乾癬は全身の皮膚に特徴的な皮疹が生じる慢性的な皮膚の病気で、日本には約43〜56万人の患者さんがいるとされています。では、乾癬はどのようなことがきっかけで発症するのでしょう。今回は乾癬の病態やメカニズムを中心に、乾癬とはどのような病気なのか、近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授である大塚 篤司先生にご解説いただきました。
乾癬とは、皮膚表面の細胞が過剰に増殖することで、銀白色の粉(鱗屑)を伴う赤く盛り上がった紅斑が生じる慢性的な皮膚の病気のことです。
乾癬には大きく5つのタイプがあり、乾癬の80〜90%を占めるのが、前述の症状を特徴とする“尋常性乾癬”です。
次に多いのが“乾癬性関節炎”で、皮膚の症状に加えて全身のあらゆる関節に痛みや腫れが生じます。また、アキレス腱の痛みや爪の変形・へこみが起こることもあります。乾癬性関節炎の患者数は年々増加しており、最近の調査では乾癬の約10%を占めているといわれています。
そのほか、小さな紅斑が全身に出現する“滴状乾癬”や、全身の80%以上が赤くなる“乾癬性紅皮症”と呼ばれるものもあります。より重症度の高い“膿疱性乾癬”では、発熱や倦怠感、全身の紅斑とともに、膿疱(膿がたまったもの)が出現することが特徴です。
なお、どのタイプの乾癬であっても人に感染する(うつる)ことは決してありません。
乾癬は特徴的な皮膚症状から、通常は皮膚の観察によって診断できます。ただし、判断に迷う場合は、皮膚の一部を切り取って顕微鏡で詳しく観察する皮膚生検を行うこともあります。また、診断の際には乾癬性関節炎を見逃さないために、関節症状の有無も確認します。
乾癬と思われる症状が繰り返し出現する場合は、軽視せずに皮膚科を受診しましょう。その際、関節や爪に症状がある場合には必ず診察時に医師に伝えてください。中には、関節症状を感じているにもかかわらず皮膚の症状とは関係ないと思い、医師に伝えずに診断が遅れてしまうケースもあります。残念ながら2021年現在の医療では、一度変形してしまった関節を元に戻すことはできません。早く見つけて早く治療するためにも、少しでも気になることがあれば医師に相談してください。
それでは、乾癬の症状はどのようにして引き起こされるのでしょう。それには、主に“Th17細胞”が大きく関与しています。
皮膚に引っかくなどの外的な刺激が加わると、特定の樹状細胞からTNF-α(アルファ)やIL-23というサイトカイン*が産生されます。このうちIL-23にはTh17細胞を分化・増殖させる作用があり、増殖したTh17細胞からは、さらにまた別のサイトカインであるIL-17が産生されます。そして、最終的にIL-17が表皮にはたらきかけることによって、皮膚の細胞の増殖や炎症が引き起こされます。乾癬の患者さんでは、正常な方に比べてTh17細胞の数が過剰になっていることも分かっています。
*サイトカイン:免疫細胞などから産生されるタンパク質であり、細菌やウイルスといった異物の排除など免疫や炎症反応において重要な役割を担っている。サイトカインには、主にIL(インターロイキン)、IFN(インターフェロン)、腫瘍(しゅよう)壊死因子(TNF)があり、そこからさらに細かい種類に分類される。
先にもお伝えしたとおり、乾癬の症状をもたらすIL-17の産生が増える最初のきっかけが、皮膚を引っかく・擦るなどの直接的な刺激です。そのため、乾癬の症状は刺激が加わりやすい肘や膝、腰、臀部、頭部に出やすい特徴があります。また、感染症や肥満、喫煙などによってもIL-17の産生が増え、皮膚に乾癬の症状をもたらすことも分かっています。
しかし、どういった方がこれらのきっかけで乾癬を発症するのか、根本的な原因については分かっていません。乾癬を発症しやすい何らかの遺伝的素因があることまでは分かっていますが、具体的にどのような遺伝的素因が乾癬を引き起こすのかについては、解明に向けた研究が行われている段階です。
乾癬の根本的な原因は明らかではないものの、尋常性乾癬を伴わない膿疱性乾癬については、“IL-36受容体アンタゴニスト”の遺伝的な欠損が原因であることが分かっています。IL-36受容体アンタゴニストは炎症を抑制する作用を持っており、これが欠損することでIL-1やIL-8といった種類のサイトカインの産生が増殖してしまいます。これによって、膿疱性乾癬の特徴的な症状である、発熱や全身の紅斑、無菌性の膿疱が出現します。
発症のきっかけとしては、IL-36受容体アンタゴニストの遺伝的な欠損を持つ方に、感染症や抗生剤・ステロイドなどの薬剤投与、妊娠などの因子が加わることで起こるとされていますが、なぜこれらが引き金になるのかは明らかではありません。
