か月でも早いほうかもしれません。
髙岡さん:私の場合は、たまたま大学病院に入院していたので、診断がついたのは早いほうだと思います。
子どもは入院中、ずっと泣いていてとてもつらそうでした。皮疹や膿疱が現れ皮膚も剥がれ落ちるためか、シーツの取り替えはほかのお子さんの後に別で行われていて、親としてはショックに感じることもありました。
大塚先生:膿疱性乾癬はほかの人にうつる病気ではありませんので、診断がつけばシーツ交換を分ける必要はないと思います。診断前は、感染症の可能性も考慮し対応する必要があったのでしょう。
髙岡さん:私は子どもをあやすことしかできませんでしたが、診断後、まずは乾癬について知ることから始めました。そして、知ったことをSNSで発信し続け、乾癬患者さんや、膿疱性乾癬のお子さんを持つ保護者の方とのつながりができました。さらに、市民公開講座に参加することで、多くの方が悩んでいると知りました。市民公開講座では患者会の会長の方とも出会うことができたのですが、お会いする前から私のSNSでの活動を知ってくれていて、たくさん励ましていただきました。
添川さん:患者会の方は皆さんフレンドリーだと思います。自分と同じつらい思いをしている方を放っておけないメンバーが多いので、1人で困っていたらぜひ患者会のドアを叩いてください。きっとすぐ仲間になれると思います。
大塚先生:同じ苦労を乗り越えられた方が集まっているので、通常の人間関係より深いところでつながれるのかもしれませんね。
添川さん:初対面でも、膿疱性乾癬患者によくあるエピソードを語り合うことで、ずっと前から友達だったかのような感覚になれることがあります。膿疱性乾癬であることや、つらかったエピソードをためらわずに語っていただければと思います。
大塚先生:膿疱性乾癬は決して恥ずかしい病気ではありません。負い目を感じる必要もありませんので、抱えている思いを打ち明けていただくことで生活もしやすくなるのではないでしょうか。
添川さん:日常生活で心ない言葉をかけられても、分かり合える仲間がいるだけで乗り越えられるということもあると思います。
髙岡さん:私は“共有と共感”が必要だと思います。つらいときに話せる相手がいるかいないかで環境は大きく変わりますので、患者会に限らず話せる相手がいるとよいと思います。
髙岡さん:膿疱性乾癬を抱える子どものケアをすることも大事ですが、子どものためにも自分のことも大切にしなければならないと思っています。“人生の半分以上を笑っていたい”という言葉をモットーに、落ち込んでも最後に笑っていられたらよいとポジティブに考えるようにしています。
今、子どもは治療を続けながら保育園に通っているので、病気のことを先生に伝えるだけではなく“こういうときはこう対処してほしい”という書類を自分で作って保育士の先生に渡しています。日焼けは皮疹の悪化につながることもあるようなのですが、外遊びの時間の目安までは膿疱性乾癬の診療ガイドラインにも基準がないので、私が設定して伝えています。
大塚先生:小さいお子さんの患者数が少ないので、小児の膿疱性乾癬を専門にする医師にたどり着くことが難しい場合もあるかもしれません。髙岡さんのように、保護者の方も病気について勉強していく姿勢が必要になるかと思います。
添川さん:お医者さんが神さまと言われた時代もありました。しかし、今は患者側も必要な知識を身につけ、医師とよい信頼関係を築きながら、お互いに納得したうえで治療を進めていくことが大事だと思います。そうすることで体調だけでなく心の安定にもつながっていくのではないでしょうか。病院が苦手な患者さんも多いかもしれませんが、私は主治医の先生と信頼関係を築けているので通院は苦痛ではないと感じています。
髙岡さん:うちの子どもの場合は、採血が好きなので病院に行くのを嫌がったことはありません。また、保護者として受け身の姿勢ではなく、分からないことは積極的に質問するようにしています。
大塚先生:私自身は患者さんと接するとき、怒らず優しく接するように心がけています。皮膚の病気は、見た目に影響するため自己肯定感が低くなる方もいますが、治療で症状が改善されれば自信も少しずつ上向きになると思います。
診察時のアドバイスとしては、質問や伝えたいことは事前にメモにまとめて、それをもとにお話しされるとよいと思います。医師の前で緊張される患者さんも多いのではないでしょうか。
髙岡さん:私は、診察の前日には薬の残量と皮膚の状態をチェックし、日常生活で疑問に思ったこともメモにまとめ、先生に聞き忘れないようにしています。
大塚先生:医師もつい専門用語を使ってしまうことがあるので、分からない言葉があればその場で聞き直してください。主治医の先生と相談しながら、不安を解消していくのがよいと思います。
添川さん:今の時代は、“シェアード・ディシジョンメイキング(SDM)”*が重要だといわれています。分からないことは質問し、気が進まない治療であればほかの治療はないかと相談して、納得したうえで一緒に治療を決めていくことが大事だと思います。
*シェアード・ディシジョンメイキング:患者さんの価値観や背景について考慮して、医師(医療者)と患者さんが治療の内容を話し合い、お互い納得したうえで治療方針を選択・決定していくためのプロセス。
会場には、膿疱性乾癬の患者さんへの応援メッセージが書かれた色とりどりのランタンが飾られました。これは、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社が一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会とともに推進している“Illuminate Tomorrow”という啓発プロジェクトの取り組みの一環です。膿疱性乾癬という病気や患者さんの思いを知ることで、当事者やご家族として病気に向き合っている方々を支援したいという思いから、この啓発プロジェクトが生まれました。
会場には100を超えるメッセージとともに「患者さんとその未来をIlluminateしたい」という思いがランタンで表現され、SNS上でも500を超える応援メッセージが集まりました。
大塚先生:患者さんや、そのご家族の方はいろいろな悩みを抱えています。膿疱性乾癬という病気について知ることが最初の一歩です。それによって、患者さんの生きやすい世界に変わっていくのではないかと思います。
髙岡さん:このような場に呼んでいただけて光栄ですが、私は皆さんと同じ“子どものケアをする親”です。多くの方が、膿疱性乾癬について広めてくださることをとても嬉しく思います。
添川さん:膿疱性乾癬は非常に珍しい病気のため、孤独を感じ自信を失っている患者さんもいるかと思います。しかし、未来は暗いわけではありません。私たちと一緒にいろいろなことを考えながら歩んで行きましょう。
近畿大学医学部皮膚科学教室 皮膚科 主任教授
大塚 篤司 先生の所属医療機関
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