みなさんは乾癬(かんせん)という病気をご存知でしょうか。乾癬とは皮膚に赤い皮疹がみられ、そのうえに銀白色で厚みのある角質ができ、その部分の皮膚がぽろぽろとはがれてしまう症状が多くみられる疾患です。
乾癬と診断された場合には「尋常性乾癬」であることがほとんどです。しかし、なかには特殊なタイプも存在します。その特殊なタイプのなかで、最もまれだといわれているものが「膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)」です。膿疱性乾癬では体の一部、もしくは全身に多数の膿疱(膿の腫れもの)があらわれ、その症状が重症になると難病と指定されることがあります。
膿疱性乾癬とはいったいどのような疾患なのでしょうか。その症状や症例写真、原因などについて、乾癬に詳しい福島県立医科大学 皮膚科学講座 教授 山本俊幸先生にお話を伺いました。
乾癬という言葉を耳にしたことがある方は多くいらっしゃると思います。
乾癬のなかでも最もポピュラーな病態は「尋常性乾癬」とよばれるものです。尋常性乾癬とは、境界がはっきりとした赤く盛り上がった皮疹(紅斑:こうはん)とともに、銀白色の皮膚の薄皮(鱗屑:りんせつ)があらわれる疾患で、この症状は全身のどの部分にもあらわれます。尋常性乾癬は、乾癬の約90%を占める病態ですので、乾癬という言葉を耳にすると、この尋常性乾癬の症状を思い浮かべる方が多いでしょう。
一方で、乾癬には尋常性乾癬のほかにもいくつかの特殊なタイプの病態が存在します。たとえば関節に痛みがあらわれる「関節症性乾癬」、扁桃腺(へんとうせん)の腫れとともに乾癬の症状があらわれるが一過性で症状がおさまっていく「滴状乾癬」などが挙げられます。そして、そうした特殊なタイプのひとつに、今回ご説明する「膿疱性乾癬」があります。
膿疱性乾癬は、膿疱(のうほう)という膿が溜まったものがみられるという特徴がみられる乾癬です。膿疱性乾癬は乾癬のなかで最も発症頻度が少ない病態で、乾癬のうちの約1%程度と考えられています。
膿疱性乾癬のなかでも症状が全身にわたり重症となるもの(汎発型膿疱性乾癬)は、国の指定難病に指定されています。重症の患者さんでは全身に膿疱があらわれるだけでなく、発熱や脱水症状などさまざまな症状がみられるようになります。こうした重い症状があらわれた場合には、全身に炎症があらわれている状態ですので、患者さんはぐったりとしてしまいます。
そうした汎発型の膿疱性乾癬の患者さんでは、症状が重篤になるだけでなく、治療の負担も大きくなってくるため、難病医療費助成制度によって医療費等の一部が助成されます。
膿疱性乾癬は、大きく二つの種類に分けられます。
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・限局型(げんきょくがた)…体の一部にのみ皮疹が生じる
・汎発型(はんぱつがた) …全身の広い範囲にわたって皮疹が生じる
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重症ととらえられるのは全身に症状があらわれる汎発型のほうです。この汎発型は難病に指定されており、これまでご紹介してきたように重い症状がみられます。
さらに汎発型では下記のようなタイプに分類されます。
このうち、小児汎発性膿疱性乾癬、疱疹性膿痂疹、稽留性肢端皮膚炎の汎発化は非常にまれな症例です。膿疱性乾癬の汎発型という場合には、ほとんどのケースで急性汎発性膿疱性乾癬であると考えてよいでしょう。
原因はもともと膿疱性乾癬を発症しうる遺伝子的・体質的な素因にあると考えられます。こうした素因を持っている方には症状があらわれる可能性がより高まるでしょう。こうした素因を持っている方に、さまざまな要素(感染症・ストレスなど)が加わることによって突然症状があらわれてくると考えられます。
近年では乾癬の発症に関与すると考えられる遺伝子の特定も話題になっています。ある報告によると、もともと乾癬の発症は認められていなかったのに、突然膿疱性乾癬の症状があらわれたという方の遺伝子を調べてみると、炎症のブレーキ役となる物質(インターロイキン36※1のレセプターアンタゴニスト※2)をコードしている遺伝子(IL36RN遺伝子)に異常があらわれていることが明らかにされています。つまりこの遺伝子異常があることで、炎症反応のブレーキがはたらかない状態ですので、いつまでも炎症がおさまらなくなってしまうのです。膿疱性乾癬の患者さんすべてにこの遺伝子異常がみとめられているわけではありませんが、発症機序のひとつにはこうした遺伝子変異が関わっていることが報告されています。
1インターロイキン36…炎症性のホルモン(サイトカイン)