これまでの研究で皮疹ができるメカニズムの解明は進み、皮疹に対する有効な治療法も確立されてきました。しかし、乾癬の患者さんの多くが感じる“かゆみ”の症状がなぜ起こるのかについては、あまり研究が進んできませんでした。そこで、私たちの研究グループでは乾癬のかゆみが起こるメカニズムについて研究を行いました。これによって、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)という血管を新しく生み出す作用を持つ物質が乾癬のかゆみに関係していることが分かっています。
そのほかに、病気ごとのかゆみの質の違いについても、現在研究を進めています。かゆみの症状は乾癬だけでなく、アトピー性皮膚炎などのほかの皮膚疾患でも生じますが、どれも同じ“かゆみ”として一括りにされています。しかし、そこにかゆみの質の違いがあるのではないかと考え、研究によってその違いが少しずつ明らかになってきている段階です。もし、かゆみの質の違いが解明されれば、それぞれの病気に対するかゆみにピンポイントに効く治療薬が登場することも期待されます。
乾癬の治療法は、(1)外用療法、(2)光線療法、(3)内服療法、(4)生物学的製剤の4つに分かれます。通常、(1)から開始して症状に応じて段階を上げていきます。
外用療法では、皮膚の炎症を抑える“副腎皮質ステロイド”と表皮細胞の増殖を抑える“活性型ビタミンD3”の塗り薬を使用します。
光線療法は、免疫反応を抑制するという紫外線のはたらきを利用した治療法です。太陽からの紫外線には肌にとって有害な波長も含まれていますが、光線療法で用いる紫外線からはそのような有害な波長は取り除かれています。光線療法には、ナローバンドUVB療法やPUVA療法、エキシマライトといった種類があります。
内服療法では、過剰な免疫反応を抑える“免疫抑制剤”、皮膚細胞の異常な増殖を抑える“レチノイド製剤(ビタミンA誘導体)”、免疫細胞のはたらきを抑制して炎症を鎮める“PDE4阻害剤”などの飲み薬を使用します。
生物学的製剤とは、生物のタンパク質などをもとに作った薬剤で、症状の原因となるサイトカインを抑制する効果があります。2021年現在、乾癬に対しては10種類の生物学的製剤があります。
乾癬の患者さんでは、皮疹がない正常な皮膚に刺激が加わることで、新たな皮疹ができてしまうことがあります。かゆみがあると患部をかきたくなりますが、なるべく皮膚に刺激を与えないことが大切です。体を洗うときにはせっけんをよく泡立てて手で優しく洗いましょう。また、服はなるべく肌に触れないゆったりしたものを選んでいただくとよいです。
そのほか、喫煙や肥満、感染症も皮疹の悪化要因です。特に喫煙は重要な悪化因子ですので喫煙している方は禁煙を徹底してください。肥満が気になる方は、適度な運動などで適正体重に戻す、あるいは維持することを意識しましょう。ただし、関節炎の症状がある方は運動による関節症状の悪化が懸念されるので、運動する際には主治医の先生に相談してください。感染症に対しては、基本的な手洗いうがい、マスクの着用などを心がけるようにしましょう。
尋常性乾癬では、より重症度の高い乾癬性関節炎や膿疱性乾癬へ移行してしまうケースもあるため注意が必要です。関節や爪の症状、発熱、倦怠感、膿疱といった兆候がみられたら、早急に医療機関を受診しましょう。
乾癬性関節炎の発症要因を調べた調査では、ストレス、大きなけが、引っ越し、繰り返す口内炎などで発症リスクが高まることが分かっています。このうち、ストレスは膿疱性乾癬を引き起こすきっかけにもなります。ストレスを完全に取り除くことは難しいと思いますが、できるだけストレスをため込まないよう、精神的・身体的に無理のない生活を送っていただくことが大切です。感染症も膿疱性乾癬の発症要因ですので、感染対策を怠らないようにしましょう。
これまで乾癬の患者さんには、「見た目が気になって温泉に行けない」、「肌の露出ができない」などの悩みを抱える方が多くいらっしゃいました。しかし、生物学的製剤の登場などによって、この10年間ほどで乾癬の治療法は劇的に進歩しました。現在では、自分が乾癬だということを忘れられるほど、症状が改善するケースもあります。
もし、乾癬の患者さんで日常生活において何か困っていることがある場合には、乾癬を専門としている医師にぜひ相談いただければ、今よりも状況を改善できるかもしれません。また、乾癬はしつこく繰り返す症状から途中で治療を諦めてしまう方も少なくありませんが、治療を続けることで症状の改善が期待できます。決して諦めず、治療に取り組んでいただきたいと思います。
近畿大学医学部皮膚科学教室 皮膚科 主任教授
大塚 篤司 先生の所属医療機関
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