2レセプターアンタゴニスト…特定の物質が受容体に結合することを阻害するもの。この場合では炎症反応の強力なドライバーであるインターロイキン36の作用を阻害する物質である。
膿疱性乾癬の症状は、徐々にではなく急にあらわれるケースが多いです。症状があらわれるきっかけにはさまざまな要因が考えられています。
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もっとも大きなきっかけになるのは感染症でしょう。喉が痛い、風邪をひいたといったことがきっかけで症状があらわれることが多くあります。
また一度症状が軽快・改善された場合でも、こうした要因によって再度発症・悪化してしまう場合もあります。ですから、いつ再発してしまうのかと常に心配される患者さんもいらっしゃいます。
膿疱性乾癬では、一般的な乾癬(尋常性乾癬)とは少し違った症状があらわれます。
尋常性乾癬では先ほどもお話したように、紅斑のうえに厚みのある銀白色の角質(鱗屑)があらわれます。さらに膿疱性乾癬ではそうした症状に加え、皮疹のうえに細かな膿疱があらわれます。
▼実際の症例写真は次項の「画像でみる膿疱性乾癬の症状」をご参照ください。
膿疱の大きさは1~2mm程度であり、細かなものが多数あらわれます。場合によっては膿疱がつながってより大きな膿疱が形成されます。こうしてできた大きな膿疱は「膿海(のうかい)」とよばれます。つながって大きくなった膿疱は、深く広がっていくのではなく、横方面に浅く表面を這うように広がります。
膿ができていると、他の方にもうつってしまうようなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、膿疱性乾癬は感染する病気ではありません。膿疱性乾癬であらわれる膿は、細菌などによって膿んでしまったものではなく、血液中の好中球が活性化して凝集したものです。そのため膿は無菌性であり、他の方にうつるものではありません。
「膿疱性乾癬の種類」でもご紹介しましたが、膿疱性乾癬のなかでも全身に広く膿疱があらわれる患者さん(汎発型)では、発熱、脱水症状、関節の痛み、手足のむくみ、血液検査の異常(炎症反応が高い)など、非常にさまざまな全身症状がみられます。
では実際に症例写真を用いて、膿疱性乾癬の症状をみていきましょう。
こちらは膿疱性乾癬の症例写真です。紅斑のうえに1mm程度の点状の浅い膿疱がたくさんあらわれています。
こちらは膿疱性乾癬の限局型の患者さんです。
こちらは足の部分にのみ症状があらわれています。紅斑の表面に細かな膿疱があらわれています。足以外の部位にはこうした症状は全くみられておらず、発熱などの全身症状はみられません。
こちらは膿疱性乾癬の汎発型の患者さんです。
左側の写真では、境界線がはっきりとした赤い皮疹(紅斑)のうえに、銀白色の角質(鱗屑)がみられ、そのうえには膿疱があらわれています。一部の膿疱はつながって大きな膿(膿海)になっています。
一方で右側の写真は同じ患者さんの治療後の写真です。治療前には非常に重症な症状がみられたにもかかわらず、治療後にはこのように症状が改善しています。近年、乾癬に対して非常に有効な薬剤が登場しており、膿疱性乾癬の症状も大きく改善することが可能になっています。
▼膿疱性乾癬の治療については記事2をご参照ください。『膿疱性乾癬の診断・治療とは? 近年大きく変わった乾癬の治療法』
膿疱性乾癬の症状が重い場合には、いくつかの合併症があらわれてくる可能性があります。
近年、乾癬は糖尿病、高脂血症、動脈硬化・心筋梗塞といったさまざま全身症状を伴う全身性の疾患であるといわれるようになってきています。これは乾癬が全身性の慢性的な炎症疾患であるからだと考えられており、膿疱性乾癬、とくにその汎発型の患者さんでは、全身性の合併症を伴う可能性は十分にあると考えます。
こうした心血管疾患、呼吸器疾患、目のぶどう膜炎といった皮膚以外の炎症性の疾患の合併を抑制していくには、とにかく炎症を抑えていくということが一番の目的となります。膿疱性乾癬自体が命に危険を及ぼすことは考えられにくいですが、重症化してこうした合併症が悪化してしまうと命にかかわることも考えられます。治療では活発化してしまった炎症をしっかりと抑えていくことが必要でしょう。
近年では新規治療法の登場によって膿疱性乾癬の症状は大きく改善されるよう担ってきました。引き続き記事2では、膿疱性乾癬の診断と治療について山本先生に解説いただきます。
福島県立医科大学 皮膚科学 教授
山本 俊幸 先生の所属医療機関
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